最初のヴァルプルギスの夜

もう今年も終わりですね。今年はメンデルスゾーン生誕200年で、なんだか縁がある年でした。メンデルスゾーンの音楽は聴いてる間は心地よかったり没頭出来たりするのですが、聴き終わった後の印象がフラッシュアウトしがちで、いまだに相性がいいのか悪いのか分かりません。世間の微妙なメンデルスゾーン評価も分かるような気がします。そんな相性がいいか悪いか微妙なメンデルスゾーンですが、年が変わらないうちに手元のメンデルスゾーン・ディスクを消化しておこうと、今日はこれを取り出しました。

A Midsummer Night's Dream
Composed by Felix Mendelssohn
Performed by Chamber Orchestra of Europe
Conducted by Nikolaus Harnoncourt
Recording: July 1992, Stefaniensaal, Graz (live)

1) A Midsummer Night's Dream
Pamela Coburn
Elisabeth von Magnus
2) Die erste Walpurgisnacht
Schoenberg Choir
Birgit Remmert
Uwe Heilmann
Thomas Hampson
Rene Pape

真夏の夜の夢と、最初のヴァルプルギスの夜、小品2作が収められたディスクです。こういう、かつてのレコードのA面B面を思わせる構成っていいですよね。生理的に聴きやすい気がします。ヨーロッパ室内管弦楽団は、ブラナーの魔笛で聴いてますが、ブックレットの写真を見るに、すごく年齢構成が若い?1992年の7月に行われたライブを収録したもので、ブックレットの裏面が真夏の夜の夢のパフォーマンス写真*1なのですが、どう見てもリハーサル写真?Tシャツにチノパンだったり、足元がサンダル*2だったりして、すっごくラフです。ロバの被り物も登場してますし、きっとこういうカジュアルな趣旨のイベントだったのね。ではそのつもりで聴いてみましょう。

と思ったら、序曲、いきなり嵐の描写からはじまります。おっと、予想していたメンデルスゾーンと違う。ここはなかなかよろしいです。冬が去って春を歌うテノール、実にハイドンの四季っぽい。メンデルスゾーンクラオタの草分けだからハイドンパロディもやってみたのかなーとノホホンと考えていたら、テノールの人が(いつも聴いてる四季のディスクと)共通というオチでした。いや、それを抜いても似てますけど。

短めのソロと合唱の繰り返しから構成されるところと、合唱のボリューム感がエリヤに似ていると思いました。しかしこちらは世俗曲で、声楽パートが茶目っけたっぷりです。

この作品はゲーテによる民間伝承詩に音楽を付けたもので、最初はメンデルスゾーンの師であるカール・ツェルターに提供されたものでしたが、ツェルターが作曲しなかったのでメンデルスゾーンに回ってきたそうです。背景を解説するゲーテの文章を、最初のヴァルプルギスの夜の別のディスクの解説文*3から引用します。

http://garjyu.at.webry.info/200702/article_3.html
「ドイツに古くからある異教徒たちは、キリスト教が民衆に強制されたために追われることになり、古老や長老の下、一族は人里離れたハルツ山にひきこもった。そこで密かにこれまで通り宗教儀式を行いながら暮らしていたのである。そして、他の侵入者や武装集団から守るために、悪魔の姿に変装して、迷信深い敵を脅かすことで身を守っていた。こうして彼らは、悪魔の神に守られて、神への奉仕を行っていたのだ。」

ここでユダヤ系キリスチャンで多数の宗教音楽を作曲したメンデルスゾーンの出自なんかを思い出すとしんみりするかもしれませんが、ヴァルプルギスの続きは全然しんみりさせてくれません。さあ春が来た→恐ろしい敵(キリスト教徒)がやってくるよ→薪を高く積み上げ火を点し、熊手やピッチフォーク(農具)を掲げて悪魔の振りをしよう!奴らの信仰を利用して追い払おう!→助けてくれ悪魔だ!→追い払ったぞ万歳!まあこういう話です。

場面転換などは流麗でメンデルスゾーンぽいです。が、この作品の白眉は、異教徒達(ドルイド教徒)のユーモラスな描かれ方でしょう。悪魔の振りをしよう!そうだそうだそうしよう!の部分です。12曲目、Dann aber lasst .... のところとか、アブラカタブラちっくで、なんともユーモラスです。惜しむらくは音楽のユーモラスさ加減に対して歌唱が普通過ぎることです。ここから一気に調子を切り替えて、もっと軽妙に歌って欲しいところを、その前の調子に引きずられてて、なんだか重いのです。でも大丈夫、このディスクにはこういうことをやらせたら悪ノリしまくるパーペがいました。コラスおじさん路線で*4、一声目から思いっきり怪しい。続く14-16曲目、Kammt! mit Zacken .... からの合唱との掛け合いなんて、待ってましたの名調子です。この場面、YouTubeで聴くことが出来ます。
http://www.youtube.com/watch?v=cNwSTHBkh0A


さてここで疑問が。「最初の」ヴァルプルギスの夜とはどういうことだろう。wikipedia:ヴァルプルギスの夜によると、この日は基本的には春を祝う祭りの日らしいのですが、ドイツとドイツに影響を受けた地域だけが魔女や悪魔と結びついた存在となっているらしいです。

wikipedia:ヴァルプルギスの夜
ドイツの伝承では、ヴァルプルギスの夜はメーデー前夜の4月30日の夜で、魔女たちがブロッケン山で集い、彼らの神々とお祭り騒ぎをする……

ここから推察するに、ヴァルプルギスの夜が魔女や悪魔の活躍する日となった原因はドルイド教徒達の抵抗だった、その最初の日はこうしてはじまったんだよ、と語るのがこの作品の原詩たるゲーテの作品だということでしょうか。

*1:クレジットが"Performance of ...."になってる。

*2:ドレッシーではない「サンダル」

*3:を引用してくれたblogからのまた引用

*4:録音も同時期ですが。