オーフス黄昏を観た

半年以上前に一大マイブームを巻き起こしたオーフス・リングですが、実は入手した音源に問題があって、ジークフリートは何故か大丈夫だったのですが、他は再生中に頻繁に止まったりして満足な状態で観れていなかったのですが、やっと解決しまして、まず黄昏を観ました。

やっぱりこれ、音楽すごい。演奏だけ聴いてもすごくいいけど、こうやって映像を観ると登場人物との寄り添い感が半端ない。いや、これは歌手の方が音楽に合わせて動くからぴったり見えるのかな。ものすごい演劇的。音は重めだけど演奏は重くない。でもこのドラマとのぴったり感すごい。煽りっつーか緊張感つーか畳み掛けるような心臓ドキドキ成分が溜まらない。ショル爺のような本能に直接届く成分もある。

ノルンが歌い出した途端に、レベル高くてびっくりします。ノルン一人一人の感情が飛び込んで来る。なんだこれ。どうなってるんだ。コペハンでもここまでは無かったな。この間にデンマーク様式に馴染んでキャッチする能力上がったのか。ちなみにお若いラスマルクさんが見れます。金魚みたいなメイクで超可愛い。歌も可愛い。

ジークフリートブリュンヒルデの登場。爽やかだ(笑)。ブリュンヒルデにコートを作ってもらったジークフリート。しかし、アナセン、一年でいったなー。去年まではなかったポコンが・・・・この後は坂道を転がるように特大トトロに向けてまっしぐらだな、きっと。40代半ばまで維持したからデン人にしては頑張った方でない?しかしあのくびれのない幼児体型のコロコロと転がるジークフリート映像があの一本で終わってしまったのは実に残念だ。

この頃は、なにかまだ普通のヘルデン*1になろうとしてたのではないかという節があって、アナセン様式は完成してない。貴重な一本。実はこんときの方が世間ウケはいいかもしれない*2。歌唱も完全に(アナセン流)ワーグナー様式になってない。って、初役だからオーフスは。この前の録音はリリックばかりであまりスピントっぽいのすらないだが、強いて言えばミュージカル・Houdiniが一番それっぽいのだが、部分的にその辺をそのまま思い出す箇所もある。じゃなくて、今回はごくたまにそういう箇所がある以外は全部ワーグナーに切り替わってることを驚くべきだな。


しかしオーフス黄昏の驚くべきは、ハーゲンのハグランドである。この人めっちゃ来るわー。なんだこれ。息詰めちゃう。これがすごくなると胸が苦しいになるんだろうか。デンマークのKammersangerはやっぱすごいわ。そうか、こういう人選がもうあるんだから、それを聴いたらいいわけだ。

ハグランドですごいと思ったのは、初登場のギービッヒ家の場面からもう息詰め効果すごいんだけど、2幕の冒頭のアルベリヒとの場面で、これめっちゃすごいんですよ!!何度も聴いてしまった。この場面をこんな風に聴きこむ日が来るとは思わなかった。まずアルベリヒは比較的普通にやってきて、いつもの調子で歌ってる。昨日の晩も来てたんだろうなみたいな。対して、ハーゲンは、ずっと囁き声。当然ボリュームはアルベリヒよりずっと小さい。でもその囁き声が、無表情なのにすごくドスが聞いてて、迫力がある。これすごい。劇場で聴いてみたかった。

ハグランドってたぶん、アナセンがそうであるように、声だけ取り出してすごいもの持ってるって人ではないのね。張り上げもやらないし、これまた一瞬上げてすぐ急降下させて終わるタイプ。だから初聴きで誰にでも分かりやすくすごいとか、全然そういう感じではない。でも芸がすごい。技術と表現力とセンスがすごい。こういうのがちゃんと評価されるデンマークはいい国だなあ。


グンターとグートルーネもいい。グンターは線が細くて銀縁眼鏡かけた画に描いたような美青年。声と歌い方がちょっとビリエルさん似。ビリエルさんのが全然強いけど。なよなよしてて面白い。誓いのシーンで剣で手を切るところとか自分で出来なくて、ハーゲンに手首掴まれてしてもらってる(笑)。あと何度も張り倒される。ギャグマンガの張り倒され要員みたい。

うわあ。ラインの3人娘もレベルたけー。アンサンブル完璧なのにエモーショナルだ。どうなってんの。私のキャッチ能力が上がってるだけ?ジークフリート3人娘の一人の魚しっぽを掴んで引きずったりしてるよ。悪ガキめ。

全体に歌手のレベルが高い。他所の録音とか聴いてると、音を外したり、気味悪くずり落ちたりずり上がったり、外れたまま伸ばされて本当に本当にうんざりするんだけど、どんな録音でもいるんだけど(それも主役級でー勘弁してくれー)、それが非常に控えめで安心して聴いてられる。

ただ、ブリュンヒルデが私的には弱い(特別なものが無い)かなーと。この面子だったらハーゲンとジークフリート並の特別な何かが欲しい。


このシリーズずっと演出は良かったんだけど、基本的にはト書きに忠実で、ものすごい細かいレベルまで忠実なのにト書き以上のことをするって感じで、美術的なセンスとしてもリアルな暗さで良かったんだけど、ジークフリートの死以降はイマイチかなあ。ただ、こういう演出だと一般に言われてる解釈が出るのも当然だねってのと、これを経てあれがあるのねという意味で興味深く拝見しました。

最後は、舞台の上のものがあらかた燃えてくすぶりになってて、ブリュンヒルデの背景にヴォータンっぽい影があって、最期ブリュンヒルデがそれを燃え上がらせて本人はそれで力尽きて、ここから音楽が穏やかになるって直前のタイミングでそれやって、ブリュンヒルデが倒れると、手前に何故か女の子がいて終幕でした。また子供を出したな。黄昏の最後の音楽は子供、新しい生命のイメージなんですね。


Gotterdammerung Den Jyske Opera 1995
Conductor: Francesco CristoFoli
Stage director: Klaus Hoffmeyer
Aarhus Symfoniorkester
Den Jyske Operakor
Siegfried: Stig Fogh Andersen
Brunnhilde: Lisbeth Balslev
Hagen: Aage Haugland
Gunther: Lars Thodberg Bertelsen
Gutrune: Majken Bjerno
Waltraute: Marianne Eklof
Alberich: Jorgen Klint
Norn: Susanne Resmmerk, Marianne Eklof, Antje Jansen
Rhein Maiden: Anne Margrethe Dahl, Birgit Demstrup, Annemarie Moller

*1:なんだよそれ。

*2:でも私はその後開発したものが好きだ。