マンチェスターのサンタ(1)

クリスマスは心温まる話でもしないとね。クリスマスといえばサンタ。というわけでサンタの話をしよう、うん。あ、わたしのサンタはこの人ですから。この写真撮ったときから一年経ったんだなあ。

というわけで前回サンタに会ったときの話から書き残しを。半年も前のことですが、マンチェスターに行って、コンサート形式のワルキューレを聴いたときのことで、パフォーマンスのレポと、一日目の夜のことは既に書いてて、二日目のおっかけ日記だけが残っていたのでした。ちなみにこれまでのレポはこちら。

さて、1日目の夜、サンタにスリスリして、サンタは「ハッハッハッ」って笑ってて(めちゃサンタだ、絶対サンタだ)、この日はすっごいコンディション最悪ではじまったんだけど、コンサートが終わってアナセン達と話してたらめちゃ幸せで、次の日はものすごくぐっすり眠って、特に目覚ましもかけずにおいたら、時差ボケでずっと眠りが浅かったのと前の晩寝てなかったのもあって、なんと12時間寝て目が覚めました。起きた瞬間すごい爽快で、大体私の目覚めというのは寝床でうつらうつらしながら、これからやらなきゃいけないこと、前の日やり残したこと、失敗したこと、これから何かまずいことになりそうなことはないか思い出すという反省会タイプの目覚めで、大体反省のネタには事欠かないから、いつも焦った嫌な気分で目覚めるもんなんですが*1 *2、この日は、生まれてから滅多にないような、見事に幸せな気分で目覚めました。後でこのことをアナセンに伝えようと思って、なんて言ったらいいんだろうと思って、「あ!幸福のヴェールだ!」って思ったんですよ。

そいで遅い朝兼昼ごはんを食べて、昨日は果たせなかったお花を買って行こうと思いました。ホテルで花屋の場所を聞いて、とことこ歩いて、丁度あった花束からアナセンのイメージの太陽みたいなオレンジの花束を選んで、橋を挟んでホテルのお隣にあるブリッジウォーターホールに行こうとしたところ、傘もなぎ倒されるような、ものすごい土砂降りの豪雨がいきなりやってきて、どうしても数十メートルが進めなくてホテルの軒先で足止めを食らってしまいました。これはすごい。日本なら雨合羽着たレポーターが台風現地レポートをやってそうな天気です。ところがマンチェスター人、全く動じずに、その辺で適当に雨宿りしています。ははあ、これが昨日おじさんの言ってた雨なのかーと納得いたしました。これはたしかに、観光客に注意してって言いたくもなるわ。幸いにも、というか元々そういうもんなんでしょうけど、雨は十分くらいで止み、やっと橋を渡れてホールの受付に辿り着くことが出来ました。受付経由でバックステージの入口に行くと、普通に花束持って楽屋まで行ってもよさそうな雰囲気でしたが、入れてもらってリハ見学したいなーと思いつつ、そこは私も日本人なので「部屋に届けてもらえばいいから」と言って帰ってきました。

ところでここで豆知識。日本では絶対ありえないけど、海外では、むしろ花束なんて持っていくと「挨拶して行かなくていいのか」とスタッフに引き止められる勢いなので、アーティストと個人的に親しくなりたい人は、花束持って開演前の余裕のある時間にホールに行くといいと思います。終演後とか幕間でもいいんだけど、短い間で邪魔になったりタイミングが悪いことがあるので、開演の数時間前が無難だと思います。


そゆわけで花束置いてホテルに戻って普通に準備して、昨日で寒さにはつくづく懲りたので用意してきたワンピースの下にスパッツと薄手のタートルネックを着込んで、2日目は昼の公演だったのでまだ明るい時間にもう一度橋を渡ってホールに向かいます。ここでひとつ思いついたことが。一日目は1階前方をとっていたのですが、わたしは上階サイド好きなので*3、二日目はサイド席にしたのですが、実は両サイドのチケット確保してて、どっちサイドに座るか本人に聞いて決めようと思ってて、そのヒント(ジークムントの立ち位置)を昨夜聞くのを忘れていたのです。直前だから3コールくらいして出なかったらそれまでにしようと思いつつアナセンにコールして、そしたらあっさり繋がって立ち位置教えてもらって、花束のお礼と今日は指揮者夫妻主催のディナーがあるから夜は一緒出来ないけどその前にバックステージに挨拶においでよ、てな会話をしたので*4、はじまる前から結構幸せでした。


