ロミオとジュリエット@サンクトペテルブルク・アカデミー・バレエ

本日は、ちゃんとした全幕のバレエ公演としては二回目の体験に行ってきました。オペラの一部としてはちょいちょい観る機会があるので全然そんな気がしないのですが、まだ2回目だったんですね。

会場は前回のボエームで好印象だった京都造形大の敷地内にある春秋座です。実は今回のチケット確保したのは、あの会場でもう一度音楽を聴きたいという動機が強く、そのときの座席の響きも気に入ったので、また前回と似たような座席を確保していたのです。ところがバレエって、録音でやるんですねえ。DKTは必ず生演奏だから、すっかり頭から抜け落ちてました。そういえば、いつぞやの京響のバレエ特集で録音が多いと聞いたことがあったのに、迂闊でした。そして、2階サイドの舞台寄りに陣取ってしまって、ここは舞台を観るには近くて良いのですが、プロセニウムの上の空間に埋め込まれて設置されたスピーカーのひとつが頭のごく近くに位置することになり、ずっとこの音に悩まされる展開になってしまいました。なかなかうまく行かないもんです。


とはいえバレエそのものと音楽は面白く、チラシには記載なかったので全く知らずに行ったのですが、音楽は大好きなプロコフィエフだったんですね。この曲そのものは初めてだったものの展開などは馴染み深く、部分的に知っている旋律もあり、ロシアのバレエ団でプロコフィエフを観るという体験も出来て得した気分でした。民族衣装風の男女の群舞など、このまま春の祭典に突入するんじゃなかろうかと錯覚しそうなシーンもありましたしね。プロコフィエフのバレエ作品をまた観てみたいです。

舞台セットは簡素ながら効果的に使われており、セットらしいセットといえば、マッチ棒のような火を着けたばかりのお線香のような先が光る棒と、人間がハムスターになった大きさの滑車、それに背景にあるブランコ、あとは布くらいです。この滑車に主役二人が入ってまさにハムスター状態でぐるぐるする(ただし滑車は進むので見た目は滑稽ではない)ことで家に囚われの身である二人を表現するしたりします。私はここで出てくる黒子に妙にハマってしまって、ですねえ。ロシア人だからか、妙にデカいんですよ。妙にデカい黒子が背を丸めて滑車をぐるぐるしながら歩いてるのがおかしくて溜まりません。ってまたパフォーマンスと関係ないことを書いてるな。


これは斬新な演出なのだそうで、良く知られたロミオとジュリエットの世界に女王マーブという存在が加わります。もっとも私は、この役がこの演出に特有の存在なのか、バレエ版はそういうもんなのか分かりません。マーブは原作の僧ロレンス(オペラだとローラン神父)の役割も担いつつ、それ以外の運命的な出来事の場にも居合わせ、これから起こる出来事を導いたり、予言して見せたりします。なんらかの意思を持った存在というよりは運命的な出来事を可視化しより印象付けるための存在という印象でした。

ダンサーはみな容姿・所作含めてイメージぴったりですね。ってそんなの当たり前なのかもしれないけどオペラ慣れしてるとそれが貴重なんだもの。ジュリエットは華奢で可憐だし、マキューシオはやんちゃっぽく、他の役も、体格差など含めてぴったりですねえ。ってバレエは見た目で語るしかないから見た目のそれらしさは重要なのか。技術的にも素晴らしかったと思うし、主役級は主役を踊るだけあるという感じでした。って全幕2回目の素人が何を言ってるんだって感じですが、芸術と素人の関係って、素晴らしさは経験を経ないと分からないけどダメなところには敏感なのが素人であるというのが私の持論でありまして。

そんな感じで良かったのですが、今日の公演何が一番印象に残ったかというと、実は乳母役の人だったりします。この作品のユーモア担当って位置付けで、男性ダンサーが殆ど着ぐるみ状態でやる役なのですが、なんかこの人すごくて、ジュリエットと乳母の日常(?)を描いたシーンがあるのですが、見てると、なんかゾクゾクするんです。ジュリエットが乳母とじゃれてるだけなんですが、他のキャラクターとだと様式感があって「そういうシーンだからね」って感じなのですが、この乳母のシーンだけやたら生々しくて艶かしいの。様式じゃなくて感情があるの。私は、この乳母が魔法でこういう姿に変えられてて、ひと悶着あって魔法が解けて王子が現れてメデタシメデタシという物語のワンシーンを観てるのかと一瞬思ってしまった。というか、そういう物語が見たいと思ってしまった。

私は元々倒錯感にはよく反応するし、文句の付けようがない美男美女のうっとりシーンはどうでもいい人間なので、バレエが向いてるわけはないのだが、それでも一瞬目覚めてしまいました。こういうことってあるんですね。また例のごとく邪道なハマり方だと思いますが。

そんでも結構ハマり込んで観てて、最後に二人が入れ違いに死んで、ロミオが力の抜けたジュリエットの体とコミュニケーションをとろうとするところなどは、すごくよく伝わってきたなあ。バレエという様式でこういうシーンをどう表現するのかという観点でも面白かった。んで、ラストはホロっと来ました。バレエ観て泣くってイメージは全くなかったけど、あるんだなあ・・・と思って帰りました。

しかしバレエのレポって、オペラより断然難しいね。私は言葉に特化してるからなあ。

ロシア国立サンクトペテルブルク・アカデミー・バレエ
ロミオとジュリエット」全2幕
日時:2011年10月22日(土) 14:00開演 (13:30開場)
会場:京都芸術劇場 春秋座
音楽:S. プロコフィエフ
演出:Y. ペトゥホフ
ロミオ:アレクサンドル・ピャトフスキー
ジュリエット:アンナ・ボロドゥーリナ
マーブ女王:ユーリア・イリナ
ティボルト:マキシム・トカチェンコ
マキューシオ:アレキサンドル・アバトゥーロフ
ベンヴォーリオ:セルゲイ・フェドーコフ
パリス:ヤン・ナム
ジュリエットの乳母:イリア・オシポフ