オペラファンがオペラハウス建設に反対する12の理由

まず最初に、オペラハウスというのは人目を引くためにあえて使った単語で、正確な表現ではありません。

京都会館は、京都市の所有する1960年開館の多目的ホールで、2011年6月に「京都会館再整備基本計画」が発表され、第一ホールを解体して建て替える改修案が発表され、現在この再整備基本計画のスケジュールに沿って、2011年度で利用を停止し、2012年度から解体工事がはじまる前提で京都市は動いています。

私は、京都会館第一ホールを解体・建替する方針を問題視していますので、以下の文章は、特に断らない限りは第一ホールを対象にしたものです。

この計画の内容はステージを広く高くすることであり、その目的として「世界水準のオペラやバレエ」を公演可能な舞台とすることと説明されているので、そして以下で説明する経過から、どうもオペラが本命らしいので、バレエではなくオペラがクローズアップされ、オペラハウスとの報道があったり、この言葉を使う人がいる状況です。

というわけで、表向きは、「世界水準のオペラやバレエ」を公演可能な舞台を備えたホールにすることが計画対象であり、オペラ専用ホールではないとされています。

反対理由1/建替後も、世界水準のオペラは出来ない

建替後には、二千席強ある二階建ての現在の客席構造を保ったまま、舞台部分を大幅に拡張して、高さ27m、奥行20mの舞台を備えたホールが出来るとされています。ちなみに現在の舞台は、高さ6〜9.5m*1、奥行12mです。今の規模の2〜3倍くらいと思ってください。

この舞台高さと奥行きは、前述した通り、「世界水準のオペラとバレエ」を上演するために必要という理由で決まりました。

そして、市の文書によると、「世界水準のオペラ」とは、「ミラノ・スカラ座、英国ロイヤルオペラ、フィレンツェ歌劇場、メトロポリタンオペラ、ベルリン歌劇場、パリ・オペラ座及びウィーン国立歌劇場など」いわゆる海外有名歌劇場の引越し公演を指しています。

オペラファンの皆さんなら、これらの規模の引越し公演には「多面舞台」が必要なのは当然ご存知でしょう。多面舞台を備えたホールというのは、舞台のために客席部分と同等以上の面積が必要です。敷地の使い方から全く違うのです。そして、建替後のホールは、メイン舞台しか予定されていません。この時点で世界水準のオペラを上演することが不可能なのは決まっています。

反対理由1.5/関西では(大型)オペラハウスは供給過剰

そもそも、来日公演をターゲットとした劇場というだけで、関西のクラシックファンなら必ず思う疑問があります。

京都の近隣には、二千席級のキャパのホールとしては、びわ湖ホール兵庫県立芸術文化センターがあり、さらに2013年に大阪にフェスティバルホールがリニューアルオープンする予定で、合計3劇場です。日本にある歌劇場の一覧を見ると分かりますが、オペラに特化した大型劇場の数は、東京より豊富な状態です。

一方、来日公演は年に何回あるかというと、今年西日本で行われたオペラ来日公演は、いわゆる有名歌劇場が2団体、それ以外が3団体でした。有名歌劇場のうち1団体は愛知を選んでいますので、関西としては、たった1団体です。そもそも来日公演自体が激減している状況にあります*2。こんな頻度の機会のために、果たして建替が必要でしょうか。しかも、費用は建替時だけではありません。舞台機構として過剰な設備を一旦入れてしまえば、以後ずっとその維持費用がかかるのです。

反対理由2/オペラの可能なホールは作るけど、オペラはやらない?

オペラは海外有名歌劇場の引越し公演だけではありません。ここ関西でも毎週のようにオペラは制作され、上演されています。それらの会場として、京都の近隣には、二千席級で上記3会場あります。

計画には当然、これらのホールとの競合を疑問視する指摘が寄せられました。これに対する回答として、京都市の計画書では「自主制作は行わない」ので競合しないとしています。とすると、貸館としての事業だけになります。

上に挙げたホールは最新のオペラ専用の舞台機構を備えていますし、既に稼動している2ホールはオペラ公演の実績と経験を備えた専門のスタッフを備えています。新フェスもすぐにそうなるでしょう。こんな状況で、誰が上演場所としてあえて貸館のみのホールを選ぶでしょうか?クラシックでもオペラでも、開館後に設備や運営を改善していくきめ細やかな努力が必要です。それは自主制作の経験やホール自らが企画して模索し、努力する経験と不可分です。先日上に挙げたホールのひとつのスタッフの方とお話しましたが、公演に使ってもらうためには日々努力をして信頼関係を積み重ねる必要があったそうです。聴衆としても、そのような専門スタッフのいるホールで聴きたいと思います。

今の計画では、前述の通りハードとしても不備なのですが、仮にそこをパスしたとしても利用されない可能性が高いのです。

反対理由3/文化財級の建築が台無し!付近の景観も無視?

