サロメ@ROH2012 初日 (5)

いじけたり自己嫌悪ったりデモったり行政訴訟ったりしてるうちに、すっかり間が空いてしまいました。

前のレポを忘れてしまったので、まずは読み返すことからはじめましょう。
http://d.hatena.ne.jp/starboard/20120718/
おお、なんか面白そうじゃないか。こんだけ間が空くと他人の文章みたいだ。自分のブログの一番の読者は自分だと言いますが、ホントですよね。

そんでサロメとヨカナーンが揃ったところからでしたね。そこでまた遠回りな話をはじめますが、私は実に実に実に狭〜い観客で、まずはピッチとか発声とか声域による声の切替がどれだけ自然で正確か、難しい音をいかにそう感じさせずに処理するか*1、その直後の音をどう繋ぐか、個々のフレーズをどれだけ柔らかくリリカルに正確に*2自然に繋いで行くか、いわゆる聴かせどころだけでなく全てのフレーズを舐めるように小姑チェックして駄目出しする実に実に嫌な観客でして、そこをパスするとやっと表現が過剰であるとか平坦であるとか*3があって、ここまでが「駄目じゃない」の範囲で、その上でキャラクターにどこまで真実味を持たせられるか、私が勝手に考えるドラマ上の決めどころ(大抵はリブレット読んでも分かりにくく表現しにくいマニアックな箇所)に何をもたらしてくれるか、というポイントがあるわけです。オペラファンにあるまじきことに、声質はあまり気にならず*4、良ければプラスポイントにはなってもマイナスポイントにはしません。というか、歌唱で「駄目じゃない」基準をパスする人はまずここ引っ掛からないですけどね。私は声質は「気にならない」状態が一番良く、声質が突出して目立つ場合(たとえそれが美しいという方向性で目立つとしても)、あまり評価しない聴き手かもしれません。むしろ、聞き始めたときは違和感すらあったのに、ドラマに熱中して気にならなくなった、という瞬間こそを待ち望んでいるのかもしれません。

と長々と書いたのは、一定以上の水準をパスした歌手に、そこを超えているからこそ出る贅沢系の要求を言うにあたって誤解を招きたくないからでして。


前半のポイントは、サロメがヨカナーンにどうして惹かれるのか、ここだと思うんですよ。

ルックスが良かったから、というのは違うと思うんですね。大体(私の中の)美少女は、そういう理由では人を好きにならない。自分の側に美がある人間というのは他人にそれを求めない。まずそこが違う。そういう理由だとしたら、一目見たときからそれを前提とした言動になると思うんです。でもこのリブレットは違う。サロメは、ヨカナーンが自分につれないから、チヤホヤしてくれる周囲の人間とは違うから惹かれたと思うんです。

元々、本能的に(生物的に)相性が良く、声だけを聴いているときから潜在的には惹かれていたと思うんですけどね。そもそも、ルックスに惹かれたのなら生首にキスをする結末にはならないと思うんですね。もっと切実な、自分にも制御出来ないような衝動、この人物は周囲の人間とは全く違っていて、失ったらもう二度と出会うことは出来ないという予感に突き動かされていないと、ああはならないと思うんです*5

じゃあなんでああいうことを言うのかっていうと、惚れたから好ましく見えるのが半分、口説き方をそれしか知らない、周囲から自分がされたようにすることしか出来ないのが半分だと思ってます。次々に違うポイントを挙げては、次の瞬間には否定してるでしょう。本当は顔だとか髪だとか、そんなものどうでもいいんです。

こんなのいつもの妄想シリーズだから、全く的外れかもしれません。どこにもそんなことは書いていない。ただ、そう思って聴くと私にとっては説得力があるし、面白いんです。


そこで、やっと、パフォーマンスの話ですよ。私がサロメ役に期待するのは、サロメが何故ヨカナーンに惹かれたのか、そこをどれだけ表現してくれるか、です。で、前に書いたように。今回デノケは私が期待してた以上のものを見せてくれた。それは間違いない。その意味では全く見事だったけど、それは抑えたうえで贅沢を言うと、この前半のポイントをどう考えていたのか、私にはよく分からなかった。別に私が思うストーリーである必要はないです。というか、それと違う解釈で、そうだったのか!という新たな発見をさせてくれるなら、それに越したことはありません。

ただ、しつこいようですが、こういう贅沢を言い出したくなるということ自体が、良いパフォーマンスであったからこそなんです。

これでやっと最初の30分の話です。うーん、この調子では、いつまでかかるんだろう。妄想シリーズは後半にもあります。

*1:軽々と発声すればいいというわけではなく、音を出すことに意識が行き過ぎず、ドラマの中でその音が振られた役割に沿った通りにこなせるかが問題。

*2:ドラマティックなロールであっても細部のリリカルさや正確さを割り引いてやる気はないのである。

*3:いや、よく言ってる平坦は、表現というよりは節回しの処理のセンスが平坦と言うべきものであるような気も。両者は切り離せないから両方でしょうかね。

*4:というかピッチの狂いや処理の雑さや余計な力みや調子外れがあまりにも気になるので、それに比べれば相対的な問題として気にならないのです。

*5:この文章は間接的に「生首にキスをする心理」が分かると言ってるわけですが、うーん、危ない。