天井桟敷の住人が下で聴くと

私はホールの音響というものは、基本的には最上階が一番よいと思っています。ただし何事にも例外はあって、よほどデッドな(響きの少ない)ホールか、某多目的ホール風に上階席に奥行きがあり過ぎて反射が期待出来ない構造のホールです。

さて聴覚というものは、いや味覚なんかもそうなんですけど、一般に人間の感覚というものは、悪い状態に慣れていて良いものに触れてもよく分からない一方で、良い状態に慣れていると悪いものは一発で分かるものです*1

いつもお世話になっているMadokakipさんのblogで最上階の音に慣れている人(私の予想では贅沢に慣れている人)がはじめて下で聴く場面を目撃したので、音響面での興味からお願いして、いつも4階席で聴いているというbokuさんが1階席で聴いた感想を書いてもらいました。貴重な証言なので、ご本人の許可を得て転載します。

http://blog.goo.ne.jp/madokakip/e/22117af5ec190ae127f8b04805ba3f43#comment-list

ジークフリート、17日! (boku)
そしてついに念願の平土間を手に入れました。人生初の新国平土間です
(中略)
オケの音は四階に座っているときよりはくもっていましたがワーグナーならこれくらいがgood!

音響 (starboard)
いつも上階で聴いている人が下で聴いてどう感じるかにとても興味があるので、よかったら音の印象をもっと詳しく教えてもらえませんか。お願いします。

ふっかーつ! (boku)
聴こえ方ですか、
今回は一階の真ん前ですがいつもは四階の端ですから極端すぎて参考にならないかもしれませよ、もしかすると
オペラハウスは(特に新国のような新しいオペラハウスは)音が上に行くように設計してあるとよく聴きますよね。
一階は確かに四階に比べると音がくっきりはっきりしていない様に思います。
オケの音は少し壁によって抑えられますがその代わりに歌はくっきりはっきりとなっていました。
そうなると一階前列はワーグナーの一番再現したかった音響となるのかもしれません
(後方は分かりませんが・・・)
その代わり四階だと特に金管の音が目立ちますね。
せっかくワーグナーをやるためにオケピを深くしてもらっているのにそれでは意味が無いような気がします。
ただ、イタリア物をやるときは四階真ん中の前列と言うのはコストパフォーマンス的にお得な席です。
なので、ワーグナー以外だと意外と上で聴いたほうが良い音が聴けるかもしれません。
その代わりにワーグナーを聴く場合はなるべく下で聴くことをお勧めします。

予想したようには拒否反応出ませんでしたね。このシチュエーションなら、「実際の音楽会へはでかけないオーディオ愛好家」並の拒否反応が出かねないと思ったのですが。我々の方が頭でっかちで、上の方が良い筈という先入観に毒されているのかもしれません。bokuさんは汚れた大人のような先入観に毒されていないので、いつも新鮮なレポートを読ませてくださいます。

ちなみに私の意見は、ワーグナーも上で聴いた方が良い、です。下で聴く一番のメリットは、声量の無い歌手をストレス無く聴けることでしょうか。極端に無い人というわけでなくても、ごく普通に声量のある人と無い人が混じっていると、上で聴くほど声量の差が強調されてしまうので。二千人以下のホール(新国)なら声量の差は問題にならないかもしれません。

*1:まあ良い悪いは絶対的には決められないので、最終的には好みになるかもしれません。状態Aと状態Bで、状態Aの方が好ましいと感じる感覚の持ち主がいたとして、Bに慣れているときにAに触れてもそんなにはっきりとは分からない一方で、Aに慣れた状態でBに触れるとはっきり分かるということです。