デンマークのエネルギー政策

存在は知っていたが、読むきっかけが無かった本を読んだ。エネルギーショック後の1982年にデンマークで出版された本で、2001年に日本で出版するにあたり、執筆当時に提示したエネルギーの将来像がその後どのように推移したかを追記してある。

エネルギーと私たちの社会
ヨアン・S・ノルゴー、ベンテ・L・クリステンセン共著
新評論

中身は『成長の限界』インスパイアード各国版といったところで、1950年から1980年までの過去のデータに基づき、1980年から2000年、さらに2030年に至る将来像を、高エネルギー社会と低エネルギー社会という2つのシナリオで定量的に提示したもの。1980年から見て近い将来であった2000年までの選択に基づいて、その結果を2030年まで延長することで全く異なる2つの将来像を提示し、その時点における選択を促す内容になっている。ごちゃごちゃ言うより絵を出した方が早いと思うので最後に出しておきます。ちょうど時期的に、オイルショックを契機とした減少傾向がそのまま続くのが低エネルギーシナリオ、オイルショックによる減少は一時的でそれ以前からの成長トレンドが続くのが高エネルギーシナリオになっています。

自分にとっては各国版の似たような本を読いでいるせいでテーマそのものは特に目新しくはないものの*1、やはりお国事情というのか、発想の違うところはあった。そういう意味で気付いた箇所をメモ。どっちかというと枝葉であって、テーマそのものに対する回答を知りたい人には役に立たないと思います。それに、この手の本なら、いまこれを選ぶ必要はないと思う。日本を対象にした類書は最近でも出てるし、具体的な省エネ手法は、私はエイモリ・ロビンズの本をお薦めします。

  • 歴史的には、森林伐採して農地開拓→農業栄える→森林が無くなったので燃料は輸入→酪農品を輸出して輸入燃料に頼る構図から抜けられなくなった。
  • 第二次大戦中にストーブにピート、車に木材ガスを使用せざるを得なくなった。
    • 木材ガスなんて使ったんだ。これは今の言葉で言うところのバイオディーゼルですよね、たぶん。
  • 『私たちが今でもまだ足りないと考えるニーズのほとんどは、実際には経済的格差に原因があります。裕福な人に追いついたり、追い越してやろうという欲望が格差から生じるからです。』
  • 『過去10年以上に渡ってデンマーク国立社会研究所が行った研究によれば、自由時間の増大と賃金上昇の選択では、国民の半数以上が賃金よりも自由時間を望むと回答しています。・・・ほかの先進国でも同じ傾向が見られますが、最も顕著なのはスカンジナビア諸国でした。』
    • こんなとこ読んでる人はみんな自由時間派だと思いますが、この意識に関しては、デンマークの80年代=日本の2000年代くらいですかね。過半数が望むことが実現出来ないのは何故か。耐えざる成長の中で僅かな縮小を選ぶことは、僅かな縮小ではなく転落になってしまうからである。
  • 『科学者、事業家、産業界、労働組合のリーダー、政治家などが成長を目標として懸命に働けば働くほど、その目標を変更することが難しくなります。』
    • いや単に労働組合のリーダーがここに出てくるのがお国柄の違いだなと思って。日本だと産業界のカウンターが組合ですからね。
  • 『児童心理学の研究によれば、小児の情緒的発達は、母乳で育てられて母親との肉体的接触を楽しむことができたか、それとも哺乳瓶での授乳で肉体的接触の機会が少ないかに影響されるとしています。住宅、クルマ、流行の衣服、プラスチック製の玩具、飼っている動物などの嗜好を見ると、「哺乳瓶での授乳」からの一貫した傾向を見ることができるようです。』
    • こ、これはいいんだろうか。今の日本だと企画の段階から難しそうな研究テーマだなあ。昔の本だからその後翻ったかもしれないので、これだけ読んで信じないように。実はこのくだりが一番インパクトが強かった。絵も強烈。この本は挿絵が付いてて可愛いんだけど、この箇所だけは強烈。
  • 『ルーカス工場では、生産工程は労働者の興味を引かなければならないという原則を決め、最終製品が有用であること、環境を保護すること、そしてエネルギーや原料の消費を可能な限り節約することに特に重点が置かれています。』
  • 『3層ガラス窓の導入を考えている人は、既存の一枚ガラス窓の内側に密閉型の複層断熱ガラス窓を設置するのがよいでしょう。こうすると、古い窓は雨風に対候性があり、しかも密閉されないようになっているので、理想的な形で結露を防止します。』
    • 実践的な知恵。
  • 低エネルギー社会のメリット。貿易収支の赤字を埋め合わせるために余分な生産をする必要がなくなる。赤字の最大要因がエネルギー輸入であるから。
  • 他に解決出来るもの。資源枯渇。エネルギー資源をめぐる先進工業国と発展途上国の不平等や国際紛争。大気汚染、海洋汚染、輸送事故。資源供給国に対する弱い立場、独立性。エネルギー費用。

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同時に、この本の訳者の手による『北欧のエネルギーデモクラシー』も読んだ。「エネルギー政策を民衆が決める権利*2」は本当にそうだなあと思った。私はそう思うのだが、しかし日本での反応は真逆で、そういうことを言い出すと思いあがってるとかそういう反応が来るのね。政治っつーのも、それだけで印象悪いし。政治マターあるいはイシューであるという文脈で出してても、政治=なんらかの利権に基づいた行動と受け取られたりするしなあ。たしかにそういう意味で使うことも無くは無いが、一義的な意味が置いてけぼりで暗喩的な意味用法ばかり先に来るのは如何なものかと思う。

少しだけデンマーク風力発電に関するメモ。

  • デンマークの「風力発電開発の祖」であるポール・ラ・クールがフォルケホイスコーレの教師であったこともあって、デンマーク風力発電はその歴史から組合と関係が深い。1997年の国内の風力発電のうち8割が民間所有であるが、その半分は組合所有である。
  • いくつかの段階を経ながら風力協同組合のルールが形成されてきた。
    • 居住基準:組合に出資して「風力株」を購入するためにはコミューン内の同じ電力供給エリア内であり、かつ風車から3km以内であることが要求される。後に拡大され、隣接するコミューンも含まれ、範囲も10kmまでとなった。
    • 電力消費基準:組合員が購入できる「風力株」は、それぞれの家庭で消費する電力量相当(7千kW=7株)までとする。後に消費電力量の50%増し、9千kW(のどちらか大きな方か?)に改正され、現在は3万kWまでOKになった。
    • 地方単位で風力発電に関する土地利用計画を作成し、ゾーンI(受入不可)、II(慎重な精査要)、III(受入可能)との区分を明確にし、風力発電の建設がスムーズかつ問題を含む土地に計画されないようになっている。

*1:だから存在は知っていて読んだことはなかった。

*2:デンマークの環境NPOであるOOAが掲げたキャンペーン