京都市オペラハウス騒動ウォッチ(1)
そのうちネタがないときにでも書けばいいやと後回しにしていたら、発端となった日経の記事のオンライン版が削除されていることに気がついて、大慌てでメモ作成。この問題は今後もウォッチしようと思います。
そもそもの発端は、昨年の年末の日経にいきなりこんな記事が出たというもの。該当URLはもう削除されていますが、
2010/12/24 13:30日本経済新聞 電子版
京都に国内最大級オペラ劇場 市方針、事業費100億円京都市は府内最大規模のホールを持つ左京区の文化施設「京都会館」を全面改修し、国内最大級のオペラハウスに衣替えする方針を固めた。総事業費約100億円をかけ、2015年度にも開業する。海外での京都の高い知名度をいかし世界的なオペラ公演を誘致、観光誘客に弾みを付ける。
京都市は再建団体寸前の赤字自治体なわけで、市民のみなさんの反応は、やっぱりというか当然というか、そんなものに税金使うな!というものでした。特にオペラというのが、ごく一部の人間にしか関係ないうえに金持ちの趣味ということで反感を買ったようです。そっちは素朴な市民感情としては理解出来るし、全く反論をする気もないが、ここでは違う観点から情報をまとめてみたいと思います。
現時点の公表されている情報から分かる背景としては、こんなもん。ソースは発見次第補完します。
- そもそもこの話は、現存する「京都会館」の改修話が先にあった。オペラハウスありきではない。
- 左京区岡崎にある京都会館は、2000席規模の大ホール、1000席規模の小ホールを有する多目的ホール。
- 1960年竣工の京都会館は、大規模な改修を行うことなく今日まで使用しており、見るからに老朽化しており、使用者から設備面の不備や不満も寄せられており、ゆえに使用率が悪く収支が悪化する面もあり、改修は必須の状況だった。
- 市では2008年度までに改修する方針を固め、2009年度に再整備基本構想を策定する予定だった。
- ちなみに古い意見書は見つかったが、新しいものはよく分からん。平成18年版はこれ。こちらに京都会館に関するデータも載ってる。
http://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/cmsfiles/contents/0000017/17030/ikensho.pdf - 使用用途は、クラシック系イベントもたまにあるが、ポピュラー音楽と演劇が多く、実際一市民である自分の認識としてもポピュラー音楽のホールであった。
- 設計は、東京文化会館と同じ前川国男で、同時期の設計であり、「日本建築学会賞作品賞などを受賞した日本を代表するモダニズム建築」だそうです。
今ざっとリストアップした事実関係はこんなもんです。たぶん漏れと読込不足があると思うので随時補充していきます。で、ここから下は自分の推測、想像、雑感です。
- 元々の改修話はあったのだが、オペラハウス、100億円規模の工事という話は、公表情報としては、この年末の記事で突然出てきた。
- 改修が必須だとして、久々の大規模改修となれば、単に今の施設で不充分なところを直すのではなく、なんらかの新機軸みたいなものは、ま、要求されるのだろう、このご時勢。で、それをどうするのということで、前川国男の設計ということから、オペラをテーマにしようと考えた人がいてもおかしくはない。安直だとは思うけど。あと実効性については後述する。
- あとクラシック系という枠の中で考えると、京都市には3千人規模の京都コンサートホールがあるので、もうひとつ大規模コンサートホールは考えにくいから、じゃあ次の候補と考えると選択肢はそう多くなく、そういう意味でもオペラハウスというアイディアは出てもおかしくはなかった気はする。
- そういう意味で、「京都会館の改修+テーマはオペラ」までは、まああってもおかしくなかったし、実際そのような案も多数あるうちのひとつとしてはあったのかなと思う。舞台機構の貧弱さゆえに使用イベントが限られる現状があったので、オペラにも使える舞台機構というのは(どの程度を目指すのかにもよるのだが)、ひとつの目安にもなるだろう。
- ただ、年末にいきなりこの記事はどうもおかしい。そもそも24日といえば役所は仕事納め目前であり、自治体がなにかを公表するタイミングとしてはあまりにも不自然。数字も突然かつ具体的過ぎる。つまり、役所として対応出来ないタイミングを狙って、誰かが、おそらく既成事実化を狙ってねじこんだ可能性がある*1。
