マリインスキー・ワーグナーの夕べ

本日は、大失敗をいたしました。

その話の前にコンサート会場に辿りつくまでの話。朝、家人がいきなり血尿を出しまして。しかもえらい苦しみよう!朝の移動をキャンセルして病院に付き添いました。待合室で待機してる間は本日のコンサートは9割方諦めてました。本日のみならず土曜まで駄目かと思ってて、そもそもコンサートの心配なんかしてる場合じゃない!さて病院で処方してもらった痛み止めが効いてレントゲン撮って診察してもらったところ、結果は小さな結石で、これが痛いのは噂には聞いていましたが、痛みの強さの割には差し迫った危機などでは全くなく、午後から日常生活をどうぞ、仕事でも旅行でもなんでも行ってもらっていいです、とのこと。このまま入院か?そもそも急死しちゃうんじゃないかと待機していた身としては、安心しましたというかなんというか。さっきまでの展開が嘘のようになって、なんともないの?本当になんともないの?を何度も繰り返した後に車中の人となりました。


そういうわけで、いやー。まさか本日ここに来れるとは思ってなかったわーと思いながら辿りついたサントリーホールでした。

前半はローエングリンタンホイザーから前奏曲と序曲、後半に歌手が入ってパルジファルの3幕というプログラムです。オケは、自分の好きな系統の音では決してないが、これはこれで有かなと思った1曲目「ローエングリン」第1幕への前奏曲、ところがなにかアンサンブルが揃わない第3幕への前奏曲、決して重くはないが軽快ではない「タンホイザー」序曲と来て、ううーんと首を捻らざるを得ない状態で前半が終わってしまいました。ついでに、一音目から、ああCDで聴いたあの音だわーと(誉めてません)。シンバルのでかさには個性を感じました。あれはやり過ぎだろう。バイオリンの合奏は笛っぽい。菅ではなく笛と言いたい、そんな音。座席はオケの真横だったので、ゲルギーのかっぱ踊り(手をひらひらと泳いでるみたいに動かす)も堪能出来ました。

こんな場所に座っておいてホールについて言うのもなんですが、サントリーホールにあまりよい印象も持てませんでした。サントリーだからやっぱ正面の後ろに座るべきだったのか。しかし私は解像度の高い場所が好きで、残響が効いてるところはあんま好きじゃないんですよ。オペラ趣味だとそういう人*1は多いと思いますが。高解像度で、残響があんま目立たなくて、その控えめな響きが繊細な振動のように明晰に聴きとれるホールが好きです。

しかし、こんなん序の口で、後半が大失敗でありまして。席に戻って、舞台の上がさっきと同じレイアウトのまま、舞台の縁の本当に落ちそうな場所に譜面台と椅子が追加されているのを見たときに、嫌な予感がしたんですよ。だって、スペースがないから譜面台と椅子が正面を向いてなくて、真横に近い斜めを向いて、左右から向かい合うように並んでいるんですもん。そして予想通りそこに歌手が並びまして、向こう側の向かい合う配置の人はともかく、手前の人達は殆ど後ろ向きではありませんか。サイド席とって、横からではなく後ろから聞く展開になるとは思わなかった。救いはパーペのグルネマンツが反対サイドで、パーペだけは斜め横から聴くことが出来たことでした。反対サイドとってたら悲惨だった。

この配置になっちゃうと、楽器はともかく声は一挙に聴き難くなるんですよねえ。音としては、なにか見えないヴェールが被せられたような状態というか。まあこことった方が悪いんですけどね。

パーペは、やっぱ声がドライになってきてるように感じたけど、私の場所が悪かったのかもしれません。土曜のリサイタルで確認したいと思います。相変わらずクリアなディクションで非常に雄弁なんだけど、最初から最後まで(格好)いい人過ぎてるような気も。3幕のグルネマンツだからそれでいいのか?

そうそう。パーペ、眼鏡でした。最近眼鏡でステージに立ってますが、どうしたんでしょう。これまで裸眼だったのかな?そういえばプライベートフォトでも眼鏡姿を見たことありませんでしたね。

クンドリの人は合唱のポジションのままで歌ってました。3幕のクンドリはほんの一瞬なので、そうなのでしょう。

パルジファルとアンフォルタスは、そういうわけでまともに聴けちゃいないのですが、その点を留保しつつ読んで頂くことにして、私の位置で聴いた範囲内で書くと、パルジファルが、私が個人的に超苦手としているノーコン引き伸ばし歌唱をやらないのは良かった。これ、今はみんなこう歌えということになっているのか、現役ヘルデン(の有名どころ)はみんなやるんですよ。いや、やると客が喜ぶからやるのか。鶏が先か卵が先か。昔の歌手はやってないんですけどねえ。そのうちノーコン引き伸ばし歌唱の歴史でも調べてみようと思ってます*2。ちなみにゲルギーの新譜もこれが駄目で駄目で、2幕なんか通して聴けてません。話は公演レポに戻って、これは私が背後から聴いたせいもあるかもしれませんが、声があまり詰まっていないメレンゲ声系統で、それも割と良かったと思いました。ちなみにメレンゲ声というのはこの声をどう表現しようと思ってたときに作った言葉で、一般に声だけ取り出して賞賛されるようなタイプの分かりやすい良い声ではありませんが*3、ある種の快さがあって悪くないと私は思っています*4

アンフォルタスは、ごめん、覚えてないわ。たった一日前のことなのに。きっと集中力も鑑賞力もないんですよ、私が。聖杯を見たいなら俺の屍を超えていけ(大意)と言う箇所があまりにもフラットだったかなと。声は背後なので、全然分かってなかったと思います。いま書きながらチェックしたら、この人代役でしたね。

私は声は割とどうでもよくて表現を聴きたい人間なので、こういう条件でも楽しめなくはない筈なのですが、そちらもどうも不完全燃焼のまま終わってしまいました。ちなみにオケも、何が駄目ってわけではないけど、すごく感動するとかうっとりするとかいうこともなく終わってしまいました。うねりも(足り)ないような。

演奏が終わった瞬間ゲルギーの手がまだ肩くらいの高さの段階でブラボーを出した奴がいて、ゲルギーのムッとする表情がよく観察出来ました。

終了後はゲルギーサイン会がアナウンスされていて、終わったらパーペサイン会も追加されてました。日本のいつものパターンでCD購入者のみだったので、横目で見ながらホールを後にしました。そのCDはもう買ったっちゅーねん。

マリインスキー歌劇場管弦楽団・合唱団
ワーグナーの夕べ

2011年2月15日(火) 19:00開演
サントリーホール 大ホール

*1:器楽系だけ聴く人よりもハイファイな状態を好む人

*2:でもプロセスが苦痛で挫折しそう。

*3:もっと強くて真っ直ぐ飛んでくるようなタイプが好まれますよね、ヘルデンとしては。まあ一般には。

*4:でも昨今、ワーグナーテノールは「嫌なことしない」が第一関門になってる現状はどうかと思います。致命的なマイナスが無ければ満足しなければいけないという。