京都会館のある岡崎地区は風致地区になっていますので、景観や周辺環境への配慮は重要です。この点が現在の建築が高く評価されている理由のひとつで、箱型のビルのような建物ではなく、古来からの日本建築のような山型の屋根を持ち、中央を高く外からの視線に晒されるところは低くする配慮がなされています。禅寺のようだという評もあります。中庭からの風景は東山とよく調和しており、音楽ホールとしての機能以外の観点からのファンも多いのです。

東京文化会館と同じ前川國男の設計で、建築関係の賞も各種受賞しており、建築史的な意味でも重要で、このまま大切に使っていけば重要文化財として認定されるクラスの建築だそうです。

ところが、その主要部分である第一ホールを取り壊し、舞台高さと奥行きを確保するために、箱型のビル状の建物(以下フライタワー)を作る計画です。最高高さは少ししか高くならない(27.5mと30mの差)と言ってますが、京の町屋の下り勾配の屋根と四角いビルの違いがあります。圧迫感は、全くの別物と言ってよいでしょう。

反対理由4/強引な解体という結論、躯体は良好なのに

そもそも京都会館の改善の話は、急に出た話ではありません。10年前から調査や委員会を経て段階を踏んで検討されてきました。その過程で建築物の劣化度調査を行い、躯体は良好であることが分かっています。6年前からの委員会でも、建築物の外形は現状のまま舞台を広げる案、舞台拡張のために若干外側への拡張を行うが殆どの部分はそのまま利用する案が最終結論とされています。京都市がシンクタンクに委託した調査の結果でも、音楽ホール専門家の目から見て、舞台高さは18m、奥行きは17mあれば充分であることが提言されています。

京都市自身がこれらの経過を受けてまとめた素案というものも存在しますが*3、この中でも、検討委員会の提言を受け、上のシンクタンクの内容を参考にした路線で検討しています。

今回の計画では、これらの過程を全て無視して、舞台高さありきで案が作られました。そして現在の建築物の改修を前提とてそこにフライタワーを追加するA案、建物を解体して地下を掘って立て直すB案が検討され、概算工事費92億円と89億円で、B案の方が若干安く、しかも地下を掘った方が舞台高さを3m高く出来るという理由で、解体・建替をするB案が採用されました*43mと3億円の違いのために重要文化財級の建築物の解体が決まってしまいました。

ちなみに、上で紹介した音楽ホール専門家の見積もりによると、現在のホールの改修を前提に舞台を拡張する案に必要な工事費は35〜60億だそうです。ですからA案の92億円の見積もりは怪しいですね。というか、解体を結論付けるための当て馬としての数字である可能性が高いでしょう。

反対理由5/スケジュールが強引過ぎる

この計画は、よく知られれば知られるほど妥当性が無いことがバレることをよく分かっているのか、スケジュールがものすごく性急です。計画が出た時点で、その年度いっぱいで利用停止、すぐに基本設計者の募集を開始、次の年度には解体・埋文調査・実施設計・工事着手というスケジュールが公表されています。当然、計画に対する市民の意見の反映をする期間はありませんでした。

また、担当部局に対して説明会の開催を提案しましたが、「市民新聞に載せたから周知は済んでいる」という理由で説明会の開催を拒まれました。

さらに、この工事は本来なら高さ規制の特例許可の手続き*5が必要な案件なのですが、京都市は、この特例許可の手続きをパスするために、この地区の都市計画制限そのものの見直し(条例制定を含む)をするという手段に出ています。この思惑が通ってしまうと、ストップをかけられるチャンスが一段階減ってしまいます。また、話が複雑になって、一般の市民からはまず分からないところに持ち込まれています。これは相当、優先度の高いタスクなのだと思います*6

反対理由6/パブコメでは騙された!