- そもそも京都会館をどうするのという観点で考えると、あそこをクラシック用としてしまうとこれまで行ってきたポピュラー音楽イベントをどうするのかという大問題がある。赤字自治体としてはもうひとつ作るわけにもいかない。それこそ民間が進出してくるのを狙っているのかもしれないが、民間はいつ撤退しても文句は言えないわけで、民間しかないという事態は市民としてはあまり歓迎出来ない(個人的には全く困らんが、それは置いといて、市民全体としては困るだろう)。
- なお、ついでだが、京都という土地柄、どうせ新機軸を求めるなら伝統芸能系という声は当然予想されるが、求められる建物の規模が違っていて、今の建屋を活かしたまま伝統芸能系のホールにすると小ホールが内部にいくつもある構造になったりして、それはやはり魅力的でないし、やはりそういうのは平屋の個別の建屋で観たいものだし、「日本を代表するモダニズム建築」を活用したとは言い難い結果になるのではないかと思う。あと大きな建屋でやるといえば歌舞伎だが南座が機能しているので、新規に作って客を取り合うのもどうかとは思う。というか文化面含めて新規は難しいのではないか。もちろん改修時に歌舞伎の公演も出来る舞台機構というのは想定してもいいと思うが*2。
- 建築物の構造としてもそうだし、もともと京響の本拠地であったりした歴史があるので、クラシック系の中から何かという発想は、ま、そんなにおかしくないのかなあとは思う。
- さて、一応オペラ趣味者であるところの私の意見だが、まず「国内最大級」というのが、まずセンスが悪いとしか言いようがない。そもそも京都人というのはセンスが悪いものなので、いまさら言っても仕方無いが。とある一点だけはハイセンスの極みみたいなものを作り込んでおいて、私生活などを含めたトータルではおそろしく悪趣味というのが平気で通用してしまうのがこの街の不思議な点である。
- 次に現存する建築物を活かすにあたってオペラハウスが適しているかというと、残念ながら否であると思う。オペラというのは、ヨーロッパの昔ながらの馬蹄形劇場を見れば分かるように、通常のオーケストラ用のホールなどよりも客席面積がずっと狭く天井の高い構造の箱の中で、客席数は上方に積み重ねて稼ぐものであって、今の建築物とはあまりにもかけ離れている。当初からオペラハウスとして設計された東京文化会館とは比較にならない。建築家が共通だからといって、それは安直過ぎる。強行した暁には「第二のNHKホール」と陰口を叩かれること必定である。
- 大規模オペラハウスとしては、近隣では滋賀と神戸にあるので、そしてどっちもオペラハウスとしての回転は寂しい状況であるので(その他のプログラムで頑張ってると思うが)、この規模の劇場を作ったからといって公演・観客ともにニーズが掘り起こせるとも思えない。
- また、規模を売りにすると本格的な5面舞台、そこまでは行かなくても3面くらいは欲しいということになっていて、現状の建築物では厳しいのではないかと思う。現状の建築物を大胆に改変するのであれば、それはそれでモダニズム建築保存の前提に反することになってしまう。
- これは大規模劇場に関する意見であって、個人的には、小規模のものであれば、近辺でコンサート形式やセミステージで面白い試みも行われているので、可能性があるのではないかと思う。
- まあ穏当に、座席数をあまり欲張らず現状維持のままで、舞台機構を小規模なオペラや歌舞伎も出来るようにして、その他現状の用途で不備が出ている機構を盛り込んで、くらいがいいのではないかと思う。キャッチフレーズはオペラでもいいけど、個人的にはそれは市民感情を逆撫でしやすいので、今の京都市の財政状況と合わせて考えると、やめた方が無難じゃないかと思う。
- あとは観光誘致的になんか目玉が欲しいということなんだろうけど、うーん、眠いので明日考えます。つーかソフト育てないとそれって無理だよ。我々だって劇場(箱)聴きに行くんじゃなくて、そこのオケを聴きたいから/歌劇場のコンテンツが観たいから行くんだし。京都の名前があれば来日公演がじゃんじゃん来てくれるとでも思ってんのかいな*3。
- まあどうせこの記事は具体性に乏しいので、これ以上進展ないと思うけど。なのになんでこんな長文書いちゃったんだろう。
ちなみにパブコメ募集中。
http://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000092873.html
「岡崎地域活性化ビジョン(案)中間まとめ」に対する市民意見の募集について
募集期間:平成23年1月12日(水曜日)から平成23年2月10日(木曜日)まで(必着)