音楽を聴くということ

よく言われていていまさらかもしれませんが、音楽を聴くって、共同作業だなあと思うんですよ。演奏が素晴らしいだけじゃ駄目で、聴き手の自分がオープンじゃないと聴けない。オープンと言うとなんか違うことを指しているような気もしますが、なんてのかな、そのための回路が開いていないと聴けない。散漫になっていてもただ音が流れていってしまうし*1、気負い過ぎても駄目だし、こういう状態を作れば大丈夫というものがあるわけじゃないんですが*2、でも、聴く側のコンデションに依存するのは確実だと思います。

受け手のコンディションに依存するということでは、ものを味わうことによく似ていると思います。特に、香りが重要な要素を占めるものと似ていますね。うまく味わえるときには本当になにげなくするっと入ってくるのに、意識すればするほど、求めているものがどこかに逃げてしまう。

初見の感動がなかなか再現出来なかったり、一度自分とぴったり噛み合うものに出会ってしまうと、なかなか同じレベルの感動に出会えなくてずっと幻を追い求めてしまうところも似ているかもしれません。


いいコンディションを作ることは、自転車に乗ることや、泳ぎながら呼吸をすることに似ているかもしれません。いつそれが出来るようになったのか、どうして出来るようになったのか、どうやって出来ているのかさっぱり分からないけど、何故か出来ている。「する」より「なる」に近い状態。でも自転車や呼吸よりはずっと微妙な領域で、一度出来たからと言って、すぐまたそのコンディションが再現出来るかというと、そういうわけじゃないところが困ったものです。

コンディションを作るヒントはまだ掴めていませんが、バランスなのかなあと思っています。バランスだから、意識してどちらかに偏ると、するりと逃げてしまう。そんな感覚。それで、この領域は、ものすごく個人差があるのだろうと思います。うまい人はきっと簡単にこの状態に入って、同じものを見聞きしてもずっと深く強く感じることが出来るのでしょう。それこそ魚のようにしなやかに自由に泳げる人が、どうやって泳げるのか聞かれても答えようがないように、意識すらしていない。音楽を聴くコンディションを整えるなんて、さっぱりピンと来ないかもしれません。


こういうことを意識するには、自分が苦手な分野の方がよいような気がします。私は言語*3と視覚は、自分でもそんなに弱い方じゃないと思うのですが、聴覚関係は昔っから大の苦手で、コンプレックスの塊でした。料理も、鼻が悪いので、微妙なところは分からないと思います*4。そういう分野の方が、よく意識して言語化するんですよね。

音楽に関しては、今でも、なにか大きく欠けた状態で頓珍漢なことをやってるんじゃないかという感覚があります*5。言語や視覚の分野では、こんな風に思うことは無いし、受け手としてのコンディションに気を配ることもないのですが*6、なにか音楽を聴いたり、ものを味わうことに関しては、たまにやってくる感覚を掴まえるために悪戦苦闘しています。受け手としての自分をうまくコントロール出来ない、という表現が一番実感に近い、のかなあ。

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こういうことを考え始めたのは、さっき「音楽断ち」を解禁して、リーダーアーベントの会場で買ってきたショルティ指揮のモーツァルトのレクイエムを聴いたからです。DVDでは鑑賞済で、特に気に入った曲なんて何度も繰り返し聴いていたのに、こんなにも違うなんて。はじめてまともなオーディオで聴いたというのもありますが*7、聴き終えた後しばらく気分が高揚して、戻りませんでした。

正直に書きますが*8、私は聴いている間は割と批判的に聴いちゃうんです。録音が良くないなーとか、あ、いまのとこもうちょっとバランスをこうした方がいいのに、とか。いやな客ですね。だからって正当な批判が出来るわけではなくて、たまたま気がついた小さなポイントに気をとられてるだけなんですけど。今回もそういうこと考えながら、割と冷静なつもりで聴き終えて、日常に戻ろうとしたら、すっかりあっち側に持っていかれちゃっていた自分に驚いたわけです。

私にとって、音楽を聴くということは、こんな感じです。

*1:もっとも、そういう状態のときにスコーンと入ってくることもあるから、侮れません。

*2:まだ分からないだけで、なにかあるのかもしれないけれど。

*3:と言っても音は苦手なので、専ら書き言葉専門です。

*4:が、これに関しては、世の中にもっともっと大量に健康だけど鼻が利かない人がいらっしゃるので、私くらいの者でも大きな顔をしていられます。←性格悪い。

*5:だったら公に発信するのは止めなさいよ>自分。いや似たような状況の人に役に立つんじゃないかと思って・・・

*6:だからっていつも同じテンションで文学や映像作品を味わえるわけではないのですが、コントロールが容易で、それが邪魔されているときは自分でも分かるし仕方ないかと思えるのですよね、何故か。

*7:我が家のDVD視聴環境もなんとかしないとなー。今までこういう用途に使ってなかったから、全く気を使って無かった。

*8:レポを読んでくださってる方にはバレバレかもしれませんが。