コペンハーゲンのドン・カルロ(2007)

ちょっと!*1シェンヴァントさんのドン・カルロ、すっっっごくよいではありませんか。いやあ、いい立体感だなあ・・・・ガッティも私の中では立体感*2がよいという観点で評価の高い指揮者なんですが、シェンヴァントさんは(オペラの指揮者としては)もう一段大人しい、寄り添い的な側面で本領を発揮する、オケパートだけで惹きつけるようなタイプとは異なるイメージだったので、すっごく意外です。嬉しい誤算てやつです。

積聴してある音源の中から、さあ今日はどれを聴いてみようかなと考えて、消去法であまり期待もせずに下ろしたのですが、いやあこれは嬉しい。いきなり序曲で「なんだこりゃ」馴染んだあの感じと異なる感覚がはじまったので、ガバっと起き上がって、つい聴き直しちゃいましたよ。続く修道士がビリエルさん。ビリエルさんは出回ってる写真のせいで大審問官のイメージが強かったので、いきなり不意をつかれた。この人出てくると耳がそっちにとられちゃうからなー。歌唱的には大分癖のある系統なんだけど、マルケのときのような、ギリギリ際々を狙った挙句のセーフ感が心地よい。

カルロもいいなあ。カルロはニコライ・シュコフ。ゲストソリストですね。カルロはこれまで聴いた経験上なんとなくずっこけ系が続いていたので、こういう普通にいいカルロはいいなあ。揺れる感情と不安定さをちゃんと表現しながら、それを支える下地が安定してる感じ。ロドリーゴはヨハン・ロイター@コペハン黄金ヴォータンですが、こんな声だったかな。登場直後のレチタティーヴォのところでは「おいおい大丈夫かよ?」と思わせておいて、友情の二重唱あたりで調子が出てきてしっかり支えはじめて、続く女官の場ではすっかり安定して聴けるようになりました。

女性合唱は実にいい感じ。ヴェールの歌は、ちゃんとオリエンタルにうねうねしてる。すっごく超絶技巧とかじゃないけど、安心して聴ける。Randi Steneさんは今度の遠征で聴ける筈なので楽しみです。

エリザベッタはテオリン姫。いやあ。これたぶんイタオペをよく聴く人からは違和感が出るでしょうね。別物です。でもエリザベッタとカルロのシーンなどはなかなか聴かせます。

そしてキング・フィリッポの登場ですが。ステファン・ミリンは・・・・いやーん。なんでこんなに舌足らずなの?幼児語みたい。あのゴツゴツした顔とでっかい身体からこれが出てるかと思うと、可愛いじゃないか。続く旋律のあるシーンではちゃんとしてましたから、旋律の控えめな箇所が苦手か、登場直後でこうなったかですね。この人、かねてから声がフルラネットにそっくりだと思っていたのですが、本当似てるわ。こっちの方が声にドライになる頻度が多いかな。でも充分聴かせます。こりゃいいや。あ、でもあっちを聴き慣れてる人は(比較目的では)聴かない方がいいよ。ネイティブじゃないしイタオペ専門じゃないし。

ロドリーゴは大体いいけどたまーに(しかもいいところで)ずっこけるなあ。アンサンブルだと気持ち良く聴ける声なんだけど、ピンでは辛い人だね。フィリッポ対ロドリーゴのシーンはロドリーゴにハラハラしてるうちに終わってしまった。でも一幕あっという間だった。すごく楽しんで聴けました。単に出来がいいだけでなく、プラスアルファのある録音です。

ちなみにこのドン・カルロはおんぶコンビの公演です。音だけなんで演出関係ないと思いきや、ホルテンの演出は演奏者に考えさせて引き出す演出なので*3、やっぱなんか特別なものは働いているような気がします。


その後の実況。
夜中の逢瀬失敗の場では、カルロが安定しているので、なかなかいいです(つまり、これまでの経験ではカルロがいつもぶち壊していたと・・・・)。異端審判のシーンは、小役がなかなかいいですね。ただ人によってはもっとド迫力が欲しいという評も出るかもしれません。でも聴いてて自然に、これまで聴いたこのシーンの一番いい演奏と比較しちゃいますから、やっぱレベル高いと思います。

フィリッポのアリアはなかなか良かったです。よく「うたって」る。細かい粗が全く無いわけではないけど、ステファン・ミリンのキャリアを考えると、いきなりこれだけ歌えれば期待度大じゃないかな。大審問官とのシーンは・・・・ぷぷぷ。年齢が逆転してる。やっぱりビリエルさんが若過ぎる〜。どんなシーンよこれ。フィリッポも若々しいので、青春の悩みを告白する若き王と、それに応えるさらに若くして出家した司教みたいな図式が*4。大審問官が突っぱねるのは、彼の若さゆえの融通の利かなさ、みたいな。なんだか危険な絵面(えづら)だ。だから話を曲げるなと小一時間・・・・しかしDKTは毎度こういう怪しい要素好きだな。誰がこういうキャスティングするんだ?ビリエルさんをこういう文脈で引っ張りだすのは止めようよ。

続く勢揃いの重唱も、呪わしき美貌も、ロドリーゴの死も良かった。ロドリーゴも今度は良かった。あ、ちなみにレクイエムからの旋律は有のバージョンでした。私はこれ冗長だと感じるんですが*5、ミリン・フィリッポはここうまかった。

4幕の入り。この音がすごくいい。ここがこんなに良かった記憶はちょっとない。こっから後は引き込まれて一気です。エリザベッタのアリアも調子が出た感じがします。でもテオリン節ですな。この人は誰を歌ってても本人が前に出るタイプの人ですね。カルロは相変わらずいい。カルロにしては雄々し過ぎるかも(←これまでのイメージが悪すぎ)。

最後に一言。いやあ。実に楽しめました!!!もう一回聴こう。

Verdi: Don Carlos direkte fra Det Kgl. Teater, Operaen. Kong Filip II: Stephen Milling. Elisabeth: Irene Theorin. Don Carlos: Nikolai Schukoff. Posa: Johan Reuter. Eboli: Randi Stene. Grev Lerma: Ernst Dalsgard. Tebaldo: Ellen Kristiansen. En munk: Sten Byriel. Stemmen: Cecilia Hjortsberg. Det Kgl Operakor. Det Kgl. Kapel. Dirigent: Michael Sch�wandt. (3 hrs., 40 min.)
LIVE BROADCAST ON DR P2 Copenhagen, DENMARK, 8 dec 2007

公演レポがこちらで読めます。ホルテンらしい演出です。
http://mostlyopera.blogspot.com/2007/11/premiere-of-don-carlos-in-copenhagen.html

これは下書きの中からの放出品です。書いたのはもっとずっと前ですが、勢いを殺したくなかったので、殆ど書き直さずに放出してみました。

*1:またこの出だしか。毎度ワンパターンですが、本当にこういう気分なんですもん。

*2:今日はいつも話題にしてる空間がどうのという概念に「立体感」という表現を思いついたらしい。とっても気に入ったらしい。これから頻発する予感。

*3:演出が、というよりはそれを作り上げていくプロセスがそうするわけですが。

*4:なんで出家したのかというと、老若男女にモテ過ぎて追い掛け回されて世の中が嫌になっちゃったから。元々はいいとこのボン。だから若いのに位が高い=王の相談役。

*5:カット版の方が物語全体のテンポとしてしっくり来ます。