京都市長候補への公開質問状

京都会館再整備について京都市長選挙に立候補を予定している皆様への公開質問状
立候補予定者からの回答を公表します。2012年1月20日公表
記者発表用資料 全文
掲載紙等、今後の経過は随時更新 http://www.jca.apc.org/jikkuri/

前文
京都会館は京都の戦後復興の象徴として、戦前に倒壊した岡崎公会堂の再建という市民の切実な願いを受けて高山義三市長のリーダーシップのもと、前川國男の設計によって1960年に竣工しました。その際には日本建築学会賞、建築業協会賞、建築年鑑賞、照明学会賞など数多くの賞を受賞し、海外の評論家にも絶賛されました。
さらに時を経た現代においてもその評価は不動であり、日本を代表するモダニズム建築のひとつとして、2000年には日本建築学会近畿支部の「関西のモダニズム建築20選」に選ばれ、2003年には世界遺産を統括するユネスコとも関係の深い国際組織DOCOMOMO日本支部の「DOCOMOMO Japan 100選」にも選定されました。
京都会館が有する建築的、歴史的、都市環境的な価値について、日本建築学会は「京都会館についての見解」(2011年3月)において次のように指摘しています。
1.日本の戦後モダニズム建築の到達点を具現化した重要な建築であること
2.都市的な公共空間の創出を試みた優れた建築実践の具体例であること
3.京都の歴史的景観を形づくってきた象徴的な建築であること

質問 (1)
このような価値をもつ京都会館の内部空間および外観を大幅に改変する再整備計画について、いかがお考えでしょうか。

門川

  • 日本を代表するモダニズム建築として高い評価を受けている現在の京都会館の建物価値を検証し、次代に継承するため、昨年10月には、「京都会館の建物価値継承に係る検討委員会」を設置しました。日本建築学会をはじめとした学識経験者や地元・京都の建築の実務者はもとより、実際に技術者として舞台芸術に携わっておられる方や永く地元にお住まいの方などにも御参画いただき、様々な視点で京都会館の建物価値をどのように次の世代に継承していくかを検討しており、専門家の御意見を尊重しながら設計を進めています。
  • 同委員会では、「改修し、使い続けながらいかに建物価値を継承するか」という、近代建築の再生・活用の新たなモデルケースとするとの気概を持って取り組んでいただいており、将来、文化財として認められる建築物となるよう、建物価値をしっかりと継承してまいります

中村
現在の京都会館は、ご指摘の通り、優れた建築的価値、周囲の景観に対する落ち着いたたたずまいをもつものであり、関係者や住民の合意抜きに、これを大幅に改変する再整備計画は許されません。
私は、京都会館の再整備計画を根本から見直します。

質問 (2)
京都会館の再整備に関しては、平成14〜22年度に専門的な調査や検討委員会を経て、外観を保存したまま、または一部増築によって、第一ホールの機能改善を図る方針が出されていました。しかし再整備基本計画では、公的な議論を経ずに第一ホールの建替という結論に変わっています。平成22年度以前の方針を無視したこの建替の妥当性について、いかがお考えでしょうか。
現職におかれては、方針変更の理由およびプロセスを明らかにしてご回答ください。

門川

  • 京都会館の再整備基本計画につきましては、平成14年度以来、京都会館の来場者とプロモーターに対するアンケート調査、利用者や市民代表者等による「京都会館再整備検討委員会」における検討、市民アンケート調査の実施、さらにはパブリックコメントの実施など、公開の下でしっかりとした議論を積み重ねて策定したものであります。
  • この間、同検討委員会からは、平成18年12月に「A案(地上部分の増築なしの改修)若しくはB案(舞台部分等を拡張する改修)を中心として、今後詳細な再整備の構想・計画を立案していくべきであるが、C案(全面建替え)により現代の理想的なホールを整備すべきとの意見もあったことから、今後検討を深めていく過程においてもこういった意見を踏まえて検討していくことが期待される」との御意見をいただきましたが、確定的な方針が示されたものではありません。
  • 第一ホールの建替えは、これまでの議論を踏まえ、ハード面はもちろん、再整備に要する費用、運営面などのソフト面も十分に検討を行った結果、舞台機能や搬入・バックスペース、現行法適用性、費用面などの観点から結論付けたものであり、京都会館を文化芸術都市・京都にふさわしい文化の創造・発信拠点として機能させるために必要不可欠なものと考えております。この計画に基づき、「文化の殿堂」を目指した再整備を進めてまいります。

中村
第1 ホール全面建て替えという今回の再整備計画は、市民の意見や検討委員会などでの長年の議論の結論と違うものとなっているのは貴会のご指摘の通りです。
ロームとのネーミングライツ契約の交渉の中で、ロームには現整備計画案が示されていましたが、市民には何も知らされていませんでした。特定の企業とは相談しながら、市民に何も知らせないまま、京都市自身の検討結果と違う結論を出すことはあまりにも異常です。この経過だけを見ても、今回の再整備計画に妥当性はないと考えます。

