「マーラー 君に捧げるアダージョ」ユニークな音楽の使い方

PACの定期のパンフに載ってた内容。この映画を観るまでにパンフがどっか行っちゃいそうなのでメモ。

映画のほとんどのシーンに「交響曲第10番」(の第1楽章)が流れてくるが、もしも原曲通りにそのまま流した場合、オーケストラの厚みによって音楽が物語の展開を邪魔したり、場面の雰囲気を壊してしまう危険性が出てくる。普通なら、プロの映画音楽作曲家が物語りにうまくフィットする形でアレンジするのだが、監督は、そうした常套手段を用いなかった。なんと監督は、マーラーの総譜をいったんバラバラに分解し、その中から特定の楽器パート(木管金管や弦)を個別に抜き出し、その分解パーツをエサ=ペッカ・サロネン指揮スェーデン放送交響楽団に演奏させて"映画音楽"にしてしまったのである。映画の中から聴こえてくる、鳥のさえずりのような独奏オーボエや、サロン音楽のようなハープの調べ。単独で耳にすると、誰か他の作曲家が書いた曲のように思えるけれど、実は全部「交響曲第10番」の総譜に含まれているパート、つまりマーラー本人が書いた音楽だ。
前島秀国(サウンド&ビジュアル・ライター)