ジークフリート@上海 (2)

すっかり出遅れてしまったケルンオペラ上海公演のレポの続きを書きました。と言っても、いいところはあらかた書いてしまったので、つまり気の進まないレポだけだけが残っていたということで、記憶も薄れてしまったところで、残りはごくごく簡単に・・・・するつもりでしたが、やっぱり長くなってしまいました。早く公演のレポをアウトプットしておまけ部分を書きたいのですが。ちなみに1幕のレポはこちらです。

総括と歌手について

さてそんな風に期待させてはじまった2サイクル目のジークフリートですが、しかし、こんな風に良かったのは1幕だけでありまして、2幕、3幕は、やっぱり1サイクル目のそれが鮮烈だったので、あまりにも物足りないと私は感じました。エバルツの個性が1幕に向いていたということもあるし、私が2幕、3幕に変なものを求め過ぎということもあります。ただ最後まで観た後の満足感ということでは、狐につままれて終わった昨年の新国ジークフリートよりよほど満足しました*1。通常の公演であればこんなものかなーと。

私的には、無い物ねだりをしなければエバルツは合格で、フランツのジークフリートが時々すごくいい部分を見せつつもなにか危なっかしくてハラハラさせられるのに対して、この人は安定していて、ただ場面々々で様々な表情を見せてくれるとか時々はっとする美しい瞬間があるとかその手のことは期待出来ないという感じでしょうか。ここから逆に、声量さえあればなんとかなるのはノートゥングで締める1幕だけで、2幕、3幕に求められるものは難しいと改めて認識したのでした。

しかしこの日の私の注目株はミーメのマーティン・コッホに移っていて、2幕の殆どはこの人の観察タイムでした。観察するうちに「この人に(いつか)ジークフリートを歌って欲しい」と思うに至ったのですが(←私的最大級の賛辞)、どっかでつかまえてそう言おうと思っていたのですが、最後まで会えなかったのは残念です*2。しかしミーメからジークフリートにステップアップするのは有なんですかね。タミーノとジークフリートを同時に歌ってた人もいますから、なんでも有な気がしますが*3。そゆわけで、私のジークフリート候補2人目が見つかったのが収穫でした。

他は、エルダのヒルケ・アンデルセンは本日もよろしく、ブリュンヒルデのフォスターは益々よろしく、さすらい人のグレムスリーは本日も弱く、ファーフナーとアルベルヒは本日も印象に残ってないという展開を辿りました。たぶん後者2人は普通に役目を果たしていて、特に不満に思うことも印象に残ることも、どっちも無かっただけなんじゃないかと思います。

2幕

演出ですね。2幕の幕が開くと、木の幹だけが立ち並ぶ寂しげな冬の森の風景です。本日も斜めから日が差し込み、登場人物の影が長く伸びております。ヴォータンとアルベリヒのシーンは木立の周囲をあっちこっち行きながら普通に終わり、続いてミーメとジークフリートが登場します。ミーメはホームレスらしく自分の体よりも大きな沢山の家財道具を抱えて登場し、観客の笑いを誘います。ミーメが大きな荷物を抱えてよっこいしょと退場すると、ジークフリートの一人芝居ですが、ホルンはおもちゃのトランペット*4でした。小鳥は姿を見せずに舞台袖近くの上方のボックスから歌ってたと思います。さていよいよドラゴンの登場ですが、これは黄色いクレーン車の腕の部分(ものを掴む部分)が舞台上方から出てきて、奮闘を表すズンズン・・・という響きの間に降りて迫ってきて、そこに横から走り込んできたジークフリートが急所のクレーンの腕の開いたとこにノートゥングを突き刺すというものでした。ここで「走ってないやんけー!早足で出て来ただけやんけー!」とツッコむstarboardが。この間のジークフリートはまさにつむじ風のように真横から飛び込んできたというのに*5。ファーフナーの本体は出てきた筈ですが、記憶がありません。あんまし突飛じゃなかったのでしょう。

ミーメとアルベリヒの掛け合いをやって、ミーメだけが残ると、ここがこのプロダクション一番笑いを取っていたところで、ミーメがゴミ捨て場から拾ってきた燕尾服の上着を着こんで、元は白かったが今は薄汚れてしまった古い前掛けをシャツ代わりに、これもゴミ捨て場から発掘したと思われる古ぼけた蝶ネクタイを付けて、ジークフリートを歓迎します。そうそう、ゴミ捨て場ってなんでもあるよねーと妙に納得してしまう瞬間です。さらに持参した荷物の中から折りたたみ式のテーブルを取り出し、なんとファーフナーの死体の上に広げて、その上にケーキのスパンジ台を出して生クリームで飾り付けをするというベタなギャグシーンが繰り広げられます。ジークフリートをおだてようとして本音を喋ってしまうミーメですが、コッホはやはりこういうのがすごくうまいので、何故かこのシーンが自然に受け取れてしまいます。最後にジークフリートに倒されるとケーキに顔を伏せて顔真っ白のパイ投げ状態になって観客席の笑いをとってました。この日のカーテンコールではコッホはこのボロ服の上に燕尾上着+嘘っこシャツとネクタイで出てきました。さすがに顔真っ白は落としてましたが。

さてミーメが倒れるとジークフリートが本当にミーメを引きずって、ついでにファーフナー(中身)も引きずって行くので、毎度のことながら青痣の出来そうな演出だなーと感心します。この2人が巨体じゃなくて良かった。小鳥とのシーンは歌手の一人芝居に任せる感じで、ごくオーソドックスなまま2幕は終わります。

3幕

思いもかけず2幕が長くなったので、以下は早急に。3幕は懐かしのヴォータン家の居間で、ソファの上で眠っている人を起こすと、それが掃除婦の格好をしたエルダです。エルダが去ると何故かジークフリートが小鳥を追ってヴォータン家の居間に迷い込み、ヴォータンのステッキを折って*6先に進むと、お次は舞台全体が暗いところに横一文字に本物の火がちろちろと燃えていてこの火だけが目に飛び込んできて、目が慣れると手前にはワルキューレ3幕の元戦場の遺品が転がっているのが見えるようになるという次第。舞台の火のインパクトが強い以外はごくオーソドックスな感じでした。残念なのはブリュンヒルデを起こすまでのジークフリートの一人芝居が火の手前で暗いままで繰り広げられるので、後ろの火に目が惑わされて、ジークフリートの表情がよく見えないことでしょうか。いえ、私も今日見たいとは思っちゃいませんが、前回残念だったのです。ブリュンヒルデのキャサリン・フォースターは先日の黄昏で聴きどころが分かったせいもあって、癖のない素直な感じでなかなかよいと思いました。最後は王道で、舞台の左右に分かれて正面向いて歌い、幕の直前で駆け寄って抱き合うという、これ以上無い伝統的スタイルでした。

*1:新国は3幕3場がなんだかなーだから終わった後はすっきりしないのです。

*2:って、まるで会って直接話せるのが当然であるかのような口ぶりですが、その秘密は次回で。

*3:あの人を基準にするのは止めよう。

*4:ごみ捨て場から拾ってきたと思われる。

*5:でもあれ、どんだけ助走してたんだろ。

*6:そうそう、ヴォータンの槍は今回はステッキです。