ドレスデンのボリスレポ(前編)

starboard@ICEの中です*1。ドイツの田舎の風景が車窓を流れていって、いい感じです。ボリス観てきましたよー。すっごく良かったです。心配していたオケの音に歌手の声がかき消される事態もなく、心置きなく楽しんで参りました。

しかしこれ観終わった後で思ったんだけど、一人一人の歌を覚えていてレポされるみなさん、本気ですごいわ。私は音の記憶は弱いのかもしれません。映像の方がよっぽど記憶に残ってます*2。あんだけ予習の時間とってるのに、リブレットなんて一回流し読みしただけで、しかもプーシキンとの相違点なんてものに目が行ってるから、オペラ鑑賞そのものにはたいして役に立たなかったという(笑)。せめて登場する貴族群の名前と登場タイミングを把握しておくべきだった。

ではレポ本文、行ってみたいと思います。

ところで私は独語字幕は分かりませんので、台詞(歌詞)はリブレットから変更されていない前提で書いてます*3。変更されてたら見当違いの解釈になってるかもしれませんが、ご了承ください。

公演情報

補充予定
1869年版に基づく

一幕一場 広場

幕が開くと*4、現代ロシアの民衆登場です。モスクワというよりは冷戦後に独立した周辺諸国のような印象を受ける衣装です。いや、この印象は定着民ぽくなくて難民ぽいせいかもしれません。直後に上から一斉に降ってくるゴミ袋、それを拾って中から黄色の紙を取り出す人々。この紙は、おそらく政権変更関連のお知らせだと思われます。


ちょっと前後関係が不確かですが、この辺でニキーティチ@黒コートのハゲ警官が警棒を振り回しながら、もっと声を出せ!と人々を脅します。民衆のコーラスといかにもロシアンな毛皮の帽子+前掛けの農夫姿のミチューハもやり返します。シチェカーロフ書記官@小太りダサリーマン風*5も登場です。


もう一人の黒コートを着たごついハゲ、もといスキンヘッドのシュイスキーと金ピカの服を着た男の子ドミトリ(本物)の登場です。ドミトリは落ちている黄色の紙を見つけては破っていきます。人々が持っている紙も、もらっては破ります。本物のお子様なので、紙が何枚も重なったところを、力いっぱい破るしぐさが可愛いです。


そうこうしてるうちにドミトリはいい服を着ているのを民衆に見つかってしまいました。ドミトリの服の金ピカの装飾を剥ぎ取っていく民衆達。取るものが無くなると服そのものも奪われ*6、最後には下着姿+裸足になってしまいます。民衆にこづきまわされるドミトリ。そこにいつの間にか登場していた*7青ジャージのボリスが現れ、ドミトリを抱き上げます。何故抱き上げたのかな?助けようとしたのでしょうか。ボリスの動きは他の人々とは全然違います。それはともかくボリスの腕の中でドミトリは事切れてしまい*8、みんながそれを見ています。いつの間にか舞台奥にピーメン@黒い僧服姿も登場していてこの場面を目撃しています。みんながボリスを指差しています。当のボリスは、ドミトリを抱えたままオロオロうろうろした後、ドミトリを降ろして後ずさりながら退場します。ゴミの中から拾ったろうそくその他でドミトリの祭壇を作る人々。祭壇を作り終わった頃に4幕の奇跡の盲目の老人@半ズボン姿が登場しています。ピーメンはここで奇跡を目撃したという設定のようです。


しかし私は一幕一場だけでこんな長文書いてどうする気ですかね。この部分が一番演出入ってる場面なので、以下はさくさく行きます。

一幕二場 戴冠式

金緞子貼った風の四角いセットを前に、人々が集まっています。奥からボリスとシュイスキーと側近達@柄の悪いチンピラ風が出てきます。シュイスキー第一声です。ゴツいのにテノールです。ま、いいか。


ボリスは戸惑ってて「いやでも、ちょっと待ってよ」って感じです。民衆の讃える声を前に、ジャージの上に金ピカのローブ*9を着せられ、王冠を被せられ、大きなキラキラ光る指輪を嵌められます。ビデオで見たように王冠が深く入り過ぎてしまって、自分で直します。ちぐはぐな感じの演出の一環ですかね。王冠をとって退場しようとして側近達に引き戻されます。王冠を抱えて、ドミトリの祭壇の前でひざを付き、皇位への不安を語ります。本当は他のことも語ってるんですが、演出のせいで不安だけが強調されて見えます。ちょっと私はここは声が弱い*10と感じました。たぶんパーペに力強さを予想し過ぎていて、そのギャップのせいで、客観的に言って弱いわけではないのでしょうけど。民衆に担ぎ上げられ、高く掲げられて*11民衆のサヴァサヴァ言う声*12に応えるボリス。覚悟を決めて王冠を被り、幕となります。


この幕が下りる直前、パーペは素に戻ってた気がするんですけど、どうでしょうか。役の顔からカーテンコールで見せる役者の顔になってた気がしました。

二幕一場 ピーメンの僧房

後ろに文字が書かれたセットの前で紙をシュレッダーにかけながらピーメンが語っています。トムリンソンは枯れてるけどいい声です*13。顔も大造りなので舞台映えします。グレゴリー@偽ドミトリがひっ捕らえられて連れてこられます。逃亡するのはこの後の筈ですが、既に常習犯だったのでしょうか。偽ドミトリはグレー系のコートで、ただただ地味な格好です。むさくるしい偽ドミトリを期待していたので、ちょっと期待外れです*14。僧院にいる雰囲気も無いです。ピーメンの方は黒の詰襟に十字架をかけた普通の神父さんの格好なのに、偽ドミトリはどういう設定なんでしょうか。どうでもいいけど、一幕のあの可愛い男の子がこう成長するなんて、信憑性無いと思います。


