ブラナーの魔笛(2) 映画ファンのためのオペラ映画

オペラファンのためのオペラ映画ではないよねーと思います。

そもそもの発端からして、英訳歌詞によるオペラ普及を目的とする財団(ピーター・ムーア財団)が、あえてオペラ経験のない監督に依頼するという企画ですしね。オペラを観ない、これまで観たことがない、1回くらい経験があっても次を観ようと思わなかった、そんな層が、どうしてオペラを観ないか、オペラのどういうところが苦手で、逆にどんな感じなら惹かれるのか、その感覚が分かる人に作って欲しかったんだと思います。だから仕事としてのオペラ経験がない*1、個人的にもオペラを観ないブラナーが選ばれたのでしょう。

ターゲットとしては、オペラは未経験、あるいはちょっと抵抗があるけどミュージカルや音楽は好きで、映画館にもよく通っていて、つまりそういう文化的趣味にお金と時間をかける素質のある層。そういった層にとにかく全幕オペラ1本目を通して経験したもらうことだったんだろうと思います。だからこの映画には、そういう人のための「くすぐり」がいっぱい出てくる。全編に散りばめてあるメジャー映画のパロディとか、特にネタ元があるわけじゃないけど、いかにも古きよき映画的なお約束の手法とか。

ターゲットのことを言い出すと、英語歌唱というのがそもそもオペラファン的にはイマイチで、でもオペラ普及のためには外せない要素の筆頭かもしれません。英語オペラ普及のための財団がスポンサーなんですから当然ですが。へっぽこ英語使いの私でさえ英語の方が馴染むし直接頭に入ってくるんですから、英米圏はもちろん、それ以外でも世界にこういう人間が何人いるかと思ったら、この手段の有効性は否定出来ないですね。・・・・と、我が身を省みて思う。

全体のコンセプトとしては「モーツァルトの音楽の映像化」ですよね。そしてオペラ初心者、あるいは現代的なリアリズムに慣れた観客がひっかりやすいところを抵抗がないように飽きないように加工して出す。これは古典の娯楽化のプロ、ブラナーの得意分野です。加工は入れるけど、でも作品の本質を残したまま丸ごと一本味わってもらうのは大命題なので、音楽も主要なエピソードもカットなしで、台詞のカットや映像による説明で進めていくという一本です。

ブラナーはこの映画のためにモーツァルト漬けになったとインタビューで語ってるんですが、オペラ漬けになったとは語ってないんですよね。それはスポンサーの意向だったのかもしれません。オペラに染まらずにオペラ初心者の感覚のままオペラ映画を作ってくれ。そんな前提がこの映画の出発点なのだろうと思います。


最後に、なんだか貼ってみたくなったので、脚本のスティーヴィン・フライのスマートな頃の姿を。中央の蝶ネクタイ姿の男性がフライ。向かって左の片手を挙げてるのがブラナーです。魔笛のDVD持っててメイキング見た人はきっと笑える筈。
http://static.guim.co.uk/sys-images/Media/Pix/gallery/2009/6/3/1244044545733/Fry-and-Laurie-Peters-Fri-007.jpg

*1:でもミュージカル映画は経験あり