バレンボイム&スカラ座ヴェルレクレポ/本編

続いてヴェルレクレポート行きます。

2009年9月10日(木)19時〜 NHKホール
ミラノ・スカラ座管弦楽団
ダニエル・バレンボイム指揮
ソプラノ:バルバラ・フリットリ
メゾ・ソプラノ:エカテリーナ・グバノワ
テノールヨハン・ボータ
バス:ルネ・パーペ

まず音響ですが*1、極端に残響のないホールだなあという感想でした。噂のマイクの位置を確認しましたが、ステージの上方や1階客席の中央ブロック上方など各所の天井から2〜3メートル下あたりに10本弱程度のマイクが設置されているのを確認いたしました。あそこが特等席か・・・・

さて音響に言及したからには座席を明らかにしておかねばならぬと思うのですが、この日の私の席は、1階のR2列目のステージ寄り通路側でした。バス(とテノールと指揮者)がストレートに見える配置です。事前にNHKホールのサイトで見た写真よりも近い気がしました。オペラと違って、オケピットを挟んでいないので実際近いんですね。

しかし前過ぎてステージの高さより下なのでオーケストラの動きは殆ど見えません。ソプラノとメゾは指揮者に隠れて殆ど見えません。コン・マスだけはよく見える、つーか指揮者越しにコン・マスと向かい合っているような感じです。全体を見るには適さないので、今度このホールに来ることがあったらこの場所をとるか疑問です。しかしパッパーノ氏が来日したら、顔芸を観察するためにさらに端の席を狙ってしまうかもしれません。指揮者を真横から観察出来る配置でした。

ホール自体は、1階席だと被り席*2が無いようになっていて、設計上は色々工夫したんだろうなあ、でもホールって出来てみないと分からないもんなあ、(音響上)悪い席を無くすことに注意を払ってみたけど、出来てみたら良い筈の席もあんまり良くありませんでしたって結果なのかなあ、なんてことを漠然と考えておりました。内装の素材の問題のような気も致しますが、上階席で聴くとどんな感じなんでしょう。ご意見求む。


さて肝心の演奏ですが、まず思いっきり私事でありますが、ノれたかノれなかったで言うと、ノりにくい演奏でありました。やっとノれたのはラクリモサの後半じゃなかったかな。それでも最後までノれないことも多々ありますからマシな方であります。もっとも、今回は視覚的に気が散ってしまうことが多かったから、集中出来ていなかったのかもしれません。生演奏の音を本気で楽しみたいなら、いっそ目を瞑っているべきでしょう*3

いつも気になる音のバランス問題。全く問題ありませんでした。私は駄目なところ*4が気になっちゃうタイプで、駄目なところがありませんでしたという評価が自分的には最大級の賛辞になるのですけど、全然褒めているように聞こえないのは困ったものです。本当は難しいと思うんですけどね、音の入りとか消え方とか、もちろん各パートの大きさのバランスも、ずっとずっとコントロールして、結果として違和感がありませんでしたという状態を作り上げるのは。違和感があってはじめて、ああ今まで違和感が無かったのだなあ・・・と気づくといいますか。

上の違和感とはちょっと違う違和感の話になりますが、全体に、すごくオーソドックスなヴェルレクになっていたように思います*5。これまで映像や音声で触れたバレンボイム氏の演奏は、どちらかというと個性を感じさせることが多かったので、今回もその手の違和感が来るだろうと思っていたら無く、肩透かし感がありました。

あとは予習との比較の話になるんですけど、またクラヲタのみなさんに怒られそうな話になりますが、カーオーディオだと盛り上がっているところはよく分かるんですけど*6、やっぱり静かなところの微妙なニュアンスって全く聴けてないんですね。イヤホンではもちろん。比較的手頃な価格帯のホームオーディオでも、ちょっと頑張れば盛り上がってるところの臨場感を出せるようになるのはすぐだと思うんですが、ピアニッシモの良さってのは、やっぱ全然再現出来てないなーと思いました。つまり今回、その辺のニュアンスを新鮮に聴きました。Morsの最後のくだりとか。これ全然聴けてなかったですね、これまで。不思議なもので、一回これに気づくと、気づいた箇所はちゃんとその様に聴こえるようになるのです。


ところで全然余談なんですけど、小節って縦線で区切られた部分ですよね、それよりもうちょっと大きい、歌詞なんかで一行で書かれる程度のまとまりを表す適当な言葉ってありますか?例えば上で出てきた Morsだと

Mors stupebit .... mors stupebit et natura,
cum resurget creatura,
judicanti responsura.
Mors .... mors ... mors stupebit ....

この最後の"mors stupebit ...."のとこだけを言いたいときとかですね。やっぱmorsの終わりの○小節とか言うんですかね。楽譜見ないと微妙に自信が無いんですが。


ソリストの印象ですが、フリットリはやっぱりすごく良くコントロールされた歌唱だなーと思いました。相変らず音が消え入るまでの着地のさせ方が上手いです。あとこの人の歌で、ソプラノなんだけどすごくハスキーに聴こえることがあるというか、メゾと合わさったときにすごく低く聴こえるのですが、私の空耳でしょうか。あと1箇所、最初の"Libera me"の出だしのところかな、まるで聴いたことのない旋律を聴いたようなような印象を受けたところがあったのですが、これも空耳でしょうか。意外なことが一番多い人でした。

代役のメゾのグバノワは、ソプラノとの重唱のところはすごくいいと思いました。声質が合っているのでしょうか。ただ今思い返すと、ソロの印象があまり残ってないです。

ヨハン・ボータですが、これは基準はパスした上での厳しい要求の部類になるかもしれませんが、咽喉では歌ってるけど心で歌っていない印象を受けました。ドラマティックが足りない。分かりやすいところで言うと、テノールの聴かせどころのIngemiscoのソロとか、もっとプラスアルファを込めてくれよーと。でもまあ、ここはそういう風に歌われがちではあるけど、そういうのって過剰で鼻につくし自分はこっちの方が好き、という人もいるかもしれないので、そもそも的外れな要求なのかもしれません。予習ディスクのヴェルレクテノール達がたまたまそういう系統ばかりだったので比較相手が悪いのかもしれません。

パーペですが、これは評価が一番難しいなー。さっき書いたMorsの弱音とか、新しい魅力を発見出来たのは良かったんですが、やっぱり期待通りの予想通りのいつものパーペ過ぎて、なんて言っていいのか分からない。やっぱりどんパペ?安定してる?他のソリストと比較して聴き込んでる度合いが違うのと、聴き込みすぎて、パーペだったらここでこう歌うだろう回路*7が私の中に出来ていて、あまりにもその通りに来るので、なんだかよく分からなくなっています。良くて当たり前なのが当たり前みたいになっているので、この人に関しては一生客観的な評価出来ないわ。

最後に。一晩寝たらもう記憶がフラッシュアウトしてきてます。音楽を記憶するって難しい。でも今回は放送を待てばまた聴けると思うと本当に嬉しい。幸せ。

以上、音楽編でした。余談編も書きます。

*1:最初に言及するのはそれですかそうですか。

*2:直上に上階席の天井が被っている席。音響上好ましくないと言われている

*3:勿体無いから、つい見ちゃうけど。

*4:ただし自分の感覚上気になって仕方がないポイントであって、一般的客観的な評価が出来るわけでは全く無い。

*5:いや私のこれまでの経験が偏っていた可能性もありますが。

*6:逆に迫力を追求してしまって過剰な迫力に慣れてしまってヤバいという側面が。

*7:脳内パーペ音声シミュレータ!!!