質問 (3)
今回の再整備に伴って、該当地区の高さ制限を15メートルから31メートルに緩和する都市計画の変更が予定されています。これは、京都市自らが、市民の私権を制限してまで実施された新景観政策の理念や主旨に反する行為を行うこととなると考えます。この点についていかがお考えでしょうか。

門川

  • 平成19年に実施した新景観政策においては、一律的な高さ規制の運用だけでは、都市の硬直化を招き、活力ある都市の形成が困難になることから、総合的・計画的な配慮がなされたものについては、地区計画制度により特例を認める制度を合わせて設けています。
  • 岡崎地域については、わが国を代表する文化交流ゾーンとして、そして高いデザイン水準を有する既存の建物と広々とした空間や水と緑が一体となった素晴らしい都市景観、都市環境を有する、まさに市民の財産です。このたびの都市計画の見直しは、岡崎地域活性化ビジョンの実現に向けて、現在の優れた景観を保全し継承するため、今の高さを基本として、現状を都市計画に位置付けるものです。そのうえで、第一ホールについて、優れた景観を継承しながら、京都にふさわしい多様な文化・芸術の催しが開催できるよう機能強化を図ろうとするものであり、新景観政策の理念や主旨に合致しております。

中村
京都市の新景観政策は多くの市民の長年の運動の成果としてつくられたものです。この政策の一番の目玉は高さ規制の強化にありました。これまでも一つひとつの建物に関して、個別に審査し、市長が特例許可を与えてきたことはありましたが、今回の地区計画による高さ規制の緩和は、その政策を京都市自らが、面的に外してしまおうというものですから、新景観施策の理念に反するものにほかなりません。
私は、このような規制緩和はするべきでないと考えます。

質問 (4)
今回の再整備には100億円近い費用が必要で、ロームとの命名権契約による52億5000万円の収入と国の補助金等で賄われるとのことです。国の財政赤字が喫緊の大問題で、さらに東日本大震災以降は東北の復旧・復興を優先して税金を有効使うべき時に、50億円近い国税を投入することについて、いかがお考えでしょうか。

門川
今回の京都会館再整備計画は、「芸術文化都市・京都」の発展にとって不可欠なものであります。厳しい財政状況の下でネーミングライツにより収入を確保して取組を進めるものです。

中村
私は、今回の再整備計画は、(1)(2)(3)で述べた問題点とあわせて、税金の使い方という点でも、問題があると考えています。

質問 (5)
今回の再整備によって世界水準のオペラやバレエが上演可能な舞台設備を保有すれば、施設の維持管理費が現在より増大すると考えられます。市民にとっては施設使用料が上り、税金(市民負担)のさらなる投入が必要となる可能性があります。この点についていかがお考えでしょうか。

門川
使用料につきましては、プロが舞台機構を駆使して興業される場合と教育的な事業や単に会議や学会でホールを使われる場合を区別して考える必要があり、他ホールの例も参考に、ご利用いただきやすい料金設定を検討してまいります。

中村
今回の再整備計画は、世界水準のオペラやバレエの上演可能な舞台設備も理由とされていますが、関西でもその水準の舞台設備は、すでに大津市びわ湖ホール)と西宮市(県立芸術文化センター)にあります。大阪の新フェスティバルホールも2013 年オープンです。関西に四つ目をつくり、世界水準のオペラやバレエがそんなに多く来て、採算が成り立つのかどうか、大いに疑問です。
一方、維持管理費の高騰による市財政への圧迫と利用料の値上げによる市民の負担増、また、市民が京都会館を利用しにくくなることが懸念され、私はこの点も、大きな問題だと考えます。

呼びかけ人

  • 榎田基明(京の道と交通を考えるネットワーク 事務局長)
  • 梶田真章(法然院貫主
  • 兼松紘一郎(DOCOMOMO Japan幹事長)
  • 河副英治(京都勤労者演劇協会 会長)
  • 川越義夫(小倉山をみつめる会 世話人代表)
  • 榊原義道(北山の自然と文化をまもる会)
  • 佐々木佳継(京都・水と緑をまもる連絡会 )
  • 鈴木博之東京大学名誉教授、青山学院大学教授、DOCOMOMO Japan代表、「明治村」館長)
  • 西本裕美(京都会館再整備をじっくり考える会)
  • 西本雅則(京都水族館(仮称)と梅小路公園の未来を考える会)
  • 久永雅敏(新建築家技術者集団京都支部 事務局長)
  • 前田忠直(京都大学名誉教授)
  • 松隈洋(京都工芸繊維大学教授)
  • 宮本和則(京都の近代建築を考える会 代表)
  • 山崎泰孝(建築家、演出空間技術協会理事)
  • 横内敏人(京都造形芸術大学教授・副学長)
  • 吉田剛(北区まちづくり研究会 運営委員)
  • 吉村篤一(京都会館を大切にする会 代表)
  • (以上18名 五十音順 2012年1月20日現在)

問合先