Small opera, small country

まだまだHoudiniリピート中です。この続きをもうちょっと調べてみた。まず最初のヒントは、Dacapoの作曲家の説明文から。

http://www.dacapo-records.dk/artist-andy-pape.aspx
Andy Pape (b. 1955) is American-born, but very Danish in his down-to-earth attitude to contemporary music. In 1990, with the film director Erik Clausen, he created the chamber opera Houdini den Store (The Great Houdini) which had unheard-of success with audiences as a touring, carnival-like show. Andy Pape was a pupil of Ib Nørholm. In his works he questions the post-war avant-garde, and provides the answer himself with inspiration from American minimalism, Neo-Classicism and the pure joy of playing and composing.

chamber operaって書いてありますね。ミュージカルじゃないんだ・・・・ツアーで前代未聞の成功をしたって。ツアーといえば、Den Jyske Operaのスケジュールを調べたときに思ったことが・・・・気付いたときに書いておけばよかった。簡単に言うと、Den Jyske Operaってのは年に数演目しかやらないんですが、その内訳は国内各所のツアー用2演目(一演目あたりの公演数20以上)、子供・ユース向け企画2演目(うち一演目はやっぱりツアー)という感じで、殆ど国内の劇場をツアーして回ってるらしいんです。Den Jyske Opera = The National Operaですからね。

まあそういうツアーをする伝統があるんだなあということと、やっぱりこれ一般にウケるんだ*1ということを発見しました。


続いて適当に検索してて当たったのが、この本の記載。

New music of the Nordic countries
Author: John David White, Jean Christensen

.... his Houdini the Great, a street opera in 8 scenes for 4 singers and 6 musicians on a text by Erik Clausen. Performed at the Royal theater in 1989 but conceived as street theater, it has been produced throughout Denmark. In its rightful setting, with an eminently portable instrumental ensemble (trumpet, guitar, bass guitar, accordion, percussion, and a synthesizer played by the director) and a small cast (soprano, alto, tenor and baritone), literally countless numbers pf people have been seen it.

この後に、この作曲家とリブレッター兼プロデューサーのコンビが作り出した2本目、3本目のオペラに話が続いててそれも興味深いんですが、そっちの話はまたいつか。

ストリートオペラって書いてありますね。デンマーク中で公演して回ることを前提に作られたって。6人の演奏者(しかも楽器は持ち運べるものばかり)と4人の歌手からなる小さなオペラ。その通りに各地で上演されて数限りない人々が見たとな。

なるほど。ところで、なんでこれが、私の求めたニュアンスに近いんでしょう。歌唱がすごく繊細でニュアンスに富んでいるんですよ。ストリートオペラって、言葉だけ聞くと、もっと粗雑な感じがするじゃないですか。


原因は色々あるでしょうが、私の思いつくひとつめは、歌手が違うということ。マスカレード(1986)のときにも感じたことですが、新しい録音と比較にならないんです。マスカレード全幕の新しい録音を3本持ってますが、1986のキャストを超えてる人って一人もいないんです*2。なんたること!この時代の歌手はこういうことが出来たし、また当然要求されたから出来るようになったという側面もあるんでしょうね。

私が古い録音を注意して聴いてるのはデンマークオペラだけですが、全体にこういう傾向があるんでしょうかね。オペラの黄金時代って、こういうことですか。でもYouTubeとかで古い録音に触れても、ここまで質的に違う印象は受けないんです。昔の歌手でいい人はいても、そりゃそんだけ長いタイムスパンの中から探したら限られた現役枠よりもよい人はいるだろうよ、くらいの感覚です。そういう普遍的な話ではなくて、私がよいと思うものがたまたまこの時代のデンマークの様式に一致していたという好みの問題なのでしょうか。この話はまた考えてみたいですが、とりあえず次に行きます。

ふたつめは、観客との距離が近いということ。ステージと客席の間にオケピット無いし。TV用の収録ではストリートオペラの上演イメージを表現しようとしたのだと思いますが、メインとなるステージの他に、客席内やその中央の通路を抜けた先にママのいるHoudini家のセットを作って、歌手は、客席とステージの間を自由に行き来して、ときには客席で聴衆を巻き込んで歌います。ストーリー自体がショーを扱ったものだから、客席はそのショーのステージの一部でもでもあり、このオペラの観客でもある二重構造になってる。これが、私の元々のイメージ*3に直接関係する理由でしょうか。

みっつめ。伴奏が薄くて、殆ど歌と重ねず、楽器の位置も後方(画面には映らないが、音が遠い)。傾向としては、一節歌うたびに追いかけてポロロンとやってる風の、ギター一本の伴奏みたいなときにありがちなパターンというのかな。殆ど重ねない。

まあ、つまり、千席規模のオペラハウスに声を届かせるための歌唱では全然ないし、さらにオケを超えて*4届かせる必要もないんですね。普段そういう規模の会場で歌ってる歌手にしたら、かなり余裕の範囲でしょうか。

繰り返しになっちゃいますが、すごく可能性を感じたんですけど、なんでしょうね、これ。なんでこんなことやりはじめたんでしょう。ひとつはオペラのツアーをやる伝統があるからでしょうね。よくシェンヴァントさんがデンマーク音楽や文化のことに言及するときに small countryだからって言い方をするんですけど、主要各都市にひとつずつオペラハウスみたいな規模は無いんですよね、たぶん。それがこういうものの成立する下地になったんでしょうね。

*1:ただし変なもの好きデンマークでウケる=日本で思う一般ウケとは限らない。

*2:しいて言えばマスカレード(2004)のビリエルさん@夜警がよいのだが、これは正統派夜警ではないところに私がムズムズしたからであって、歌唱の技術的な問題と違うと思う。Deccaのクリステンセン・アーブも声とキャラがツボなのであって、歌唱がニュアンスに富むというのとは違うのだ。

*3:リハーサルのときのように軽く歌って欲しい。

*4:まあこのオケを超えてってのは普段ドイツオペラ聴いてるからつい言及したくなりますけど、古典的なオペラでもそんなに重ねない作品ってのはあるとは認識してます。念のため。