イワン雷帝について、先代フョードル帝について、そしてドミトリ死亡事件、その事件の黒幕ボリスについて語るピーメン。トムリンソン独壇場です。語っている内容の単語が後ろのセットの文字の上に重ねて出ます。「殺された皇子はおいくつだったので?」「生きていればお前と同じ年だ」のやりとり。偽ドミトリがシュレッダ屑の中から何やら紙を取り出して興味深そうに眺めます。ドミトリ事件の記述を見つけた模様です。ピーメンの退場後、ボリスへの警句を語る偽ドミトリ。これから成りすましをしようってあんたが言っても説得力ありませんがな。でも声は割といいと思いました。

二幕二場 リトアニアとの国境近くの居酒屋

居酒屋っていうか、駅の一角を勝手に占拠して飲み屋をやってる風です。壁中に、訪ね人か指名手配か、とにかく顔写真が貼ってあります。大きなトランクを持った人々が次々に横切る演出が入って、やっぱり難民を連想させます。女将は胸の開いた服に毛皮のコート羽織ったド迫力系です。女将の御ガモの歌は省略されました。


浮浪者2人組のワルラームとミサイルがベンチに座り、偽ドミトリは離れたところに座ります。浮浪者2人組は太り過ぎで、特にミサイルの方が不自然にたるんたるんした腹です。おそらく詰め物なので不自然に見えるのでしょうが、独特の嫌ーな感じを出すのに成功しています。成功ですが、嬉しくないです。


女将から酒を受け取って飲む2人組。偽ドミトリに「お前も飲まないのか」「俺が飲んでるときに素面の奴は気にいらねえ」と絡むワルラーム。カザンの町での武勇伝を歌いだします。ここはもっとテンポ早く切れよく演って欲しいところですが、事前予習の比較対象が悪かったかな。その間に偽ドミトリは女将にリトアニアへの抜け道を教えてもらいます。この間も、一家夜逃げ風の人々が大荷物を持って後ろを横切ります。警官2人@(うち一人は1幕のハゲ、もう一人は印象の薄い普通の人)がやってきて指名手配書を振りかざします。「誰か字の読める者?」ということで偽ドミトリが手を挙げて読むことに。肝心の逃亡者の特徴をワルラームに読み替えながら読み上げる偽ドミトリ。語られている人物の特徴をハゲでない方の警官が似顔絵で見せます。「俺じゃねえ俺じゃねえ!捕まるくらいなら読んでやる!」ということで、たどたどしく読み上げるワルラーム。歌の進行に合わせて新しい似顔絵に差し替わります。読み終わって出来た似顔絵を見た一同「お前じゃねえか」と偽ドミトリに注目しますが、偽ドミトリはコートの前を開けて体中に巻いたダイナマイトを見せて威嚇しつつ逃亡します。ここのインパクトのために偽ドミトリの格好は地味にしといたんじゃないかと思いました。この版だと、この後出番無いのですよ。

休憩

ここで休憩です。移動中に書いたのはここまでです。実はこれ以上のボリュームで解釈編を書いちゃってますが、後半レポの後に公開します。なんだか音楽面は駄目出しばっかり書いてますが、それ以外はGoodということで、お許しください。悪いことを書くのは簡単だけど、いいことをいいとちゃんと書くのは難しいです。いいことは当たり前になって流してしまいがちになるので。日本人の悪い癖です。

中編 http://d.hatena.ne.jp/starboard/20090710
後編 http://d.hatena.ne.jp/starboard/20090712

*1:公開は日本到着後です。というわけで、ただいま。

*2:これは舞台映像の話ですが、音そのものも、大抵は映像化9割or言語化1割って感じで残るんですよ。

*3:独語字幕はそのままパンフレットに載っていますので、お手元にある方は突っ込みお願いします。

*4:この幕もボリス仕様です。

*5:記述がひどいです>starboardさん。どうでもいいけど、このオペラは嫌な方向にリアルな登場人物ばっかりです。ゴツテノールとか、浮浪者でっ腹オヤジ2人組とか、いやリアルだけど、そこまでリアルを追求しなくてもいいんじゃないの的な。

*6:いい服は生地からして違いますからね。

*7:どこから現れたのか分からなかったー。ファンとしての気合が足りん。

*8:いい死に方だなあ。ルネ・パーペの腕の中で....いかんいかん、変な妄想をしてしまった。

*9:ここでかけるのはモノマフの肩衣って言うんですよ。にわかロシア史オタによる講釈でした。

*10:orオケが強過ぎる

*11:これは足場に乗ってます。

*12:万歳とか栄光あれとか、そんな意味。

*13:枯れてるっつーか、バスとしてはこっちのが王道なんだろうなー。いつも違う傾向のものを聴きすぎてるだけで。

*14:ワルラームとミサイルのスチルを見て、偽ドミトリと勘違いしていた模様です。