パッパーノ/トリスタンとイゾルデ

超久々のまともに売ってるCDレビュー。日本から一般的な流通で購入可能なディスクという意味で。かなり前から積んでたディスク。

Wagner: Tristan Und Isolde [Import, from US]
Plácido Domingo, Nina Stemme, Rene Pape, Mihoko Fujimura,
Ian Bostridge, Olaf Bär, Jared Holt, Matthew Rose
Antonio Pappano, Royal Opera House Chorus and Orchestra Covent Garden

歌手陣は、なんだかスタジオ録音なのにライブの方が完成度が高い気がした不思議なディスクだった。パッションとかライブ感とかそういう、一般にライブ録音が優れているといわれがちな要素じゃなくて、細部の粗の無さとかそういうスタジオ録音のメリットと言える面において、なんだか期待外れ感があった。特にライブ録音で馴染んでいてお気に入りの録音がある人は、逆に比べてしまって、あれれれ・・・・?と思ってしまった。これ以上書くと馴染みの録音のある人の方が不利みたいな変なことになるので、すいません、書きません。役立たずレビューで申し訳なし*1 *2

って、うちの過去の経緯からこれ書くとパーペだと思われそうだな、違う人です。パーペは技術的にはおっそろしく安定した人です。


んで、書きたいことは2つ。ひとつは、パッパーノがあまりにもパッパーノ節であった。ヴェルレクで感じた個性そのまんま過ぎてびっくりした。ここまでそのままとは!だって曲の性格違い過ぎるのに!そして私はこの個性は好きだ!というわけで、そう思った直後に来日情報を見かけて超嬉しかったのです。

この個性は、なんだろ、すごく精緻で、繊細というより精緻で、そしてやっぱりダイナミックレンジが広くて、広いというかその分布がすごく特徴的で、静かな瞬間の占める割合が一般的な演奏に比べて多くて、グラフにプロットしたら明らかになりやすそうな特徴というべきかなあ。なんだろ、平常レベルが通常より大分抑え目のところに設定されていて、普通の演奏がたまにピアニッシモを使うのなら、パッパーノの場合、常にピアニッシモが平常レベルで、逆にたまに普通のボリュームまで来るような逆転したバランス。こんなこと書いといて、ヴェルレクとトリイゾのエンジニアがたまたま同じで、その人の癖とかいうオチだったら笑えるな。違うと思うけど。だってライブとスタジオ録音で全く同じ個性なんだもの。

一瞬上がってすぐに抑える、このセンス好きだなあ。しかし我ながら本当にそういう系統が好きだな。歌は自覚してたけどオケでもあるとは。でもでも何にでも求めるわけじゃなくて*3、オペラ演奏に求めたいものがそれなんだ。なんでこうなるんだろ、演劇性を求めてるからってのは大いに関係してる気がする。

しかしこの個性ってワーグナーの演奏としてはどうよと思わんでもない。というか思う人は多いだろうと予測出来る。でも私は好きだ。聴きたい。

もひとつ思うのは、この人オペラ指揮者としてキャリアをスタートさせてずっとそっちでやって来たらしいんだけど、でもそういうキャリアから連想する演奏とこの個性は反対なんじゃないの?ということ。すっごく精緻で古楽とかそっち系の雰囲気を感じる。いえ私が個人的に(それは特殊だろうと自覚しながらも)オペラ演奏に求めるものはまさにこれなんですが、それはそれとして、オペラ育ちの指揮者と聞いて予測する個性って違うだろうことは予測出来る。どっちにしろ、面白い!

まあ書きたかったことは、これ聴いて私はパッパーノ好きだ!と思ったってことです。というわけで今年こそ聴くぞー。夏はイギリスに行くぞー。


ふたつめ。最初に書き出した歌手のこと。なんか今回の経験から思ったことなんですけど。舞台経験数の少ない私めも*4、舞台ならではの熱とか共演する歌手との相乗効果とかそういうのは、どんなに優秀な歌手でもバラつきがあるのは理解しております。というかそれが舞台の醍醐味ですよね。ただ、技術面は、声の調子はともかくとして*5、ピッチの正確さであるとか、一旦入った音をどう維持するかとか、そういうのは比較的バラつかないものだと思ってたんですよ。特に今回はスタジオ録音であるので、声にかかる無理は小さく、そういう意味では無理を押して狂いが出る要素は少なく、期待出来るのではないかと。それも違うのかーというのがこのディスクの発見でした。

バラつきというか、時間の流れのせいなのかなー。画なんかもあるじゃないですか。特に多量に書くことが求められる分野、まあマンガですけど、あれなんか、ある時期にすごくいいバランスになってた人でも、その状態で止めておくことは出来なくて、惜しまれつつも変わっちゃうんですよねー。容色と一緒で、保っておけないんですよ。感性と結びついた創作性とかそういういかにも止めておけなそうなレベルの話じゃなくて、デッサンの正確さとか、そういうごくごく技術的なレベルでも。ああいうのが歌唱にもあるんだろうなあ。

いやー勉強になりました。ちょっと認識を改めました。

*1:主に検索で辿りつかれる方に言ってます。マイナーなデンマーク情報と違って、こういう有名歌手とかメジャーレーベルの録音言及すると訪問者多いですから。

*2:ここは自分の消え去っていく記憶のためのメモが第一の目的なので、興味は自分が何を感じて何を考えたかであり、客観性のあるレビューをお求めの方は他を当たってください。

*3:だって熱血熱烈少年マンガのようなおっちゃんの演奏大好きだし。

*4:と言いつつちょっと数えてみたら、昨年だけで19公演観てた。リングをバラで数えてよいなら。

*5:私はこれあんま重視しないタイプです。それより気になることがあるから。