The Royal Guest

デンマークオペラ紹介シリーズ第一弾行ってみましょう。デンマークオペラの中ではメジャーどころで上演回数も多いそうですが、日本語による紹介は殆ど無いと思います。

The Royal Guest
(Den Kongelige Gaest)

作曲:Hakon Borresen*1 (1876-1954)
原作:Henrik Pontoppidan (1857-1943)

こちらで試聴出来ます。
http://ml.naxos.jp/album/8.226020

面白いです。一時間強の一幕もの、内容も音楽も軽くて笑えるオペラ。他愛もない話ですが、ディテールがニヤニヤ出来ます。家で聴くのにぴったり。

主要登場人物は3人で、医者のホイヤーとその妻のエミー、そして奇妙な奇妙なロイヤル・ゲスト、あとはメイドのアンと小間使いの少女がちょこちょこ。配役はホイヤーにアナセン、エミーはKibergさん@ブリュンヒルデ、ゲストにPaevateluさん@グンターというコペハンリングお馴染みのメンバーです。

後で自分で聴き直すとき用に、ストーリーをちょい詳しめに書いときます。ちなみに、3ヶ国語のリブレットが付いてますが、英語の途中数ページ分に文字化けがあります。勝手に解読したところによると、化けてる部分はhとtのどちらか or そこからはじまる1〜2文字分だと推量しながら読めば読めます "He is a quite strange person. I don't know him. He's awful fine."">*2 *3

Prelude:

気持ちよく序曲がはじまります。

Scene1:

舞台は1900年頃(このオペラが書かれた当時)のデンマークユトランド半島で医者を営むホイヤーの家。妻のエミーとは結婚して数年、来客は滅多に無く、ルーティンが繰り返される日常。ある年のShrovetide*4シーズンに久しぶりの来客の準備にエミーとメイドのアンがバタバタしていると、読書の邪魔だと不機嫌なホイヤー。そこに電報が入って、本日の来客から来れなくなったという報せです。最初は直前のキャンセルに失礼だと怒るものの、いつもの日常を邪魔されずに済んだのでホイヤーは満足気です。

Scene2:

そこに丁度雪が振りはじめ、そりの音とともに奇妙な来客が現れます。お忍び旅行なので名前は無しで、呼び名が必要なら「プリンス・カーニバルと呼んでくれ」「沈む太陽の西、昇る月の東にあるお城に住んでいて、父はShrovetideそのもの」と言い出す変わり様。エミーは心配になりますが、ホイヤーはおどけているだけだろうと取り合いません。プリンス・カーニバルはピアノを弾き、ランプはフェスティバルらしくないからキャンドルにしてくれと言い出し、ホイヤー達の服装に注文を付け始めます。

Scene3:

プリンス・カーニバルがゲストルームに去ると、この奇妙なゲストの変人振りにすっかり怯えたエミーがホイヤーにしがみついて不安を訴えます。「あのドレスの話を聞いた?」何故かその気になったホイヤーが「ピンクのドレスいいじゃないか、着てみてよ」「とんでもない!みんながなんて言うか!」「Shrovetideだからいいさ」「狂ってるわ」そのままいちゃいちゃに持ち込もうとしたホイヤーですが、間の悪いことにメイドのアンがドアが開けて、主人達のはじめて見るこの光景に吃驚、二人は慌てて離れるという寸法です(にやにやポイント)。

Scene4:

先に客間に降りてきたプリンス・カーニバルが家具を移動し、キャンドルを点し、持参した花を飾り、自分のトランクからフルーツとスミレを取り出してテーブルに散りばめます。「あなた先に行ってよ」「いや一緒に行くんだ」というやり取りの末に現れたホイヤーとエミーは、すっかり華やかになった客間に驚きます。エミーはパールレッド*5のドレスで、結局ホイヤーに押し切られた模様です(ここで、描かれていない2人の会話を想像してニヤニヤすること)。早速プリンス・カーニバルが絶賛します。

