グローバル・ピース・コンサート in OSAKA'11

この日は、あまり愉快でない集まりに参加するために、速攻で仕事を切り上げるべく快調に飛ばしていて、午後に差し掛かったところでした。その情報を発見してしまったのは。私の一桁しかない「もう一度聴きたい人リスト」に入っていて、この半年というもの熱望していた並河さんの名前をたまたま見つけてしまったのです。そして、その情報とは、よりによって当日の夜の公演で、仕事の後に行けなくもないロケーションである大阪のいずみホールだったのでした。

そもそも元々の用事というのは、実は問題視している行政の計画の説明会でして、行けば何を見て聞くことになるかは、ほぼ予想出来るわけです。幸い説明会が無くとも書面を読んで理解する程度の最低限の読解力もあり、そして、行けば質疑での態度の悪さだけが追加されるわけで、そんなものは計画に対する意見を書くときのノイズになること甚だしいわけです。大体他人のことを悪く思いながら何かをするのは苦痛で仕方ないし、そういう気分で意見をまとめると目が曇るってもんです。というわけで、頭のどこかで行かなくてもよい口実を探していたらしい私は、仕事を終えると大阪方面の列車に乗ってしまったのでありました。


話はやっとコンサートに辿り付き、さて30分遅れでやっと会場に着くと*1、丁度前半の最後の曲がはじまってしまったところだそうで、ロビーでTVモニターを見ることにします。しかしこれ、結果的に、私にとってはロビーにしておいて良かったプログラムでした。このグローバル・ピース・コンサートというのは原爆投下の日に毎年やってる反核運動の一環でして、前半に原爆投下をテーマにした合唱曲(世界初演)、後半がオペラ・ガラという構成だったのですが、到着したときに丁度やっていた「水ヲ下サイ」にガンガン来てものすごく苦しくなって、会場で聴いていたら奇声でも発していたんじゃないかと思いました。あの、念のため言っときますが、これは演奏としては褒めております。ただ、私には、こういうものに直接向き合って平静にしていられる確信がないのです。

前半にやや放心しつつも*2、やっとお目当ての後半がはじまります。1階に座ったけど、やっぱ1階の音ってあんま好きじゃない。ついでメモですが、いずみホール2階は正面のないサイドだけのホールでして、これも変わってると思います。別に1階の後方が2階相当の高さに達しているわけでもないのに、2階正面を作っていないんですね。

ところで話はいきなり変わりますが、私、日本人オペラ歌手って好きなんですよ。その理由はたぶん私がデンマークオペラが好きな理由と共通しているんですが、オペラは輸入ものから入って、最初の頃はそればっか聴いてて、ずいぶん後になって、なんだ、私にとってはこっちの方がいいじゃないかと気付いたという経緯があります。でもこんなガラコンみたいなプログラムだとどうかなあと思っていたのですが、というのはたまにNHKでやってるガラ放送みたいのであんま感心した記憶がないからなんですが、心配無用ですっかり楽しめました。

まずカルメンからハバネラと闘牛士の歌でありますが、なんかいきなり日本語歌唱であります。え?今日ってずっと日本語歌唱?と思ったら、この後は原語歌唱でありました。しかも衣装がいきなり、赤に黒で、そのものであります。後から思い返すに、日本語上演のカルメンを最近どっかで上演してて、その衣装をそのまま使ってるんでしょうね。そういう話はともかく、カルメンのドスの効かせ方がなにか和風で、なかなか迫力かつ個性のあるカルメンだなあと思いました。ある意味「民族色の豊かな南方風」の和風解釈で、ハマっています。そして、闘牛士が、うーん、どうも見たことも聞いたこともある顔・声です。そして、やはり、なにか和風です。こちらの方がより和風というか、なにか時代劇に出てきそうなお顔、かつ、声・歌い方も時代劇を連想させます。ヤクザ映画もいけそうです。私の趣味的にはもっと音に芯のある方がいいわけですが、それはそれとして、個性があって面白く聞きました。

