東住吉音楽祭2011

今日は珍しいイベントに行って来ました。まず会場がすごい。区役所の建物の中の音楽用ですらない講堂のような場所にパイプ椅子を並べて500席程の座席を作った即席ホールです。区役所の建物自体がかなーり年季もので、これまで市民オペラなどで手作り公演を結構体験してる私でも、ここまでの庶民的な会場は初めてです。思わず、中学校の情操教育で地元出身の声楽家の公演を体育座りして聴いた経験を思い出してしまいました。

広報も見かけなかったので一体どんな人が来ているのだろうと思ったのですが、会場はいっぱいで、どうやら地元の人らしい雰囲気です。中高生からかなりご年配の方まで、自分の地元ですら滅多に顔を合わせることのない地域住民ご一行様と、なぜか東住吉で席を同じゅうする体験に恵まれました。かなり新鮮です。

東住吉音楽祭は今回で18回目でオペラの企画ははじめてとのこと。東住吉市は日本の有名バリトン島村武男氏の出身地で、氏を看板にしたリゴレットのハイライト版がメインで、その前に5人の歌手によるガラコンサートがついています。ということは、あの地域住民ご一行様は、この音楽祭の毎年のファンと商店街の置きチラシを見て足を運んできた人々といったところでしょうか。

そんなわけで今日は会場の反応を聞くのが実に興味深い体験でした。会場の大きさの効果もあってか前半のガラで実によく音が届く感じで、最弱音から細やかな箇所まで実によく伝わり、また聴衆が「すごいねえ」と素直に反応するので、会場との相乗効果で遣り甲斐のある公演だったのではないでしょうか。この親密感はいいですね。「なに言ってんのか分かんないから何がなんだか分かんないけど、なんだかすごい」という素直過ぎる感想も聴こえてきます。私にとっても、前半がここまで聴けたのは嬉しい予想外でした。ガラは一人の歌手が2曲ずつ歌うのですが、曲目のひとつはそこそこ有名なオペラのアリア、もうひとつはかなり趣味に走った歌曲等という構成で、その対比も面白いと思いました。


さて後半、ハイライト版のリゴレットです。ピアノ伴奏、字幕は無しで、直前にアナウンサーがこれから起こることを解説するという形式で行われます。ピアノがはじまって舞台に集中して歌手の登場を待っていると、リゴレットの島村さんが客席側から現れ、客席内の通路を縫うように歩きながら歌うので、極近距離で歌声を浴びることになり、いきなり度肝を抜かれる展開になりました。この客席うろつき歌唱は登場の度にあり、実にサービス満点な企画だなあと思いました。この方、決して美声というのではないのですが、リゴレットをやるために生まれてきたような声と外観です。また舞台の上で歌っても、前述したような会場なものでよく届き、今日はとにかく声を浴びたなあ、という印象が強かったです。ちなみに、この手作りオペラで衣装もたぶん歌手の私物(?)みたいな状況の中で、二幕では一人本格的な道化の紛争で登場してくださって、これもウケてました。終了したプロダクションの衣装でしょうか。

ジルダ役の吉原さんも期待以上でした。透明感のあるジルダで、少女マンガから抜け出してきたような存在で満足でした。

実は私がこの公演に足を運んだのは、マントヴァ公爵を竹田さんが歌うと聞きつけたからなのですが、ひらひらドレスシャツで登場して隠れているところは、すいません、一人でくすくす笑ってしまいました。だって私の中ではいまだに不器用なネモリーノとジークフリートを足して二で割った人物像だったもので。ところが第一声を聞いて肝をつぶしまして。本日、喉が不調だったのです*1。だから発声という点からは、声がうまく張れずに、なんだか喉声で歌ってるみたいな印象になってしまって残念でした。いつもだったら、いかにもオペラティックテノールにならずに*2、少年のようで生身っぽくない稀少なオリジナリティのある声が聴ける人なんですが。今日のは竹田さんのマントヴァ公を聴ける機会がこんな形になってしまったということで私にとっても残念でした。でも、そんな日でも、喉にあまり負担がかからない範囲を歌ってるときとか弱音とか抜き方とか、やっぱり好みなんですよねえ。あと二重唱の支え方がうまい。そういうイメージは全く無かったので新鮮でした。そうそう、終幕では舞台ではなく会場の後ろから歌ったのですが、そのときの方が楽な範囲で歌ってたせいかもしれないし、遠くで聴いた方が良く聴こえる種類の出来だったのかもしれないのですが、こっちの方が声に無理が無くよい感じでした。

終演後は島村さんが出口で人々に囲まれてたりして、終始なごやかに和気藹々といかにも故郷に錦な公演らしい風景が見られ、会場を後にする人々が「良かったね」「オペラまた見たいね」って言い合うのが耳に入り、気分が良かったです。地元民と関係者ばかりの今日の空間に紛れ込めて良かったです。今日この公演を見聞きした中高生の中には、きっとオペラを志す若者も出てくるのでしょうね。

2011年10月23日(日)15:00開演(14:30開場)
東住吉区民ホール
第18回 東住吉音楽祭
東日本大震災チャリティーコンサート
島村武男のRigolettoの世界(ハイライト公演)
入場料3,000円(高校生・中学生1,000円 小学生以下無料)
第1部 コンサート
西浦まゆみ、保坂正児、南敦子、宮崎恵美子、西村友里(ピアノ)
第2部 リゴレット(ハイライト公演)
リゴレット:島村武男(東京二期会)
ジルダ:吉原圭子(東京二期会)
マントヴァ公爵:竹田昌弘(関西二期会
ピアノ:沼田宏行

*1:って、勝手に決め付けるなって感じだが、今日のは割と分かりやすく身体的な不調だったと思います。

*2:それは誉めてんのかって感じだが、私にとっては褒め文脈です。