The Royal Guest(2)

(1)はこちらデンマークオペラネタはとことん人気がないようで(←アクセスが落ちた)、ちょっといじけているstarboardです。懲りずに続き行ってみよう。

いやあ、でも、自分で訳すのって*1、面白いですね。いや、全訳する勢いでテキストに向かいあった後に、その記憶を使って聴くのが面白いと言うべきかな。かなりオススメです。訳してるうちにすっかり入りこんじゃって、最後の「スミレの言葉。今は分かるよ。」のところで毎回ホロっとしますもん。何回読んでもここはいいわ。多くを語らない感じがいいわ。


それで、ディスク紹介だ。何から書こう。まず音だけで聴いたときの感想から。とにかくアナセンのホイヤーが面白い。超面白い。この人が出てくるだけでくすくす笑っちゃう。なんであんな面白いんだろ。ストーリーとか何も知らないうちから節回しだけで面白くて仕方ないんですよ。人を食っていて、茶目っけたっぷりで。

しかもにゃーにゃー言ってるし。このにゃーがいつ出るかイマイチ規則性が分からないんですが、jerはなると思う。あとerの発音の後にmとかnの入った単語が来るとなってる気がする。それで、発音オンリーの問題じゃなくて、彼がよくやるほにゃーっとした節回しがあるんですが*2、あれとその辺の発音が重なったときに出るみたいです。もうね、にゃーが出るたびに脳内映像に猫耳が生えますからね、笑うしかないでしょう。

あと彼は声の密度がすごい詰まってるんですよ。ほぼ全訳した部分からも分かるように、このオペラはアリアと呼べるようなものは無く、短めの台詞のやりとりで進行していくんですが、たまにあっても長めのレチタティーヴォと呼ぶべき範囲内なんですが、こういう形式だと、密度の違いがすごく目立ちますよね。比較的簡易なオーディオなら殆ど気にならないんですが、ちょっと解像度の高いシステムにかけるとその違いが顕著になります。

あんまり声単独でいいと思ったことが無かったんですが、むしろ高音のドライな感じとか気になる人は気になるだろうなあくらいに思ってたんですが、ちょっと評価を変えないといけないかもしれない。あまりにも差が歴然としているので。ところでこのblog的には声の密度が詰まっているとはどういうことか考察しないといけないんですが、倍音成分が多いってことなんですかね。すぐに思いつく範囲では。そのうちちゃんと検証出来るようにしなきゃ。


ってのがストーリーを知らずに聴いてたときの話で、リブレットにまともに目を通したら・・・・これ、配役が逆やんけ。どう考えてもアナセンがゲストで、Paevatelu*3さんがホイヤーだろう。いや、声種が逆なんでどうしようもないんだが、声質やキャラ的に。そもそも、あの変なゲストにテノールを充てて、静かで変わらない日常を愛する医者役にバリトンを充てて置くべきだったろう、現代の感覚からすると。ついでにそのホイヤーという人を食った名前も止めて*4

アナセンのホイヤーを先に聴いてしまったのですっかり騙されていて最後まで読んではじめて気がついたのだが、このホイヤーってのは実は堅物キャラなんだよな。静かで変わらない日常を愛し、客なんぞ来なくてよろしいと思っていて、妻にもそういう人間だと思われてて。でもちょっと言われてその気になったり、ニンフの話に夢中になったり、大人気なく拗ねちゃったりする面もある。アナセンのせいでこの後者の面が異様に強調されてしまったけど。


Paevateluさんのゲストは、普通の録音として考えると充分基準以上というか、頑張ってると思うのだけど、アナセンと変わりばんこに登場すると、普通過ぎるという感想になってしまう。特別じゃない。ゲストのキャラをホイヤーが食ってしまっている。もちろんこれは、水準以上の高過ぎる要求の話なんだけど。

エミーは、画に描いたような常識的な理想的な「普通の女の人」だよね。最初は変人の登場に怯えてて、慎重で、褒められると照れて話を反らしたりして、でも輝く瞬間があって、怯えても不満があっても決してヒステリックにならずに可愛らしくて、そんで包容力があって。ちょっと都合が良すぎる気がしないでもない(笑)。

Kibergさんのエミーは、そのまんまかも。強いていえば、どわーっていう存在感はないかも。でもエミーがそういうキャラだからなのかな。声楽的には個性的なんですが。まだ私にはよく分かりません。

まだ書きたいことがあるので、(3)に続きます。デンマークオペラネタが不人気でも私は書くさ!だって最近こればっか聴いてるから、これ書かないとネタ無いもん。

*1:もっとも私がいつもしてる奴は翻訳じゃなくて「日本語化」で、これは元の言葉から話者の気持ちを推量して、日本語話者ならその気持ちをどう表現するか考えて置き換えるってやつなんで、ひどいときは元の言語が一単語も残ってなかったりするんですけど。例えば、エミーがホイヤーの胸にスミレを着けた後の台詞は「Modest violet. You wear it!」なんですけど、これが「控えめなスミレ。今はあなたの胸に!」になったりします。意訳と何が違うのかって、意訳ってのは大抵意味がとりにくいときにやるもんだと思うのですが、明らかに意味がとれる文章をガンガン変えてしまうところが違うのではないでしょうか。この間言ってたことと激しく矛盾してますが、ま、これは売る文じゃなくて自分が楽しむプロセスだからいいよね。

*2:多くの人が声を張り上げて真っ直ぐ飛ばしそうな場面でほにゃーっとさせるのが、starboard的に気に入った理由であったりするのですが。

*3:カタカナ表記をどうしたらいいかさっぱり分からん。

*4:Hoyerのoは、例のごとくoが串刺しにされたあいつである。