内なる創作の女神に愛された男/DKTタンホイザー(1)

タンホイザーは、本当にしょうがない奴だなあ(←「のび太君はしょうがないなあ」って言うドラえもんの口調で)。

初見で大変なことになったDKTタンホイザーですが、通して観ましたよ。ちらっと書いてみます。ちらっとだけね。

まず。1幕だけ観て、もんのすっごくバクバク来て、こんなん最後まで観たら大変なことになるんじゃないかと懸念した件ですが、大丈夫でした。自分との相性で言うと、1幕が特別良かったみたい。だから期待通り半分・外れ半分ですね。しかし、あのまま3時間もあの調子だったらこっちの体力が持たなかったから、それで良かった気もします。つーか、あんな体験がそうそうあって溜まるか。

何から書こうかなあ。まず演奏ですが、通して聴いたら、自分にとって不思議な演奏だった。細部から言うと、あんまし好きな系統じゃないんですよ。細かな不具合が目立つし、聴いててウットリしたりもないし、私の好きな系統って瞬間々々の音の作り込みの強いタイプ、特に作り込んだ結果「誰が聴いても自然」からズラしていくタイプが好きでそのズレの不安定さに魅力を感じる人間だと自分でも思うわけですが、全然そういうのではない。って私が思っても他の人からしたら違うかもしれないけど、とりあえず自分としてはそう感じた。ところが、これ、なんかめちゃバクバク来るんですよ。序曲すごかった。ワケわかんない。心臓すごかった。本当にワケわかんない。

序曲がすごかったというのは演出もあって、なんかよく分かんないけど、序曲が終わったときにはもうオペラを1本観た気分だった。ぐったりした。

演出は、これは、よく分かる。同時に、リングを観た人には物足りないという意見が出てたけど、それもよく分かる。密度が濃くて、息もつかせぬコペハンリングのホルテン演出を期待してると、ちっと間延びする箇所もあるかもしれない。あのリングのときの「オペラじゃなくて、テレビドラマか万人向け映画を観てるみたい!」なスピード感はない。もっとも、リングのときも、最初からああじゃなくて、サイクル上演ですごく深まったんじゃないかなーなんて思う今日この頃です。

この演出は、やっぱり私にはキますねえ。ネタばれしちゃいますが、このヴィヌスはタンホイザーの半身であり、彼の創作性の側面が人の形をとった存在なのね。で、それは反社会的であり、脱秩序だったり倒錯だったりする。対して、エリザベートは彼の社会生活や愛情面。社会生活と自分の創作性(それは必然的に反社会的である)をどう折り合いを付けるかという物語。社会生活をかなぐり捨てて創作の海に溺れた人間が、ふと気付いて娑婆に帰ってくる。かつて捨てた女房は許してくれたけど世間の皆さんは許してくれぬ、と。ま、タンホイザーのコンセプトとしてはすごく真っ当というか、ありがちなのかもしれません。私にはすごくキます。やっぱり、作品の根本的な理解をしたうえで、解体して現代人にとって切実なものに組み直して提示してくれるホルテン演出はいいと思う。読み替え演出って、こういうものであるべきだと思うんだけど。

ありがちなようですが度肝を抜かれた箇所があって、それは2幕の最後です。これは書かずにおきましょう。

コンセプトはすごく分かるんですが、先に書いた通り、その瞬間々々の空間の完成度が今回は薄いかも。DKTらしく細かく微笑ましい芝居をしてますが、リングのときはもっとずっと練れてる感じがあった。そうそう。この微笑ましさがDKTの特徴で、私の愛する所以でもあります。インテリっぽい皮肉な視線じゃなくて微笑ましさに溢れてるんだよね。例えば、2幕の歌合戦のところで観客に批評家達が入ってるんだけど、席に着いた途端居眠りしちゃうの。おかしくて可愛い。


可愛いといえば、今回のアナセンでしょう。かー→わー↑いー→いー↓。ほぼ素で、ヒゲを暗い色に染められただけなのでバッチシです。アップとロングで別人みたい。ロングだと上半身球体でぬいぐるみみたい(←上半身球体のジジイをそう思って見てるのはアンタだけ←ほっといてくれ)。アップになると、ヴィヌス様にとっ捕まったときは美少年だったのかもしれないけど、その後ヴィヌスさまのところで自堕落な生活をして太った(一緒にヴィヌス様も太った)的なリアリティばっちしです!(←そんな捻ったリアリティは要らん!!)

舞台写真はこちら。 http://arkiv.kglteater.dk/OplevTeateret/Galleri/Opera/2009_2010/Tannhauser.aspx

そうそう、このタンホイザーとヴィヌス様は体型が共通しているので、その意味でも分身ぽいんですよね。ヴィヌス様の格好は黒い男装スーツだし。それで、この公演、ここが期待外れのところでもあったんだけど、私的にはタンホイザーとヴィヌス様の結びつきはすごく感じられたし身につまされたけど(なんせ自分自身が心の中にそういうものを飼ってしまいそうな人間だからさ)、タンホイザーエリザベートがイマイチ弱かったんだよなあ。Tina Kibergさんはやぱしまだよく分からんです。はっとする美しい瞬間はあるんだけどね。あと私にとってイマイチな理由は、この人、アップで見ると表情が読みにくいってのがあるんだと思う。目が語らないというか。テオリン姫もアナセンも目がめちゃ語るじゃん。でもアナセンに言わせるとアナセンのソプラノ版の人らしいから、分かるようになりたいなあ。アナセンと同じもの聴きたいもん。

ここで一旦中断します。あとちょっと書きたいことがあります。

ところで更新が滞りましたが、毎日現場仕事をやっているもので、しかも内容的に湿気も温度も高くてその湿気も性質が悪いものですから、体力をとられて大変です。バタンキューです。しかし思いのほか順調でして、数日早く自宅に帰れそうです。もう数日の辛抱です。来週も頑張るぞー!