この計画が発表される前に、京都市は、京都会館再整備に関する市民意見の募集を行っています。このときには、以下のような表現で、まるで現在の建物の改修を行うようなミスリーディングな文章が公開され、これに対する意見が募集されました。

  • 近代建築として全国的に評価の高い現在の建物を可能な限り生かしつつ,現代的なニーズに適合させる
  • 大規模な整備を行い,(中略)建物の長寿命化を図る
  • 建物各部の老朽・劣化箇所を修繕
  • 老朽化した各設備機器を更新
  • 世界的に著名なオペラやバレエの劇団の巡回公演,セットが大型化しているポップス音楽コンサート等の開催が可能になる舞台とする。
  • 舞台を客席側や,疏水側に拡張すること等で舞台面積を拡大すること及びつり物機構をはじめとした舞台機能を大幅に改善させ,舞台の上部空間を拡大することの検討を行う。

一番下が「検討を行う」になっていることに要注意です。検討を行うことに反対する人はあまりいませんね。この文章から解体を想像する人はまずいないでしょう。時期的にも、この意見募集を行ってから検討して解体という結論が出たのではありません。この時点では決定していたけど伏せられていただけです。騙されました。

反対理由7/隠しごとが多過ぎる

上でも隠されていたという話を書きましたが、とにかく隠し事が多過ぎます。特にこれまでの経過と矛盾するので、この経過に関する資料は隠されていて、ある市議さんの奮闘で、やっと開示してもらえるという状況です。上で書いた音楽ホール専門のシンクタンクの調査資料は特にまずかったらしく、公開まで時間がかかりました。

なお、これについて上の市議さんが市議会で追求したときの担当部局の回答によると「市民が混乱するから」伏せておいたそうです。

反対理由8/市の説明は嘘ばかり

この問題が最初に報道されたのは、2010年の12月24日の日経新聞の夕刊です。その夕刊が出る直前の昼に、前述した6年前の検討委員会の委員の一人の元に、市役所の担当者(当時)が訪れ、「すみません、京都会館は取り壊してオペラハウスにすることになりました。音楽監督は○○○さんです*7。決まってしまいました。」と言ったそうです。つまり検討委員会の出した結論を反故にすることを委員に告げに来たわけで、このように12月の時点では決まっていたのです。

しかし私が市役所の担当部局に出向いて説明を求めると、「オペラハウスというのは全くの事実無根で、市としては大変迷惑している」という説明をされます。ちなみにこれ、こっちがすごい困ったことを言い出して長々と引っ張った挙げ句にこう言われるんじゃないんですよ。挨拶して、「京都会館の件について伺いたいんですが」と言ったら、向うから勝手に、開口一番に、こういうことをベラベラと喋って来るんです*8

なんでしょうね。こういえば納得して帰ると思ってるのかな。「嘘ばっかり」という印象が増えただけでした。せめて黙ってればいいのに。本論から外れるので内容は書きませんが、他にも余計な嘘を色々と聞かされました。

反対理由9/オペラの評判が悪くなる

こういうことに巻き込まれると、オペラの評判が悪くなるので、愛好者としては迷惑なんです。しかもオペラサイドには全然メリットないし。作った後のことは、全く考えてないし。なんか知らんけど、解体して自由に工事がしたいんでしょ。出来てから年数が経ってて人々の関心の薄い分野の建物・敷地を狙って、いつもこういうことやってるじゃないですか。あほらし。・・・と言って放っておきたいところですが*9こういう政治体質を放っておいて原発なんてものをボコボコ作られてしまった日本の今の状況を深く深く反省したので、今後は蛇のように食い下がっていきます。

反対理由10/来日公演がターゲット?地元のアーティストは無視?

京都にオペラ用のホールを作るなら、私にも夢があるんですよ。関西のオペラ界は頑張ってますよ。その人達にとって使いやすいホールであって欲しいんです。来日団体なんかいくら呼んで来ても地元の資産にはなりませんよ*10。景気が悪くなりゃ来なくなるだけです。既に来なくなりつつあります。でも地域のアーティストが作る公演は、地域の財産になるんです。作る力ってのは、一番強いんですよ。再生産出来るんですから。

今回の話は、中途半端なものを作ってしまったら、いつか真っ当なものが出来る可能性の邪魔になるので、反対です。

大体ね、オペラってのは、本当はどこでも出来るんです。現に、明日、現状の京都会館でオペラが上演されます。京都コンサートホールでもやってます。京都アルティでもやってます。関西中の大小ホールでやってます。あんたらが有名歌劇場のオペラだけがオペラだと思ってるだけです。失礼ですよ。オペラを工事の口実にするのは止めてください

反対理由11/どう考えても計画が変過ぎる、解体後に本命が出てくるのでは?

