トスカ2回目@兵庫芸文2012

最近レポのサボり癖が付いていかんです。暑いからね〜。

さて行ってきましたよ兵庫芸文のトスカ2回目。私にとっては2回目で、今回のランとしては4回目の公演日です。まずオケが見違えるように良くなっていた!今だから書けますが、正直、金曜の時点だと、特定の楽器が早く出過ぎるのが散見されたりセクション間のバランスが悪かったりして言及し難いなあって感じだったのですが、そういった点は本当に違うオケのように急激に整っていました。ドラマの進行の支えとしてもちゃんと抑えるところを抑えていて、すっかり安心して聴けました。

さて並河さんのトスカを目当てに行ったのですが、この人はやっぱりいい。初日にも同じ点を挙げましたが、とりたてて大声量というわけでもないのに耳に直接スコーンと飛び込んで来る高音を持っていて、その瞬間は耳のすぐ傍で空気が震えるのすら感じられるよう。まるで、うまいフルート奏者の演奏を室内楽の距離で聴いているようです。いわゆるオペラハウスを揺るがすような大声量が歌い手から聴き手までの空気全体が動く感じなら、こっちは耳元の空気だけが動く感覚とでも言うのかな。それに、もちろん、そういう声の響き重視でドラマが希薄になるタイプの歌唱ではありません。そうだったら私がプッシュするわけはありません。

並河さんは、声質そのものに強烈な魅力があって、それが売りになるような一聴で分かりやすくアピールするタイプではないと思うのですが、この響きは非常に魅力的ですねえ。私は持って生まれた素材より芸としての魅力を重視する聴き手なのです。今回、入りの Mario, Mario, .... の部分ですごくはっとして、一瞬ヨーロッパのハウスにいるのかと思っちゃいましたよ。あっちでこれが聴こえてきたら今日は期待出来そうと思うクオリティがあったと思います。

強いて言えば、やっぱり母音のiの響き、気になりますね。ただ、これは、よくボイストレーニングなんかでiはaやoに近づけて発音しろと言われるように、本質的に避けられないところで、ある程度以上の歌唱のクオリティがあるから気になるのかもしれないです。そこまで上手くない(失礼)人の歌を聴いてると、いちいちiの発声が、とか引っ掛からないのですが、ある程度以上の人を聴くとやっぱりiは気になるなーと思ったりします。


福井さんのカラヴァドッシは今まで聴いた中では一番合ってると思ったかも。こちらは対照的に分かりやすい魅力のあるタイプですよね。こういう普通っぽい格好すると、なんだか体型がぬいぐるみっぽい。今日は主役2人が揃って満足なので、すごく良かったです。

斉木さんのスカルピアは、うーん、声はなかなか美しいけど、ちょっと大人しいかなあ。現代の低声男声歌手で平坦でない人は逆に珍しいくらいなので(←所謂ブランドハウスでこの役を歌うような歌手であっても)、無茶振りになっちゃうかもしれませんが、やっぱ理想より平坦ですね。

他の小役はみんなちゃんと務めてたと思いますが、大ハズレも大アタリもない感じなのが寂しい。歌なのか見た目なのか両方なのかもしれませんが、スポレッタが(他の公演と比べて)妙に人間臭かった。ちょっと首から頭にかけて体の前に出る骨格なので情けない雰囲気を醸し出してるからかも。

あと思ったのは、スカルピアの一味とか、みな体型が現代の若者なので、それで衣装が割と現代でもおかしくないシルエットの衣装なので、なんというか、トスカというよりは現代のテレビドラマでも見てるみたいな錯覚に。いや、私の目がオペラ歌手体型に馴染み過ぎなのか?


舞台セットは、回転する楕円の土台と柱やらなんやらを組み合わせたもので、天使像も出てくるし、かなりオーソドックスなもの。演技なんかもごく標準的な、現代の「ちょっとだけ新しいがオーソドックス」なオペラって感じ。ただ、こういう王道セットだと、質感なども含めて完成度の高い舞台を映像などで先に見てしまっているので、当社比(例年比)としては頑張っていると思うのだけど、逆に比較対象が高くなり過ぎて見劣りしてしまうというのは正直あるなあ、と思った。思いきり低予算アイディア勝負の舞台だと気にならないポイントが気になってしまう。2幕の幕切れでトスカがスカルピアの死体を遺して去るところでセットの奥が開いて回廊に消えて行くところなんかは、視覚的には効果的な演出だと思うんだけど、つい先月ウィーンで全く同じ効果でもっと質感のあるセットで見てしまったところだった。

演出で残念だったのが、トスカのアリア「恋に生き、歌に生き」で歌手に腹ばいになったまま歌わせたことですね。歌唱的には姿勢がネックになるし、視覚的にもあんましだったし。しかし、そんな状態で客席に背を向けて状態で歌っているのにあの歌い出しが例のごとく真っ直ぐ響いてきたのには驚きましたが*1。出だしだけじゃなくて、中盤まではずっとその姿勢で、勿体なかった。意図は分かるんですがね。舞台前面にトスカが腹ばいになって屈しててそこに四角くスポットライトが当たってて(たぶん窓から差し込む月明かりのつもり)、後にトスカが舞台を去るときにはその位置にスカルピアの死体があって、という対比なんでしょう。でも私そういう文字にしたときに賢しげに見えるが現場で違和感を感じるような種類の演出って好きじゃないんですよ。机上のアイディアを現場でやってみて修正するってプロセスが不充分か、アイディアの方に拘泥してて離れられないか(もっと言えば文字メディアで受けることを優先してるか)、どっちかだと思うので。

部分的にはそういう点もあったけど、全体的にはすごく良かったと思うし、充分楽しめた公演でした。来年も楽しみです。

ダニエレ・アバド(演出)
ボリス・ステッカ(演出補)
ルイジ・ペレゴ(装置・衣裳デザイン)
ヴァレリオ・アルフィエリ(照明デザイン)
ルーカ・スカルツェッラ(映像デザイン)
佐渡裕(指揮、兵庫県立芸術文化センター芸術監督)

出演:並河寿美(トスカ)/福井 敬(カラヴァドッシ)/斉木健詞(スカルピア)/大沼 徹(アンジェロッティ)/西村 悟(スポレッタ)/森 雅史(堂守)/町 英和(シャルローネ)/大山大輔(看守)
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

*1:しかも私は真上の最も不利なポジションに陣取っていたのに。