いよいよお目当ての並河さん登場で、マダム・バタフライの「ある晴れた日に」です。この方は、ものすごく分かりやすい美声というタイプではたぶんないんですが、ある程度以上オペラを聴き込んだ人だけが気にするようなポイントがしっかりしてて、すごく音の輪郭がしっかりしています。そして、やはりテレパシーの起こる人です。どんな声を出してどんな風に歌ってたか全然分かんないんですよ。でも、なにか「終わった後に胸に灯が点いたようになるもの」がスコーンと届く。このスコーンというのも並河さんの個性でしょうね。以前びわ湖ホールで聴いたときは声が真っ直ぐ飛んできて、音としての特性がそうなのかなと思ったんですが、本日はホールや座席の関係でしょうか、音という意味ではそうはなっていなくて、でもやっぱりスコーンと届いた印象がありました。正直アリアだけで入れるかなあと思っていたのですが、無用な心配でありました。これを聞けただけで本日来た甲斐がありました。

前半の合唱も担当した大学生による合唱団によるカヴァレア・ルスカティーナの合唱曲、間奏曲を挟んで、再び並河さん登場でトスカ「歌に生き恋に生き」です。バタフライでは臙脂の無地の振袖だったわけですが、今度は光沢のあるピンクベージュの若干トレーンを引いたノンストラップのドレスで登場でして、先日のアイーダではお顔がアイーダ塗りだったのでよく分からなかったのですが、童顔にものすごいダイナマイト・バディの持ち主です。歌は、こちらの方が距離を持って聴けたかなあという感じで*3、しかし細部まで私が聴いて気になるようなところがないです*4。これも貴重です。歌い出しの音の入れ方とか、いいですねえ。

で、そこから椿姫「プロヴァンスの海と陸」でまたさっきのバリトンの人が出てきて歌いだした瞬間に「あっ!エリヤだ!」、オペラ愛好家暦の浅い私としては、あまりにも初期の頃で忘れていたのに、ここで役名までドンピシャで出てきたのには我ながら吃驚です。で、お顔を見てるとどうしても時代劇を連想して仕方ないので目をつぶって聴くと・・・ダメです、益々時代劇で、ちょんまげ結った大岡越前が「那智勝浦の海と陸*5」を歌ってるのかと思ってしまいました。しかし個性はバッチリです。

最後はまた並河さんが登場してみんなで楽しく「乾杯の歌」でした。こういう形で聴くと、声の輪郭がしっかりしてるのがよく分かるなーと。アンコールで、会場と一緒に「ふるさと」を歌って終わりました。

本日のオケは関西の8楽団とフリーの方々、仙台フィルからのゲストという構成になっておりまして、会場内の募金バケツの義捐金仙台フィルのお二人に渡されました。


総括としては、やっぱり行って良かったし、次回への期待がさらに上がってしまいました。次は9月に、みつなかオペラ「ラ・ファヴォリータ」で聴ける予定です。しかし予定を見つけるのが難しいので*6、なにかご存知の方がいたら教えてください。

グローバル・ピース・コンサート in OSAKA '11
2011年8月9日(火)19時〜(長崎原爆投下の日) いずみホール
出演: 牧村邦彦(指揮)、長原幸太(Vn)、並河寿美(Sop)、田中友輝子(Alt)、松本薫平(Ten) 、田中勉(Bas)、グローバル・ピース・コンサートオーケストラ、JCDAユース合唱団 他
曲目:
バッハ:パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004 より「シャコンヌ
林 光:原爆小景より 1.水ヲ下サイ 2.永遠のみどり
五大オペラ・ガラ
カルメン前奏曲/ハバネラ/闘牛士の歌
蝶々夫人」 ある晴れた日に
「カヴァレリア・ルスティカーナ」 開幕の合唱「オレンジは香り」/間奏曲
「トスカ」 恋に生き歌に生き/星は光りぬ
「椿姫」 プロヴァンスの海と陸/乾杯の歌
問合せ: 音楽ユニオン関西 06−6362−3128

*1:もともと京都を出た時点で間に合わないこと確定だったけど、さらに、一年前に行ったときの記憶で行けるだろうと思っていたら、駅名の記憶が怪しくて一駅行き過ぎて戻るという事件が。京阪はどうも分からん。

*2:本当にロビーでよかった。

*3:本当に、さっきは直接来過ぎて「歌としては」全然覚えてないのですから。

*4:私が気になるところですから、大方のオペラファンとはずれます。他の人みたいに、高音で待ち構えていて、そこがどんだけ出ているかとか、イタリア語の発音とか、そういう方面のチェックは全く出来ませんから。

*5:こんな題名の歌があるわけではありませんが、なんとなく。画数の多い南国だからかな。

*6:今日の情報も当日偶然に全く音楽関係ないルートから見つけました。