でも、ここに挙げたポイントだけでも計画がおかし過ぎるので、私としてはずっとピンと来てなくて、関係者がよっぽど勉強不足なのか、それともこの計画はフェイクで、あえておかしい点を仕込んでおいて、解体して後戻り出来なくなったところで計画おかしい騒動が起きて、ちゃんと一からまともなものを作りましょうとかいう議論を始めて、そこで始めてオペラハウスという話になって、今の京都会館の敷地も全くリセットして、本当にオペラハウスを作るのではないかという疑いも、ちょっとだけあります。現況の京都会館がある状態から敷地リセットの話は出来ないからこういう手段をとるのではないかと、少し疑っていたりします。

特におかしいと思うところは、この工事に50億円を出すというロームの会長が、果たして予測通り「世界水準のオペラを可能にすること」という条件を出した本人だとして、多面舞台のない、一面舞台をちょっと高くしただけのホールに金を出すとは思えないという点です。多忙なので要求しただけで図面を見てないか*11、しかし本人は見てなくてもローム・ミュージック・ファンデーションの人間は気付くだろう。いくらなんでも。おかしい。

上で書いた某委員の元に訪れた役所の人が言ってた話とも矛盾するし、まだこれからなんかあると思っています。

反対理由12/やったもん勝ちを許すな

どっちにしろ、この計画のまま行くにしろ、後から本命が出てくるにしろ、第一ホールが解体されてしまったら、この計画を言い出した者の思い通りになることを止めることは難しいでしょう。解体した後に、京都市民が、もう二千席級のホールは京都に無くていいからあそこは公園にしよう、という決断を出来るとは思えないです。そして、なんらかの建物を作ることになる以上、工事をしたい者の思い通りで、やったもん勝ちで、新たな大規模工事を引っ張ってきたという実績にカウントされてしまうわけです。もう、そういう政治を許すのは止めましょう。やったもん勝ちを許す我々も、やったもん勝ちの加担者です。

この記事を読んで、やったもん勝ちに加担したくないと思ったあなたへ

署名募集中です。

資料について

記事中に証拠文書へのリンクを貼りました。PDFファイルをAdobe Acrobat (Reader)で開くと、該当箇所のページを直接開くことが出来ます。お試しください。

現在も見れる京都市の広報ページは、以下の通りです。


その他に本文中で引用した資料は、以下の通りです。

追記/多面舞台のところ

反対理由1の多面舞台の記述が大雑把過ぎました。ちゃんと正確を期して補記する予定ですが、きちんと説明したいので、近日中に準備します。→というわけで追記しました(11/30)。

*1:奥に行くほど低くなる構造。

*2:このデータは311震災以前のものですが、311震災以後はさらに減ることを覚悟しなければならないでしょう。オペラファンが今回の話に歓迎しないのは、来日公演の危機を現実に感じているからでもあります。

*3:この資料はページ数が膨大なためデジタル化が間に合っていません。後ほど補充します。→ 補充しました。末尾のリンクをご覧下さい。

*4:細かいことですが、概算工事費には解体費や埋蔵文化財の調査費等は含まれていません。

*5:この手続きを行えば、本来なら都市計画上許されていない高さの建築物を作ることが出来るという条例がある(高度地区の制限の特例許可)。

*6:何故この地区の工事の優先度が高いのかは思うところがありますが、憶測を含むので伏せておきます。知りたい人は連絡下さい。

*7:ご本人には関係なく市役所が勝手に青写真を描いているだけだと思うので伏せておきます。ちょっと詳しい人にはすぐ分かると思います。京都つながりです。

*8:一応弁護しておくと、この人が特別じゃなくて、京都の人は全体にこういう傾向です。そんな余計なこと言わなきゃいいのにって微妙なことに限って、聞かれもしないうちに向うから一方的にベラベラ喋ってくる印象が、東北〜北関東産の者から見ると、すごくあります。

*9:そしてあまりにもアホらしくしておいてノラリクラリと逃げていれば、いつか相手が諦めて思い通りになるというのが過去の日本の政治の実態だった。日本人は真面目過ぎて開き直ったアホ戦略には対抗出来ないのだった。

