映画・魔弾の射手(ネタばれ注意!)

ネタばれ有だけど、グロ苦手な人は最初の方だけ目を通してから臨んだ方がいいかも?さて、上京ついでに観てきました。すごく簡単に。

映画としては、やりたかったことは分かるけど、あんましかなぁ。この監督はグロシーン趣味があるので、苦手な方は、小さい画面で観ることをお薦めします。延々と兵士の死体を写したり、死体の口からヘビが出て来たり、首ちょんぎったり(死体だけど)、(料理人が)獣の内臓を捌いたり皮を剥いだりといったシーンが大写しになります。そこそこリアルだけどまあ綺麗な方だし、死体も目は写さないし、よっぽど苦手じゃなければ大丈夫そうな映像です。

で、そのグロ絡みのおどろおどろしさというのが、この映画のテーマのひとつなのかなあ、という感じでありますが、そんなに効果的じゃなかった。これは絵コンテ切る人の責任の領域。あとCGの使い方が下手。狼谷のシーンがハイライトなわけですが、ザミエル登場箇所なんて特に、作り込みの甘いCGが、ちょっとなー。こういうシーンは、ものすごい風に煽られるだけで何も写さずに役者の「何かいる」演技だけで想像させる昔風の作り方の方が、よっぽど効果的だなあと思ってしまう仕上がりでした。

映画としては全体にイマイチな感じなんだけど、特にがっかりなのが、アガーテのアリアのシーン。頭に変な角生えた姿が幽体離脱して歌うんだけど、そのCGのセンスも作り込みもなってなーい!しかも星空(たぶん)を背景にしたところなんて、これはあり得ない。少女漫画を実写化したら、やっぱりあれは漫画だからよかったんだと実感してしまうようなシーン。ここは絶対バルコニーに出て遠景で全身写して、ドレスがたなびくような音楽でしょう。全く合ってないじゃないですか。あまりにも不自然なので、この映画に金出した奴がここだけはこうしたいと言ってゴリ押しでもしたんじゃなかろうか、という背景をつい想像してしまいそうになるほど不自然。


しかし、その有り得ないと思った映像のアガーテのアリアが、今回の演奏の白眉でした。素晴らしいテンションと技術。入りのテンション素晴らしい。映像に邪魔されたくないので目を閉じて聴いてましたよ。この人、絶対生で聴きたい。正直、演奏も映像も気に入ったとは言い難いのですが、このアガーテの音源が欲しいために、DVDが出たら買うと思います。ユリアーネ・ヴァンゼは遠征計画のときに必ずスケジュールをチェックする歌手リストに掲載決定。超絶お薦め。

エンヒェンのレグラ・ミューレマンも、スーブレット的魅力が満載で良かったです。彼女は容姿も可愛いし、愛くるしいというよりは悪戯っぽい方向性で可愛いので、こういう役は嵌るでしょうね。新人起用だそうですが、人気出そうです。

マックスとカスパルは、私的には、頑張ってるけど、それ以上ではないなーという感じ。ただ、演技も含め、オペラ歌手の水準以上ではあると思います。元々ああいうシーンをやって感心させるのは難しいのだと思う。でも一言言わせて。マックス(ケーニヒ)のあの顔からテノールのあの声が出てくると違和感があるわー。素材見てワイルド系?にしたのかもしれないけど、そういう役なのかこれ。きっと映画の距離だから気になるのね。

森林官と領主とキリアンは、特に不満なく、これでいい感じ。

さてパーぺ。確かにこの役は、他の人物とは一線を画すような非常に強い押し出しが必要です。このキャスティングは納得。登場して最初のところは、きゃー!顎がたぷってるよお父さん!とかつい思ってしまいました。隠者なのに。ブラナー映画のときは超ダイエットしてたのに。きっと今回は監督が言わなかったのね。で、歌はやっぱりどんパペ。そうだなあ。パペっちの歌唱をあまり知らなかったらここですごいインパクトあるのかもしれないけど、色々知った今となっては、一番いいときと比べてもう一歩的な感想を持ってしまいます。存在感としても、「ムズムズするような違和感、同時に強烈に惹かれて後を引くような何か」が欲しいです。これは私の(映画での)彼に対する期待水準が非常に高いだけで、だから駄目ってことじゃないんですけどね。

ハーディングの演奏は、私はこの人、どうしてもノれないというか、伴奏的にやってるところはいいんですが、オケが主役になるところとか、特に演奏が煽って来るシーンでは、向こうが煽れば煽るほど気持ちが醒めちゃう、そんな相性なんですよ。ロンドン響は可。

合唱がベルリン放送響だったかな。ドレスデンじゃなかったのは確か。ドイツの団体なのは間違いない。すごいうまいしニュアンスがある。一聴するだけでこのオケと合唱は文化が違うって印象。でも合唱指揮なのか音響(再生装置のそれではなくて映画としてのミキシングとしての)のせいなのか、あんまうまく処理されてない箇所がある。結構ある。

音楽以外では、この映画でよくやったというポイントは、時代ものの衣装とセットでしょうねえ。徹底してる。金はかかってるんだと思う。だから余計に絵コンテのセンスの無さが惜しい。ドレスデンだから、屋外のシーンでは、あそこも!ここも知ってる!って感じでしたよ。

最後にエンドロールを見てたら、トルスタン・ラッシュが音楽をやってました。ドレスデンで映画音楽と言えばラッシュだから。


3/15(木)にヒューマントラストシネマ有楽町にて鑑賞

オペラ映画『魔弾の射手』
演奏:ロンドン交響楽団 指揮:ダニエル・ハーディング
2010年 スイス 2時間22分
監督:イェンス・ノイベルト
領主オットカール:フランツ・グルントヘーバー(Br)
アガーテの父クーノー:ベンノ・ショルム(B)
アガーテ:ユリアーネ・ヴァンゼ(S)
エンヒェン:レグラ・ミューレマン(S)
カスパール:ミヒャエル・フォッレ(B)
マックス:ミヒャエル・ケーニヒ(T)
隠者:ルネ・パーペ(B)
富農キリアン: オラフ・ベーア(Br)