ベラネク著「コンサートホールとオペラハウス」

念願の(?)ベラネクの本を図書館経由で入手しました。例のごとく先に開いた形跡がありません。勿体無い。ちなみにA4で600頁超の大型本です。ずしっと来ます。3kgくらいあるんじゃないかな。入手の際にはご注意を。

コンサートホールとオペラハウス
レオ・L.ベラネク著
シュプリンガー・フェアラーク東京,2005年
世界31の国と地域の100の音楽ホールの詳細データを一挙に解説した、建築音響設計のバイブル。音楽用施設の理解と設計にとってこの上ない参考資料であることはもちろん、音楽、音響、建築、旅行の愛好者も堪能できる一冊。

んで、中身は世界のコンサートホールとオペラハウスの図面と写真と建築データと音響特性がメインで、そこに解説がちょこちょこついてるって感じです。解説読んだ感想でいうと、意外とこの間のホールの改修を考える公開講座がいい解説だったんだなーというか、聴衆の立場であればあれで充分かもしれません。ただし、こちらの解説はさすがに定義や理論がしっかりしてるので、そういうのに興味がある方は是非どうぞ。

まず目次、次に、その他の章の情報を多少入れつつ第1章の内容をまとめた文章(残響時間に関する一般的解説)、第2章のうち素人にも役立ちそうな部分の抜粋、最後に私にとって縁のある(ありそうな)コンサートホールとオペラハウスの音響特性をまとめた表を掲載しときます。

目次

  • 第1章 音楽と音響
    良い響きとは何か?/空間の響きと演奏家/空間の響きと音楽史/空間の響きと聴衆
  • 第2章 音楽音響学の用語
    用語の定義と説明/残響時間と音の豊かさ/直接音、初期反射音、残響音/初期残響時間(EDT)/連続音の速さ/明瞭性と透明感/共鳴/親密感あるいは臨場感と初期時間遅れ/中音域の残響感(ライブネス)/空間性/暖かさ/音に包まれた感覚/音の強さと音量/ティンバーと音色/音響的グレア/輝かしさ/バランス/ブレンド/アンサンブル/応答の即時性(アタック)/テクスチャー(肌理)/エコー/ダイナミックレンジと暗騒音レベル/音質の阻害要因/客席部の音の均一性/ホールの響きに影響を受ける音楽の品質の要約
  • 第3章 コンサートホールとオペラハウス100
    ここがメインの図表とデータ集です。
  • 第4章 コンサートホールの音響学
    インタビューと質問表に基づく58のコンサートホールの音響空間としての品質の評価順位
    残響時間−音楽家の嗜好/建築的諸元/音響空間としての品質に関係する音響物理量/建築設計に関する考察/室内楽ホール/結び
  • 第5章 オペラハウスの音響学
    質問表調査による21のオペラハウスの音響空間としての品質の評価順位/23のオペラハウスの音響特性の物理測定値/オーケストラピット/ボックス席とバルコニー/エコーと歪み/結び
  • 第6章 日本のホール
    まえがき/日本人の音感覚、響き感覚/コンサートホールへの歩み(東京音楽学校奏楽堂・日比谷公会堂神奈川県立音楽堂と旧NHKホール・東京文化会館NHKホール・熊本県立劇場)/コンサートホールの誕生/わが国の建築音響設計技術の特徴と成果/オペラハウスについて/本書の特色とコンサートホールの響きについてのベラネクの考え方/あとがき
  • 付録1 用語、定義、換算係数
  • 付録2 コンサートホールとオペラハウスの音響データ
  • 付録3 公式、技術データ、吸音率

第1章から(残響時間)

ホールの残響時間は音響特性の中でもっとも基本的なものである。残響が長いと音が力強く包み込まれるような効果を生じ、短いと明瞭で透明性の高いものとなる。

ホールの音は観客によって吸収されるので、残響時間は満席時の方が短くなる。満席時と空席時では0.2〜0.5秒程度の差となる。以後本文で断りのない場合は満席時の値である。

音楽や演奏法そのものも、それが生まれた時代の空間を反映しており、バロック期は小規模で残響が1.4〜1.6秒程度と短く、古典派期では空間の規模のは比較的大きくなるものの残響時間は1.6〜1.8秒程度、ロマン派期には残響はより長く明瞭性の低い空間を前提としており、2秒程度であった。

今日のホールでは、残響時間が1.4秒程度のホールを「ハイ・ファイ」ホール」と呼んで明瞭性が要求されるバロック期の音楽などの演奏に特に適するものとして区別され、その他の19世紀以降に建設されたホールでは1.6〜2.1秒、好ましくは1.8秒以上である。残響時間の長いホールを「ライブ」、短いホールを「デッド」「ドライ」と言う習慣もある。

オペラハウスは通常の音楽を演奏するホールと異なり、歌詞の聞き取りのために比較的短い残響時間が好ましいとされ、オーケストラの演奏もこれを前提としている。ヨーロッパの古くからある典型的な馬蹄形劇場の残響時間は約1.2秒である。アメリカや日本のように、自国語歌詞の作品が少なく歌詞の理解が別の方法で行われる前提であれば、残響時間はもっと長く、1.5〜1.6秒に設定されている。

なお、世界の21名の著名指揮者に対する世界24のオペラハウスの評価によると、ブエノス・アイレスのコロン劇場が最高、2位がゼンパー、3位がスカラ座で、我がNHKホールが最低の評価だそうである*1。上位6位のオペラハウスの残響時間は1.24〜1.6秒、平均値は1.4秒で、良いと評価されたホールは2500席以下の「親密感」を感じる大きさで、歌手は効果的な反射面(舞台背景とプロセニアム・アーチ)に囲まれており、その歌声はオーケストラの演奏音よりも明瞭であると評価された。

第2章から(音響特性の説明と定義)

  • 初期反射音:直接音から80msec以内に客席に到達する反射音。
  • 残響音:80msec以降に到達する反射音。
  • 残響時間(RT):残響音が60dB減衰する時間。実務上は-5dB〜-35dBまでの経過時間を2倍して求める。midまたMとの表記は500Hzと1000Hzの測定値の平均。
  • 初期エネルギー比:初期反射音/残響音のエネルギー比。
  • 初期残響時間(EDT):楽音が停止した後に10dB減衰するまでの時間を6倍した量。6倍するのは残響時間との比較の便のため。
  • 初期応答遅れ(ITDG):直接音と第一反射音の時間差。主観的な親密感と関係する。
  • ライブネス:350-1400Hz帯域の残響時間。残響時間は周波数帯域によって異なり、この領域の値が主観とほぼ対応している。
  • 暖かさ:低音が過少または過剰であると暖かさに関して問題を生じる。問題が起こる場合は特定の周波数帯域の吸音が原因であることが多い。125Hz帯域の音圧によって測定する。低音残響比(BR)や低音の音の強さ(Glow,G125[dB])などの指標が用いられる。

お次は世界の主要歌劇場の音響特性一覧(第5章 表5.1から抜粋)の予定ですが、異様に長くなったので、本日はこの辺で。

*1:NHKホールをオペラハウスに入れるのはおかしいって。