ジークフリート後編/コペンハーゲン・リング

ジークフリート@かくれんぼ中
ジークフリート後編で特筆すべきは、やっぱりエルダのシーンでしょう。

ある家族の物語を描いたコペンハーゲン・リング。登場人物はみな物語の進行に従って老けていきます。

それでもダンディで通せる年の取り方をしたヴォータンが、着替えて赤い薔薇の花束とシャンパンを抱えてエルダの元を訪れます。ところがエルダは病床にあって、ヴォータンが来ると点滴を抜いて、頭はターバン、体はガウンで隠して応対します。差し出された薔薇とシャンパンのなんと不釣合いなことよ。エルダ役のResmarkさんは映画だったらこれで助演女優賞をとれそうな体当たり演技です。

エルダの元を去った後、かつて愛した人のそのような姿を見て、山の中で飲んだくれていたヴォータン。そこに能天気ジークフリートが通りかかるという寸法です。

ホルテン演出ってのは、すごく共感ベースの演出なんですよね。とっても現代的です。ホルテン演出を見ててオペラじゃなくてテレビドラマみたいな印象を受けるのは、全ての場面にこの共感ベースな解釈があるせいじゃないかと思います。あんまり教養が要らなくて、もちろんあればあったでより味わい深くなるのでどっちでも楽しめるんだけど、でも無くてもそれなりに楽しめちゃう。予備知識無しで映画館に行って、たまたまかかってた作品を観るような感覚で最後まで観れる。そういうオペラ。


いよいよブリュンヒルデの眠るワルキューレロックに辿りついたジークフリート。破れたフェンスを潜って抜けていく姿が少年そのものです。全体にずんぐりむっくり体型で顔も頭も大きいので頭身が低くて子供っぽいんですよね。アップで映らなければ。

眠るブュリンヒルデの美しい横顔*1の背景に、アナセン・ジークフリートのポコンとしたお腹が・・・・あーあ。でも私はダサダサヒーローは大好物なんですよ。

おそれを知らぬヒーロー、ついに「おそれ」を学習するの図。あの馬鹿デカい口を活用して、ものすごいニヤニヤと戸惑いの間を行ったりきたりする表情がリアルです*2。現実の恋愛の情けなさみたいなもんがよく出てるじゃありませんか。夜中にニヤニヤして、はっと気付いて赤面するんだけど、またすぐ思い出してニヤニヤするんですよね。問題はオペラでそういうのを見たい人がどれだけいるかってことですが。んで不器用を絵に描いたようなキスをした後、居たたまれなくなって外に行っちゃうんですよ。・・・こ、この可愛い生き物は一体何ですか。きゅんきゅんしまくりなんですけど。たとえ皺だらけで顎が弛んでて口が馬鹿デカくて顔の下半分が人間離れしてて、どんだけ腹が出てようとも(言い過ぎです)。

おい、お姫様が目覚めるときに傍についてなくていいのか。とついツッコみたくなるジークフリートですが、ジークフリートが出てくると今度はブリュンヒルデが隠れちゃうんですよ。んですったもんだの挙句くっつくと、ジークフリートがダサリュックから野宿用のクロスを出して敷いてたりとか、その間上着とブーツを脱いでノースリーブ姿になったブリュンヒルデが腕を抱えて居たたまれなさそうに待ってたりとか、それはとってもリアルだけどイチイチ描かなくていいから!みたいなことを描くんですよね。いやーどうなんですかね。童貞文学の映画化作品を観てるみたいだ。ワグナーで童貞文学*3、いいと思います!

あ、歌。忘れてた。うん、全く違和感がないです。ジークフリートって主役たいへんなんですよね。全然そういう感じがしません。1幕と同じ調子でずっと最後まで歌ってます。さすがアスレチックテノール。ワグナーのこういうシーンて、歌唱が消化されてなくてただ旋律を辿っているだけで無理っぽい印象になることが多い・・・・というかそっちがデフォなんですが*4、それもないです。どっちかというとテオリン・ブリュンヒルデの方がその傾向があるかな。

Conductor: Michael Schonwandt
Staging: Kasper Bech Holten
Sets and costume designer: Marie i Dali and Steffen Aarfing
Lighting designer: Jesper Kongshaug
Dramaturge: Henrik Engelbrech

Siegfried:Stig Fogh Andersen
Mime: Bengt-Ola Morgny
Vandreren: James Johnson
Alberich: Sten Byriel
Fafner: Christian Christiansen
Erda: Susanne Resmar k
Br?nhilde: Irene Theorin
Forrest Bird Gisela Stille
Royal Danish Orchestra

*1:寝ているときの横顔が一番映えるようにメイク施され済み。日本のコギャルメイクみたいにキラキラ感いっぱい。

*2:余談ですが、こういうのは映像ではよく分かるけど舞台では通じなくなりがちですが、アナセンの場合はあの馬鹿デカい口と全身演技のおかげで舞台の方がよく伝わるのではないでしょうか。映像的にはオーバーアクションなくらいです。

*3:このフレーズがあまりにも気に入ったので一瞬タイトルに採用しようかと思いましたが、あまりにもあんまりなので自重しました。

*4:私にとっては。単に勉強不足で鑑賞眼が無いだけかもしれませんが。