Scene5:

プリンス・カーニバルは相変わらずです。「トランクの中に10人のキューピッドを入れてきたんだけど、さっき逃げちゃったからその辺でいたずらしないか心配で」「エロス本人*6は寒さが苦手だから置いて来るしかなかったよ」ホイヤーも乗ってきて「さては、あなたはキューピッドのセールスマン?」そのうちにエミーのドレスに注意を向けて、大絶賛の視線を送る男性2人。困ったエミーが「なんて綺麗なスミレ!」と話を逸らすと「スミレは言われているように控えめな花ではないんですよ。その香りはデンジャラスな裏切りの言葉です。」エミーにスミレを手渡しながらこう言うと、なにかを察して警戒したらしいホイヤーがエミーを庇うように彼女の方へ手を回します(にやにやポイント)。「詩なら私だって」と対抗してみるも「本当に素晴らしい最高の詩はファウヌスとサチュロス*7の間に存在するのです」とまたプリンス・カーニバルのペースに持ち込まれてしまいます。「最後に彼らに会ったとき、屋根の上で黒猫と一緒にオード*8を描いていました。月と黒猫!ファウヌスと音楽!」

エミーとプリンス・カーニバルの会話です。「あなたはさぞかしいっぱい旅をしてきたのでしょうね」「私のミューズが旅を好んだのです。あなたは彼女にそっくりです」「私は違うわ。家で静かにしているのが好きよ」「あなたは間違っている。常に変化を求めること、それは人生に必須で―――あなたそのものだ」ここでホイヤーが「私も違うね」と割り込んでみますが、エミーに気づいてもらえず意気消沈します(←萌えポイント)。再びプリンス・カーニバル・アワーです。「ある旅の途中で出会った紳士が忘れられません。シルクハットを被ったエレガントな紳士で、私に気づくと丁寧に挨拶をしました。彼の頭のてっぺんには、小さな、小さな、小さな(bitte, bitte, bitte, bitte, ....)本当に小さな2つの角があったのです!・・・・いいえ、デビルではありません。パン(牧神)でした」「パン!本当に?どこに?」今度はホイヤーが夢中です。「今お話しました」「よし、彼らに乾杯だ」プリンス・カーニバルがお得意の長い前口上で乾杯し、最後に持参した薔薇をエミーの髪に飾ります。

突然ですが、ここからかなりいい加減にほぼ全訳します。

   
ホイヤー とてもよく似合うよ、エミー。
エミー 音楽を聴かせてくださる約束だったわ、プリンス・カーニバル。
プリンス・カーニバル 音楽!これ以上なにか必要ですか、あなたの輝く瞳の他に?
  (突然エミーに何かが起こる。彼女は輝き、うっとりした仕草で腕を伸ばし、そして、喉もとの薔薇に触れる。ホイヤーは気落ちして、気が気ではない様子。)
プリンス・カーニバル 乾杯しましょう、ドクター。
  (ホイヤーは答えない。)
エミー あなたどうしたの?具合が悪いの?
プリンス・カーニバル ご主人は元気が無いようですな。バッカスがまぶたに息を吹きかけたかな?
さて、そろそろ私は行かねば。ソリが待ってる。
素晴らしいフェスティバルタイムに感謝します。人生に乾杯。死に、おそろしい寒さに、偉大なる忘却の川に*9乾杯。
しかしひとつ忘れないでください。人生の楽しみをしっかり掴み取ること、想像の翼を広げることを。
まもなくベルの音が聴こえて、私は思い出になるでしょう。

Scene6:

  (ゲストが去って、2人だけになって。)
ホイヤー キャンドルを消してくれ。なんでこんなに長いこと消えないんだ?
エミー (ぼんやり)消したいなら、メイドを呼んで。
ホイヤー (怒って)この前の留守に何が・・・・
エミー あなたの留守に?
ホイヤー メイド達のおしゃべりを聞いたんだ。
エミー 何を言い出すの?私なにかした?それともあなたが・・・
  (彼のところに行って、首に手を回そうとする。ホイヤーは拒否する。)
ホイヤー 続きが聞きたいか!
エミー 止めて。恥ずかしくないの。
ホイヤー 恥ずかしいもんか。花を取るんだ。今すぐ!全部!
  (エミーは黙って花を髪から外し、テーブルに置く。ホイヤーは机に座る。)
ホイヤー もう遠くに行ったろう!引き止めたいなら止めりゃ良かったんだ。全く馬鹿にされたもんだ。僕らはあのペテン師相手に良くし過ぎたんだ。
  (ホイヤーは新聞に没頭しようとするが出来ない。振り返って、エミーがひどく落ち込んでいるのに気づく。)
ホイヤー 泣いてる?
  (エミーは答えない。ホイヤーはゆっくり彼女に近づく。)
ホイヤー 今日の君はなんて綺麗なんだろう!そのドレスに包まれて、なんてキラキラしてるんだろう!
さっきのは忘れてくれ。あの男の話にナーバスになったんだ。
エミー あなたが嫉妬してる?私に?
私、あなたはぶっきらぼうで素っ気なくて、決まりきった生活が好きで・・・・そういう人だと思ってたわ。でも違ったのね。
私達、ゲストに頼らず自分達だけでちゃんと楽しめるようにならないと。
キャンドルを消すのは簡単だけど、だけど、自分でも忘れてたわ。人生の楽しみをこんなにも求めていたなんて。そう、なにか輝くものを求めてるってはっきり分かった。
それで、やっぱり、キャンドルを消さなければならないかしら?
ホイヤー 点けたままにしておこう。エミー、愛してる。
エミー そして彼は?本日のロイヤル・ゲストよ。
ホイヤー 彼が来てくれて良かったよ。
  (エミーの首にキスしようとする。そしてまだ着けたままになっていたスミレに気づく。)
ホイヤー スミレもこのままにしておく?
  (エミーはスミレを取り、彼のボタンホールに付ける。)
エミー 控えめなスミレ。今はあなたの胸に!
ホイヤー スミレの言葉。今は分かるよ。今夜学んだんだ。
  (笑いながら、幸せそうに、手をとりあってベッドルームのドアに消えて行く。窓の外には月の光。ステージは空っぽになり、時計が10時を刻む。)

Ending:

  (ソリのベルの音が、遠くから近づく。アンと小間使いの少女が登場する。)
アン 悪魔は行っちまった!
  (少女は、アンが見ていない隙にテーブルの上のリンゴに手を伸ばし、齧る。)
  <幕>


これだけであまりにも長くなったので、ディスク紹介と感想は次の日に。でも自作の訳で聴くっていいなあ。残りの部分もやって、どっかにポストしよっかな。需要があるとも思えないけど。(2)はこちら

*1:本当はoは串刺しにされたø

*2:っていうか、こういう略し方があるんですか?文字化けじゃなくて?例えばこうです。"'Tis a quite strange person. I don' know 'im. 'E's awful fine." => "He is a quite strange person. I don't know him. He's awful fine."

*3:しかし誰もこんな情報使わんと思うけど。あ、自分が読み返すまでにすっかり忘れてて使うか。

*4:という冬のお祭りがあると思っといてください。家に飾り付けをしたり、子供達が仮装したり、そり遊びをしたりするらしいです。

*5:まあピンクですわな。今年のDKTタンホイザーの写真を思い浮かべるとぴったりです。

*6:キューピッドの兄貴分。

*7:どっちもローマ神話ギリシア神話に出てくる森の精霊

*8:ode. 頌歌。なんかそういう形式の詩&音楽があると思って読んでください。

*9:これらはShrovetideに関係すると思っておけばいいのではないかと。