ラインゴールド@上海

本日からセカンドサイクルに突入です。ちなみに昨日からホテルのネットは全く繋がりません。公演直後の夜に書いていますが、いつ投稿出来るか不明です。今日は中国では月餅を食べて家族と過ごす祝日だそうで、そのせいかもしれません。

まだオープンになっていないので書けないと言ってた件でいつアナウンスがあるかと緊張して力んでいたため*1、ぼっとしてて導入部がどうだったか覚えていません。ラインゴールドの導入って好きなんですけどね。「永遠」を感じるんです。そんな幸先の良くないスタートを切った本日の演奏ですが、ふと気がついたら先日より大分聴けてました。1サイクルめの黄昏同様にラインの娘達のおかげでしょうか。予想と期待と実際に聴こえてくる音との間のギャップが埋まってきたのも大きいのでしょう。

本日の座席は3階2列目の中央付近です。オケと同様に、歌手の声も今日は何故か前回の記憶よりよく聴こえている気がします。不思議に思って前回までの経験を元に観察しながら聴いていると、この劇場(の上階席)は歌手の立ち位置に聴こえ方がものすごく左右されることが分かりました。歌手がプロセニウム近くまで来ると他の劇場の経験に近い音がしますが、引っ込んだ位置では全然音が来ません。ステージ左右の空間が大き過ぎて音が拡散してしまうという情報を裏付ける観察結果です*2。そゆわけで、以後は、聴きどころで歌手がどの位置に立つかをヤキモキしながら聴くという奇妙な鑑賞をすることになりました。しかしこれ、早めに気付いて良かったです。気付いてなかったら、意味不明なムラがあると歌手の評価に含めてしまったことでしょう。立ち位置を補正しながら聴くと納得出来る結果となりました。

さて冒頭のシーン、ラインの川底は舞台一面に散りばめられたゴミで表現され、ラインゴールドは古タイヤの中の金色キラキラです。モチーフはゴミですが、人物の衣装や照明なども含めて舞台全体がシックな茶色で統一されているので全体にはシックな印象です。この演出では、サイクル全体を通して舞台がベルベットを思わせる重めのこっくりした色遣いで、かつそのときどきの基調色を中心とした微妙な色遣いの色数少なめの装置と照明で構成されていて、それが全体に統一感を与えています。ラインの娘達とアルベリヒのやりとりは、まあ王道な感じです。というか私が聴こえ方ばかり気にしていたせいであまり記憶に残っていません。なんかでも、ラインの娘達は音楽への導入という観点で私によい影響を与えてくれている気がします。

場面が転換して2場に入ると、工事現場らしき資材が置かれた手前にヴォータン夫妻が登場。ヴォータンはグレーの軍服姿ですが、以後の演出的に特に軍が出てくるわけでもなく、権威と権力の象徴としての軍服設定といったところでしょうか。ヴォータン家の使用人らしき黒服部隊とフリッカのメイドも出てきて、ひとくさり歌うとフリッカはメイドに手伝わせてお着替えタイムです。冒頭の会話は起き抜けの夫婦の会話という設定なのでしょう。黒服部隊は以後の舞台転換も担当してて、なかなか便利な存在です。

フリッカのSchaechterさんはうまいと思いました。ヴォータンのグレムスリーは先日の印象同様、弱くて平坦だと私は感じました。この人、声はぴったりなんですがね。

ファーゾルト&ファーフナーはレンガ色のつなぎ姿で、同じ衣装の工事部隊を多数引き連れて登場します。のっぽ&デブの王道凸凹コンビですが、ファーフナーの方がのっぽ設定なのは珍しい気が。工事部隊に低めの身長の人ばかりを集めたのかもしれませんが、ファーフナーが頭ふたつくらい抜けて目立ちます。ファーゾルトのクルト・リドルはすごいですね。この人だけ他所の劇場に立っているみたいです。奥で歌っても充分聴こえるし、この日の公演全体を通して、劇場の空気を震わせたのは、この人が手前に来たときだけでした。声量だけでなく、歌唱そのものも変化に富んでいて、飽きさせません。ファーフナーの方は元々そんなに出番もありませんが、まあやたらデカいこと以外は特に何もなく。

フロー@ロシュコウスキ、ドンナー@サミュエル・ヨンが出てきて、さっそくフローが派手に突き飛ばされたり、ドンナーが地味に突き飛ばされたりします。声はそれぞれ役のイメージに合ってるんだけど、歌そのものは2人とも平凡でした。最後の数少ない見せ場のとこも含めて。ま、小さい役だし。

この公演は、小役まで含めて声はすごく役にぴったりの人を揃えてキャスティングしてる点は感心出来ます。ローゲのシュスも声はイメージぴったりですが、ただ歌唱としてはやっぱし平坦なんですよね。ローゲは黒の3ツ揃いでヴォータン家の執事頭らしき設定でした。

