ルル2回目(落日)@DKT

ルルを選択したのは、もちろんもう一度あの音に浸かりたかったからですが、だからもう目を瞑って座っていてもいいやと思って、音優先で最上階オケ上に陣取ったのですが、この場所が意外と舞台に近くて視界も良くて、普通に視覚面でも充分楽しめちゃいました。これ演出面白いですね。DVDにならないんですかね?フィンランドの若手演出家(有名な人?ビデオではそんな扱い)の初オペラ作品だったかと記憶してるんですが、たしかに芝居の人の仕事っぽいです。少ないセットと衣装パターンで、実に効果的に舞台が作ってあります。

指揮者が出てくる前にステージには出演者がスタンバっていて、セットは半透明の壁の向こうに小舞台(舞台上の舞台)がうっすら見えるというもの。回転機構を使って、この小舞台の表と裏を切り替え、ソファなどの小道具を使って全幕が演じられます。本当に最小限のセットなのに、各シーンに無理がなく、その都度そのために作ったような気すらするのが不思議です。

小舞台の上にはピエロ(黙役)が6人くらい、下で半透明の壁に張り付いてこちらを見ているのがシンガー達です。音楽がはじまって半透明の壁が開くと、各人が出てきて、最後に小舞台の背景として描かれた「リンゴを手にするイヴ」の絵画にルルがイヴの扮装*1をして嵌っています。ルルの紹介の番になると、絵から出てきたルルが動いて各人を魅了するという具合です。

プロローグが終わると、この小舞台の裏側が画家のアトリエになっていて、画家がこれまで描いたルルの絵が飾られています。小舞台の上に陣取ったピエロ達は全幕を通してずっとルルを見守って(見張って)いて、手にした楽器を演奏し、舞台上の小間使い役をこなし*2、なにか事件が起こると肩をゆすって笑い、新たな犠牲者(医科部長、画家、Dr.ショーン)が出ると大喜びで出てきて、身包み剥いだ・・・・と思ったら実は犠牲者にピエロの扮装をさせて復活させ、自分達の仲間を増やして行くのでした。

この調子で書くとキリがないので端折って、医科部長が死ぬとルルは白いドレスを着て登場し、医科部長の手から指輪を抜き取って画家の指に嵌め、画家が死ぬとDr.ショーンに対して同じことを繰り返します。白いドレスはそれまでの相手がいなくなってルルが結婚可能になったことを表していると思われます。画家の死以降がちょっと見もので、それまでルルは度々裸になるので裸タイツを着用しているのですが、これが過剰に写実的というか、関節の影などが大げさに書き込まれた、ちょっとグロテスクとも言えるものなんですが、うーーん、こっちの人にとってはああいうのが魅力的なんかなー、感覚が違うもんだなーと思って見ていると、画家が半透明の壁の小部屋に篭って自殺すると、白いドレスに着替えて登場したルルがDr.ショーンを連れて反対側の壁に篭って、ここで照明もぐっと落ちてピンクやら紫やらのそれっぽい照明に切り替わって濡れ場が演じられるのですが*3、ここで白いドレスを脱がすのはまあ当然の成り行きとして、なにかもう一枚脱がしてる?もう脱ぐもの無いのでは?と思って見ていると、この間にピエロとして復活した画家*4が気付いて壁のこっち側に張り付きになり、狂おしくもがいて、とうとう壁をこじ開けると、なんとびっくり、タイツを脱いだルルが今度こそすっぽんぽんで画家@ピエロ姿に抱かれ、Dr.ショーンは壁の中に残されぐったりしたまま壁ごと去りつつ幕という寸法です。ええ、私の好きそうな、実はそんなに露出してないのに雰囲気だけはやたらエロいエロシーンでしたとも。ちなみにルルが見せるのは一瞬の後ろ姿だけで、私は2回の公演で2人のルルを観たわけですが、最初のルルは超小さなTバックパンツ(肌色)着用でしたが、本日のルルは何も身につけていませんでした。

まあこんな感じで創意工夫はすごい濃くて、これは是非DVDを出して頂きたいと思うわけなんですが、このシーンでエロさは飽和したので後はいくら舞台でモロなシーンやってようが気にならなくなりました*5。かなりリブレットと違うことやってるのに不思議と合ってる演出でした。動きが音楽をちゃんと読んであるのと、一字一句レベルでは違うのに作品全体で描きたいことはきちんと抑えてあるためだと思います。さすが有名演出家を呼びものにしただけのことはあると唸らされました。意外だったのは、この演出家にとってこれがオペラ初作品ということですが、音楽の読みがカンペキで、芝居の人だから元々その辺のリズム感がよいのでしょうが、これじゃオペラ専門の演出家の立つ瀬が無いじゃん、と思いました。いえ、DKTの演出家はそんなことないのですが、いくらでもいますよね、凡庸で創造的なことが何も出来ないならまだマシで*6、アイディアは安直で観てるこっちが恥ずかしくなるわ、音楽は読めてないわ、作品を理解してんのか自体が怪しくて、そんなだったら余計なことしないで大人しくしておけばいいのに、ただ表層的な理解でもって言葉尻を捕らえて弄くってみました的な、思わず「お前は中二病かっ!*7」と突っ込みたくなるような演出作品。

演出のごく一部だけで長く書き過ぎました。後編にて、歌手達について触れながら、残りの演出をさらっと書きたいと思います。

そうそう、演奏は本当に良かった。一瞬もオケに違和感を感じることなく、ただあの音楽に酔いながら、あっという間に終わってしまいました。

*1:裸タイツ、股間には木の葉(笑)

*2:例えば電話をかけるシーンになると電話を提供し、警察登場シーンになるとピエロ服の上に警官コートを羽織って役をこなすという具合です。

*3:もちろん半透明の壁越しなので、モヤっとしか分からない。

*4:ピエロ服は最初のモデルシーンでルルが着用していたもの。

*5:ちなみに北欧は性に関してはとってもオープンです。

*6:これはそんなに嫌いじゃない。みんながみんなハイセンス狙いで無くてもいいのだ。

*7:ネットスラング