ジュスティーノ

DVDレビューの書き溜め放出分です。

歌劇「ジュスティーノ」全三幕
指揮 ヘルムート・ヘンヒェン
[バス]: ルドルフ・アスムス [ソプラノ]: バーバラ・シュテルンベルガー [テノール]: ギュンター・ノイマン [カウンターテノール]: ヨッヒェン・コヴァルスキ [アルト]: ヴィオレッタ・マジャーロヴァ [ソプラノ]: ダークマル・シェレンベルガー [テノール]: ミヒャエル・ラープジルバー [バス]: ベルント・グラボフスキ [バス]: ハンス・マルティン・ナウ [バス]: ハインツ・ルンゲ コーミシェ・オーパー・ベルリーン

これを聴いた経緯は、書くと長くなるんですが、今年の7月にヨッヘン・コヴァルスキーをもう一度聴けるチャンスがあって、前回は、彼が歌いだすと空気が変わる感じを確かに受けたものの、衝撃的な特別さを感じるところまではなくて、でもその後でひょんなきっかけでホルテンが好きな歌手として彼の名前を挙げていることを知り・・・・というかたぶん一番好きな歌手なんでしょうね、ホルテンが他にこの手の話題で語ってるの見たことないし、一人しか出してないから。で、あのホルテンが言うんだからきっとすごいのだろうと。でも最盛期を過ぎたせいで初聴きで一発で分かるほどではないのかもしれないし、前回はオフロフスキというキャラクターが分かりにくかったのかもしれないし、そもそもこういうものを感じるってある種の慣れ(スキル)が要るから、普段の私なら自分の側のスキルが自然に熟成するまで待つからいいやってスタンスだけど、これもなにかの縁と思ったのと、ご本人の年齢的に今後チャンスがあるかどうか分からないので、これは次聴くまでに慣れてキャッチ出来るようになっておこうと思ってDVDを入手しておいたのでした。うーん前置きが長い。

そういう理由で見始めて、そしたら、なんかすごいじゃないですか!歌う前からすごい演技に腰が入ってると思って、他の人と全然違うやと思ってガバッと起き上がって釘付けになり、声出したら存在感すごいなんてもんじゃない。それに、なんか、ムズムズする*1。そういう種類のすごさ。ものすごい才能だ!

この人声々って言われてるけど、声じゃないよ、本当にすごいのは表現力。このオペラを1周通して見てる間、どんな声出してんのか全然分かんなかったもん。それくらい音じゃないところで伝わって来るものがあるの。もちろん声経由でそれを伝えてるんだから声は声なんだけどさ、声でそれをやってんだから声のサポートすごいんだけど、なんてのかな、肉体的に備わってる声より、それを使って表現してるものがすごいの。

なんでこれにムズムズするんだろう。私はこういう腰の細い兄ちゃんは個人的に全部駄目なのかと思ってたよ。全然駄目じゃない。逆にすごいや(←そんな天邪鬼はお前だけだ)。

いやー。これ、観ることをお薦めします。この評価出したDVD作品て2作目です。1作目はコペハンリングだけど。私が個人的に好きな映像作品て他にも色々あって平静じゃ聴けない作品もあるけど、でも、他人にも熱烈に観て欲しいと思う作品てこれ2作目です。これ、すごいや。まあ例のごとくで万人ウケはしないと思うけど、こういうの感じる人にはすごい体験になるでしょう。


作品そのものについてもちょっと書いておきます。ストーリーはご都合主義というか、しょうもない。農夫ジュステーノが国の危機を救い、皇帝になるという内容。国はちょうど地方豪族の悪者1が攻め入ってきたところ。実はこの国の将軍も皇帝を陥れて成り上がろうとしている悪者2。我らが農夫が農作業に疲れて眠っていると女神の啓示を受けて目覚め、武器を手にして進むと皇帝の妹が熊に襲われているところを助け、その導きで皇帝の元に行くと、皇妃が攫われた助けてくれって展開で、丁度悪者1に攫われ、海の怪物の元に置き去りにされた皇妃を助ける。

皇帝に気に入られたジュスティーノだが悪者2の将軍が皇帝をそそのかし、謀反の疑いをかけられ囚われてしまう。皇帝の妹が彼を逃がす。逃亡に疲れて眠っているところ、悪者1に見つけられて危機一髪となるが、何故か突然神様が現れて2人は兄弟だから殺しあうなと告げて一件落着。悪者2の将軍は皇帝と皇妃も陥れ、ついに王座に着こうというところでジュステーノとその兄の元悪者1にやっつけられて秩序は戻って、ジュスティーノは皇帝の妹と結婚して共に国を治めようと言われ、大円団。

ご都合主義っちゃご都合主義だけど、こういうのは、血筋があやふやな者が王位に着いたときに、神の導きによってしかるべき人間が着いたのだと正当化させるために語られるストーリーとしていかにもありそうな話で、そう思って観てるとなるほどなと思う。演出は面白い。いかにも作り物のおとぎ話じみた世界とリアリティが適当に混じってる。着ぐるみの牛が可愛い。ネタバレしちゃうけど、最後のいかにもご都合主義になるところで割り切って積極的に作り物にするのは、たぶん素直なオーディエンスには評判悪いんだろうけど、私は有だと思った。このストーリーの意義をよく分かってらっしゃる。ちなみに演出はハリー・クプファー。ちなみついでの一行知識だけどホルテンはクプファーのアシスタントをやってた時代がある。

歌手は全体にレベル高い。どんな公演にも必ずいる「これはないだろ」レベルが混じってないのがポイント高い。といってもバロックに耳が肥えてる人から見たら色々文句があるのかもしらん。その辺は分からん。皇妃はかなりいい。妹もいい。男性陣もみな声はいい。あと、ビジュアルは全員いい、たぶん。主要キャスト全員が一般人体型(=ドイツ人としてはスリム)だし*2。ただ、個性として特別クラスはコヴァルスキだけかな。

変な世界観の作品だけど、ぜひ観ることをお薦めします。それにしても、昔のオペラはレベル高かったというのをまた今回も考えてしまった鑑賞体験でした。

*1:このムズムズについては別の日に書きましょう。

*2:でも私的にはそこの優先順位はめっちゃ低い。