*10:実際には、呼んで来ることさえ出来ないと思いますけど。信頼されるの大変ですから。

*11:それで50億出すとはすごい人だ。

多面舞台に関する補記

オペラファンがオペラハウス建設に反対する12の理由における多面舞台の記述が大雑把過ぎたので、補記します。

多面舞台は必須か?東京の例

まず「多面舞台」とは、元々はレパートリー方式*1の劇場が日替わりで演目を変えるために、組み上がったセットをそっくりそのまま置いておくための劇場の建築様式のことです。新国立劇場(4面)、びわ湖(4面)、兵庫芸文(4面)、愛知芸文(3面半)は多面舞台を備えるホールです。現代では、一演目で多面舞台を使う演出も多くあります*2

そして「多面舞台」が、「世界水準のオペラ*3」に必須かと言うと、厳密に言うと東京では必要ではありません。

東京でこれらのオペラを上演するとなれば、NHKホール、東京文化会館神奈川県民ホールですが、実は、いずれも多面舞台のあるホールではありません。NHKホールはともかく、東京文化会館神奈川県民ホール(大ホール)が多面舞台でないというのはオペラファンでも意外だという人が多いのではないでしょうか。

東京文化会館神奈川県民ホールは、片袖にメイン舞台と同等の床面積を持つホールです。「その片袖部分に柱が入っている=舞台をそっくりそのまま水平移動出来ない=だから分類上は多面舞台でない」そうです。もちろん、セット全体をそっくりそのまま移動出来ないだけで、床面積はあるので、分割移動すれば、複数の演目分のセットを置くことは可能です。神奈川県民ホールでレパートリー上演した例は私は知りませんが、今年のボローニャ歌劇場の例では東京文化会館日替わりで複数の演目を上演しています*4NHKホールは平面図を見ていないのではっきりとは分かりませんが、元々メイン舞台が大きい上に、サイド舞台がメインの160%、バックステージが40%弱の面積あるそうなので、これら2つのホールと同等以上に充実しているのでしょう。

一方、計画中の京都会館は、敷地の関係から、片袖にメイン舞台と同等の床面積どころか、メイン舞台の上演に最低限必要な数メートルの両袖がやっとの状態です*5

また、東京のホールでは、ひとつの歌劇場が複数のホールを使って上演することは珍しくない・・・どころか、有名歌劇場の場合はそれが普通です。NHKホールと東京文化会館の両方を使って、2つの演目を日替わりで上演するパターンが定番で、さらに一演目の初日だけを神奈川県民ホールで済ませてから都内に持ち込む場合もあります。東京では一演目を3〜5日上演するだけの市場があり、都内にスタッフが宿泊して日替わりで上演するのに無理がないこと、NHKホールのキャパ(3601席)が優先され、次候補として東京文化会館があると言われています。

神奈川県民ホールで初日を行うのは、こちらの使用料が東京文化会館より安く、リハーサルに必要な日数をその使用料で済ませたいためだそうです。また、関西公演がある場合は関西で初日を迎えるスケジュールにするのも同じ理由とのこと*6 *7

それでも多面舞台が必要/関西の場合

はい、長かったですね、これでやっと関西の話が出来ます。

以上のように、東京で有名歌劇場の来日公演を行うにあたって多面舞台は必須ではありませんが、関西では必須です。何故なら、関西は1演目で2日集客するだけのオペラ人口が無いと考えられていて、それでもスタッフやセットを伴って移動して公演を打つ以上、最低2日分の稼ぎは欲しいので、2演目を1日ずつ上演することが定番化しているからです。東京のように1演目を複数の会場で行う動機もありません。そもそも、多面舞台があって2演目が同時に準備可能で、設備からスタッフから全てオペラに特化したホールが他にあるのに、わざわざ1演目しかかけられないホールで上演する理由があるでしょうか。

さらに、上記ホールとの差として、楽屋の広さと数も挙げておきます。これは実際に有名歌劇場の来日公演を受け入れている劇場のスタッフの方が真っ先に挙げていました。再整備計画では、オペラ上演に関わる人数を全く把握しておらず、これまでのポピュラーミュージックの経験に少しプラスしただけで出来ると考えている節があります。

もちろん、施設に多少無理があっても、会場使用料を破格にしたり無料にしたり、さらに大幅な助成金を付けるなどすれば、一度二度だけ引っ張って来ることなら可能性がゼロではないかもしれません。しかし、施設に無理があって、そこを簡素化したり、お金をつぎこんで解決するなら、何のための建替かと言いたくなるわけです。興行的に選ばれて長期継続して使ってもらえる会場にならないことは、この段階で分かっているのですから。