工事部隊が資材を梱包してたり、黒服舞台がヴォータン一族の食事を用意したりお茶を入れたり細々動き回ったりしてて、舞台は変化があります。

巨人兄弟がフライアをゴンドラに乗せて連れ去るとローゲとヴォータンがアルベリヒのところに向かいますが、ニーベルング族の世界への入口はヴォータン家(工事現場?)の地下です。ここで舞台転換の音楽ですが、なんか鍛冶を表すパーカッションがすごく素人くさくてショボかったような。もう1回出てくる帰りのときもやっぱりショボかったけど、なんでしょうこれ。

ニーベルング達はなんとなく暗い衣装を着て床を這いつくばってました。ミーメのKoch(コッホ?)はやはりいいですね。アゥアゥ言ってるときもセンスがあります。演技も緩急があって、やはりセンスを感じます。この人は以後マークすることにします。ミーメが歌うときの立ち位置がずっと手前でよく聴けたので満足でした。立ち位置のせいでよい印象になったのかと注意して観察したところ、同じ位置でヴォータンとローゲが歌ってもやっぱイマイチでしたから、確信しました。

さてミーメが舞台上から去ると、しばらくヴォータンとローゲとアルベリヒの3人のシーンが展開するわけですが、この3人の歌唱が平坦なので、この変身のシーンと次のリング奪回までのところが退屈で退屈で。前後左右の観客もこのシーンで寝る人が多かったような。ちなみに変身シーンですが、アルベリヒが一人ポツンと舞台上に残って、周辺には身を隠すような装置も無くスモークを炊く気配もないので一体どうするんだと思ってたら、舞台の端でうずくまっていたニーベルング達が集まってうごめいてドラゴンを表現するというものでした。あと、地上に戻ってきた後はアルベリヒは引きずりまわされていて、さっきフローがど派手に突き飛ばされていたときにも思いましたが、青痣の出来そうな容赦ない演出だなーと思いました。

そんな感じで歌唱的に退屈だったところにファーゾルトのリドルが戻ってくると一発で目が覚めます。が、この演出は気の毒なくらい地頭を徹底する演出なので*3、リドルのハゲデブおやじに横から抱きしめられて身を硬くするフライアの図がめちゃリアルです。フライアの姿が隠れるだけの黄金を積むシーンが、フライアが横になって、海水浴で砂に埋められる人みたいに黄金で埋められるのは意外でした。

さてここでエルダ登場ですが、エルダのヒルケ・アンデルセン*4はすごく良かった。この人もずっと舞台の奥で歌うのですが、ものすごく存在感がある。格好は、白髪で小汚い格好にエプロンをかけてて、既にジークフリートで観ているので、ヴォータン家の掃除婦だと直感してしまいましたが、ラインゴールドから先に観たら、ひょっとしてヴォータンの母親設定なのかと思うかもしれません。というのは、ヴォータンがエルダの手前に座り込んで「すりすり」するのですが、その雰囲気がなんだか母親に甘えているみたいなんです。で、大変立派な警告を歌ってエルダは去るのですが、そこでフリッカがヴォータンを嗜めるように近づくと、ヴォータンは軽く突き飛ばして、エルダの消えた方向に行ってしまうという。

この後ヴォータンがリングを手放し、巨人兄弟が取り合いをしてファーゾルトが殺されると*5、フライアがファーゾルトの傍に座り込んで、ドンナーが歌い終わるくらいまでずっといるという演出は結構好きです。

で、演出的にはファーゾルトの死体がずっと舞台中央の手前に合って、その後ろでヴォータン家の人々が交替で歌うのですが、誰かが歌っている間に他の人は舞台から引っ込んで着替えをして正装で再登場して、ヴォータンのアリアまでには一同正装で勢揃いして、黒服部隊が燭台とシャンペンを用意して、新築落成を記念して乾杯、でも手前には死体が・・・・というシーンで幕を閉じます。ローゲは一同から離れて舞台手前の端でポツンと立ってます。ドラマツルギー的には王道な感じです。最後のヴォータンのアリアはもうちょっと決めてほしかったかなあ。


こんな感じでしたが、長く書いた割にはイマイチ乗り切らないレポっすね。距離感まるわかりですね。私的には、クルト・リドル@ファーゾルト、ヒルケ・アンデルセン@エルダ、マーティン・コッホ@ミーメが頭一つ抜けていて、次点がDalia Chaechter@フリッカなんですが、客席の反応は食い違っていたような。出番が多ければよい反応がもらえるって感じでした。自分の席の周囲の反応を観察してると、大体自分の評価と一致してるんですが、オーディエンスの大多数と声を出して意思表示する方々はまた違うってことなんですかねー?

*1:今日はなかった。明日は確実にあることでしょう。

*2:ついでに、益々小野さんの本が有効な状態な気がしてきました。

*3:唯一の例外がグレムスリーのロン毛。

*4:ドイツの劇場の公演なのでアンデルセン表記で。

*5:ひっくり返ったリドルのお腹が、レンガ色のツナギ姿のせいもあってぬいぐるみみたいでラブリー。