ヘルデンテノールに少年性を求める会
コメント欄に頂いた意見に喚起されて長々と書いたので、本日もジークフリートトークです。
http://d.hatena.ne.jp/starboard/20100226#c1267272962
お連れの方がおっしゃる「なぜ小鳥は、忘れ薬の時に警告してくれないんですかねえ?」という素朴な疑問は、私も昔同じ疑問を持ちました。starboardさんは「女を知ったからじゃね」とのことですが、私もほんとにその通りだと思います。
きっと「小鳥の声」はジークフリートの「少年性」のシンボルなんでしょうね。ですから、世間ずれしてしまうと聴こえなくなってしまうのだと思います。
ですが、記憶が蘇った瞬間、ジークフリートの記憶の中に少年の心が甦り、彼自身が誰にともなく「小鳥の歌」を歌うシーンは本当に感動します。私はよく、ここから「葬送行進曲」までを通しで聴いてしまいます。
おお同士よ!ヘルデンテノールに少年性を求める会にようこそ!(←starboardが両手を広げてオペラポーズで立っているところを想像しながら、オペラ調に頭の中で再生してください。)ジークフリートは、いわゆるヘルデンじゃなくて、もっとリリカルな少年ぽいアプローチが探索されてもいいと思うんです。難役だけに、そういう声だと最後まで持たなさそうで安心して聴けないんですかね?
ところで、wagnerianchanさんが小鳥の歌で感動してしまうというディスクを教えてもらっていいですか?複数でもいいです。私はこれまでそういう観点で聴いたことが無かったです。愛聴盤が黄昏になってもずっと陽気な少年調で、小鳥の歌を歌い出しても全然違和感がないので、そのせいかもしれません。こっちのジークフリートは"Brunhilde! Heilige Braut!"でいきなり大人になるので、ここが泣けます。
忘れ薬の会話はギャグ調にカットして書きましたが、続きがあって「おそれを知った」=>「警戒して忘れ薬を飲まない」とつながるので、ここでキーとなるのはおそれではないという話もしました。ズバリ過ぎるのでレポには書きませんでしたが、「あの小鳥はきっと、ジークフリートがブリュンヒルデに振られてがっかりしてるところで、ドロンと裸の女性に変身する予定だったんだよ。宛てが外れたのでどっか行っちゃったんだよ。」なんて品のないトークもしてました。元々こういうイメージが小鳥にはあったので、目の前でそれを展開されて吃驚したわけです。
小鳥の声が聞こえなくなった理由については、私はもっと下世話なことを考えていて*1、巫女さんが処女である必要があるのと同じ理由です。人間には聞こえないものが聞こえるというのは、そういうことだと思うので。ジークフリートは神にも出来なかった指輪の奪還という行為を通じて神性を獲得していて、だからヴォータンの槍も折れるわけで*2、そしてブリュンヒルデとジークフリートは一緒に神性を失って人間になるんです。ジークフリートは獲得したときも失うときも無自覚ですが。まあ、「知らずに尊いことを成し遂げる人」ですから。この無自覚さこそがこのキャラクターの魅力なんですよねー。えへへ。