もうひとつの来日公演/国内数十会場を巡回するロシアや東欧の劇場

ここまで長く書いたので、ついでに細かいことも挙げておきます。実は、オペラの来日公演といえば、上記に挙げた有名歌劇場だけでなく、国内数十会場を巡回するロシアや東欧などの劇場が行う比較的小規模の公演があります。こちらは大小様々なホールを巡回する都合上セットはかなり簡素で小さめで、びわ湖や兵庫芸文で見ると、舞台に対してセットが小さいので逆に視覚的に寂しい印象になるほどです。

こちらなら一会場一演目のパターンもあり、計画中のホールで上演可能です。もっとも、こちらは逆に、普通のよくある多目的ホールで上演可能で、つまり今の京都会館を前提に改修すれば充分なので、これらの公演のために建替えが必要になるようなものではないです。

なお、チケット代は、上に挙げた有名歌劇場が4〜7万円に対し*8、この手の劇場なら数千円〜2万円以下と、他の舞台芸術と同水準で買えます。この方が市民的にはよっぽど意味があることでしょう。

けれど、このカテゴリの公演は数がすごい減っていて、今年来日分としては、予定されていた団体数が4です*9。日本全体で年間にたった4団体で、これらのために建替をするような頻度ではありません。正直これらの比較的小規模の来日公演を想定するくらいなら国内団体のオペラ公演の方がよっぽど頻繁にあるわけですが、それら国内団体用としても配慮がないのは本文に書いた通りです。

オペラは口実にされただけ/建て逃げを警戒しろ

そもそも、私が再整備計画を読んだところによると、これはオペラの可能なホールが欲しくて出来た計画ではありません。どうやったら工事の規模を大きく出来るか、そのための口実は何か、という発想からオペラが狙われたのです。オペラは舞台芸術の中で一番規模が大きいジャンルなので、残念ながらこの手の思惑に巻き込まれる事例が多いのです。それを知っていたので第一報から警戒しました。

MICEも同様だと思います。経済活性化とか地元の商売が潤うとか言って税金を使って工事して、後は建て逃げです。地元の方はよく注意して頂きたいです。赤字施設となった後、どうしようもないので民間に売却、隣に何が出来ても仕方が無いという未来になり兼ねないです。京都会館だけじゃありません。MICEに狙われている一帯にその危険があります。先進国でMICEが長期的に成立するかよく考えた方がいいです*10

お願い

私はオペラファンとしては新参なので、あまりに昔の事例や、記念公演など特有の事情があるレア事例まではフォロー出来ていません。あくまで現代の一般的な興行公演を対象にした話としてお読みください。

他にもお気付きの点がありましたら、コメントやメールでお知らせ下さい。この補記も、ご迷惑をおかけするといけないので個別にはお名前を挙げませんが、ホール建築の専門家や現役ホールスタッフの皆様からアドバイスを頂いて書きました。ご指摘頂いたみなさま有難うございました。なにか気になる点があれば、どんな些細なことでもご指摘ください。

*1:対義語はスタジオーネ方式。一演目を連続して上演するのがスタジオーネ方式、複数の演目を交替で上演するのがレパートリー方式。

*2:もっとも、来日公演の場合は舞台セットをそのまま本国から輸送しますので、一演目で多面舞台を使うような演出は避ける傾向にあると思います。

*3:ここでは上記歌劇場のオペラを指す。私としては大いに異議があるが、この文脈では京都市の文書に倣い、所謂ブランド歌劇場のことを言うことにして話を進める。

*4:もっとも、ボローニャの舞台セットはかなり簡素だったようですが。

*5:もちろん敷地計画を大幅に変更すれば解決しますが、それこそが反対理由11で注意を喚起した事態です。

*6:だから関西で聴こうと思うと、必然的にプレミエを聴く羽目になるんですねえ。個人的には、こなれて安定してから聴きたいので、これは不満要素です。

*7:とはいえ、先日の清教徒のようにプレミエが熱い公演もあるので、気を取り直したいものです。それに関西に来てくれるだけでも高ポイントなので、もうこの際プレミエだろうがセットが簡素化されようが文句言えません。

*8:最安席が1.5〜2万円くらいからありますが、これは有料会員になって、さらに発売日に会社を休んで備える勢いでないと入手出来ないので一般市民には関係ないです。一般市民が思いついたときに普通に買えるのは上記価格帯でしょう。だから近くにホールが出来ても殆どの人には関係ないです。

*9:うち1団体は震災を理由として取り止めになりました。

*10:国が推奨しているので大丈夫なんて騙されないでくださいね、原発だって国が推奨したのですから。