ジークフリート@上海

本日は開幕前にこの一連の公演でたぶん唯一のスタッフからのお知らせがありました。アナセンが降板し、代わりのジークフリートはアルフォンゾ・エバルツです。またヴォータン=さすらい人のグリムスリーが風邪を引いているけど歌うとのこと。アナセン降板に関しては後ほど別途書きますので、ここでは触れません。グリムスリーに関しては、さんざ不満を書き連ねてきましたが、そっか風邪引いたまま歌ってたのかーじゃあ仕方ないかと思い直しました。

前奏の時点はちょっとノれない感じだったんですが、幕が開くとミーメがいいので結構聴けてしまいました。舞台はトレーラーハウス・・・・じゃなくて、もっと小さい小型のバンみたいなのがミーメとジークフリートのおうちという設定です。ホームがあるけどホームレス設定で、舞台中の至るところに廃品を拾ってきて作られた鍛冶場やら賄い場やらバスタブやら小汚い洗濯ものやら、その他よく分からんゴミが転がっています。ミーメは体に合わないずるずるの上下にボロボロのコート姿、ジークフリートは迷彩柄のカーゴパンツ*1に薄汚れたシャツ姿です。ジークフリートとミーメがバンハウスの中と外を使って鬼ごっこしますが、バンハウスの窓からちょこんと顔を出して歌うとこは、なんか可愛いです。

さて肝心の代役ジークフリートですが、悪くないです。声は殆どバリトン声で、芸風を抜きにして声質だけでいうとメルヒオール路線で、こりゃ客席もさぞ喜ぶだろうと思いました*2。そこで悟りました。私は最近のバイロイトジークフリート達、特にライアンとグールドがもんのすごーく苦手なのだと。いえ、いつも引き合いに出してすみませんね。このキャストチェンジ騒動ではライアンが両ジークフリートを歌って、エバルツはジークムントだって聞いてたから、それは私にとっては最悪シナリオだったんですよ。この人達は私にとってはたぶん遺伝子レベルでNGなんです。だって出てくると直感で「いやー嫌いーあっち行ってー」って思うんだもの。ま、誰にでもそんな組合せはある相性の問題ということで*3

まあたぶんこっちの方が一般的な野生児ジークフリートといいますか、普通におっさんなので、ウサギのぬいぐるみ*4を持ったり、バスタブにハマってみても可愛くないです*5。まあ、なんつうか、ただの馬鹿に見えますね、はい。つーかちょっとコワいかも。でも不満は多々あれど、歌が本質的に嫌じゃないというのは随分救われるものだと思って観てました。それに、おっさん路線だけどユーモラスなとこがあって、登場時に口元が綻ぶ感じはちゃんとあったんですよ。あといいとこは・・・・あ、髪の毛が豊富でした*6

彼はたぶんこのプロダクション経験済なのでしょうが、演技の方も危なげなところはなく。でも大根なのは仕方ないですね。比較相手が悪いのですが、先日観たばかりだからなー。腰が入ってなくてぼさっと突っ立ってる感じなんですよね。重ねて言いますが比較相手が悪いのですが。でも私的には、こうやって同じプロダクションで違う人を連続して観て、どこまでが演出の範疇で、どこから歌手が自発的にやってるのかが観察出来て貴重な経験になりました。

歌唱の細かさについては比べるまでもありませんが、比較抜きで単独で聴いて不満を持つ感じはなく、リリカルさのあまり要らない場面、たとえばノートゥングだけ聴くならこの人でも全然いいです。あ、でもこうやって生でトンカンカンを聴くと、ちょっとずるっと来たかも。オケ関係なくめいっぱい叩き付けるように打ってるし、しかも力任せの癖にしばしば外すし、そもそもいい音じゃないんですよ。あのトンカンカンを音楽の一部として演るのは当たり前じゃないということが分かりました。ま、でもこんなの只の贅沢ポイントであって不満じゃないです。そういえばミーメもトンカンカンは全く引っかかりませんでした。ということはうまかったのでしょう。

思いのほかジークフリートに拒否反応が出なかったのと、ミーメがやっぱりいいので1幕は楽しく観れました。私の好きなミーメというとオーフスとコペハンなんですが、全く負けてないです。これは結構すごいです。リズミカルで、ずっと聴いていたい声で、様々なニュアンスを乗せて歌うことが出来て、ちょっと若過ぎて設定にズレがありますが、芸達者で小人っぽさバッチリです。マーティン・コッホはまだ30代半ばですから今後の成長が楽しみです。

あと1幕というと、さすらい人か。今日はアナウンスがあったくらいだからいつもより悪いのかなーと思ったら、先日までと一緒でした。ずっと風邪をおして歌ってたんだとすると、ご苦労様です。風邪のせいで声が出ないのだとして、その分を割り引いて考えても、やっぱスタイルが退屈です、私にとっては。でも彼はここではとても人気があって、歌の内容と評価が釣り合わないので*7、あんまり腑に落ちないので、(1)私の聴いていない1サイクル目のラインゴールドですごい歌唱をしたのでずっと贔屓されてる、(2)実は何度か来中済で一人だけ知名度が高い、(3)最近彼の出てるなんかがTV放映でもされて、中国のオーディエンスはよく知っている、(4)実は何分の一か中華系の血が入ってて贔屓されてる、なんて仮説をつい考えてしまうくらい人気です。みんなが何に満足して何に不満を持つのかもう私には分かんないです。

演出はまあ王道かなという感じで舞台セットやその使い方もまともで効果的かと思ったんですが、ひとつ書いとくとしたら、さすらい人が3つ目の質問に答えるところで、ミーメがバンハウスの中から刃物を持って外にいるさすらい人を狙って、あっけなくかわされ、以後形勢逆転してミーメが答える展開になる演出でした。あと最後のノーティングで銃床を切るところは、バンハウスが切れて輪切りになり、中にいるミーメがびっくりという演出でした。ここは派手な火花と音がするので、観客は大喜びです。ジークフリートの1幕こう終わるべきという見本みたいな展開でした。

ジークフリートのレポはやっぱり長くなったので、続きは後日。いまやっとネットが繋がったので取り急ぎ投稿してしまいます。

*1:偶然ジークムント&ジークリンデと共通です。

*2:何故私が他の客の心配をしなきゃならんのだ?

*3:私のこれは中高生くらいの頃から他の女の子がきゃあきゃあ言ってる相手に対して発動したりして、はっきり言って一般的でない感覚なので、読んだ人は気にしないが吉と思います←じゃあ書くな。

*4:ゴミの山から拾ってきたので小汚い。

*5:アナセンはあんなにちょこんとして似合っていたのに。体型は似たようなもんなのにこの差はなに?

*6:このプロダクションでは重要なことです。

*7:この日合流したドイツからのツアー仲間も同じことを言っていたので、こう思うのは私だけではないらしい。