2幕終わってインターミッション入って、そしたらアナウンスが3幕まで1時間20分もあると言うではありませんか。今度はアナセンの出番終わってるから行ってもいいか、終演後にちらっと挨拶するよりこの休憩の方が長い間一緒にいられるしと即断してバックステージ行って、受付でアナセンの部屋に電話してもらって、今度こそ楽屋まで行ったのでした。わーい♪そんでまたいっぱいサンキューってスリスリした。生きたぬいぐるみだから。今回は本人に「ぬいぐるみの熊みたーい」って言っちゃってたよ。

楽屋を出たら、丁度フンディングのベイリーやブリュンヒルデのブロックと一緒になり、しばしばご歓談タイム。あとワルキューレの娘達もいたっぽいが、ステージで見る前だったので、私には誰が誰かも分からず。フンディングはディナーは失礼して帰るところで、ブリュンヒルデは1時間たっぷり寝る気らしい。この後もオケのメンバーのデン人に引き止められたりして、何故かバックステージエリアを超のろのろと進むことに。普段出来ない体験だったから面白かった。

最初はスタッフ用のカフェに行こうって奥様のイングリッドと3人で移動して、そしたらアルコールがないことが判明して、そんなら表のカフェに行こうってことになって、バックステージエリアは全然進めなかったのに表に出たらスムーズで、アナセンの周りに人だかりが起きることもなく目が合った人が「サンキュー」って言いに来るくらいで、あっさりホールの2階のテーブルに落ち着くことが出来ました。みんな大人だー。アナセンが変な顔をして「ボクは変わらないといけないんだ、騒ぎになっちゃうからね」って言ってて、「変わってない変わってない」ってツッコんだりしてた。3人で撮った写真。よく見ると、アナセンの眼鏡がすごい。


席について最初に「今回のパフォーマンスは詩みたい、詩の朗読みたいだった」って言って、アナセンがすごく真面目な顔で「嬉しいよ」って返して、最初意味が分からなくてポカンとしてて、だって所謂返礼としてはものすごく真面目な顔だったから。そしたら「すごく嬉しいよ、そう言ってくれた人は初めてで、ボクがずっと大事にしてきたことだからね」って。でも私はあなたのオペラの公演のレビューで、少なからぬ人がリートみたいって言ってるのを知ってる。だからみんな感じてると思う。

実は花束に添えたカードに、咄嗟に書く羽目になったので洒落た文句なんて用意してなかったのでシンプルに"For your art and poet"って書いて、それは昨日1幕を観た素直な感想でそれ以上の意味は無かったんだけど、書きながらタンホイザーと思われるかなあって思って、そしたらやっぱり、上の話の続きに「タンホイザーをどう思った?」って質問が来た。「最後が弱いと思う」って私もいきなりそれかよって返答をして、でもそういう種類の答えを待ってるような質問だったから、そいで「1幕のヴィーヌスとタンホイザーの関係はすごく共感した」「ヴィーヌスとタンホイザーはよく分かったし共感したけど、エリザベートとのそれが弱いと思った」「現代社会で、かつての性や貞節に相当するタブーを、アートへの衝動と社会生活の両立と読み替えたのはとても的確だと思った」って話をした。このタンホイザーの再演が来シーズンあるって聞いて、来シーズンのDKTのワーグナーは、アナセンでタンホイザーの再演と、Johnny van Halで今シーズンのパルジファルの再演。ワーグナーイヤーなので2演目あるけど、再演オンリーなのはDKTとしては寂しい。アナセンはタンホイザーの再演をもっと練り上げて目玉にしたいようだ。私としては、このタンホイザーが観れるのはすごく嬉しい!なんせプレミエのとき観れなくもない状況だったのに行かなくてものすごく後悔したプロダクションだったから。それにこれ、アナセンの衣装(と暗い色に染められたヒゲ付き姿)がすごく可愛いしね。ホルテン演出もいつ回ってくるか分からない今となっては、再演でもホルテン演出のワーグナーが観れるのは嬉しい!プレミエに行ったら会えるかな。タンホイザーの件は、帰ったらちゃんと整理してメールすることになった*5。こんな事情があるので、タンホイザーのDVD観た方、どう思ったか教えてくださいね。今から買って観てもOKなので!年末年始の休みに如何ですか。下のリンクからどうぞ。

長くなったので、この続きは明日。

*1:なんでこうなるかっつーと、寝ながら考えてるんだろうなあ。あそこの設計は17mmで良かったろうかとか、あの隙間は何か悪影響をもたらさないだろうか、みたいなことを。

*2:損な性分だけど、この性質のせいで数々のピンチを切り抜けて成果にしてきたから、悪いことばかりじゃないということで。何故か、うまいアイディアも、見落としも、寝てる間に思いつくんだよね。

*3:上階の音が好きだが正面が好きじゃない。

*4:前にコペンで楽屋に寄らないで帰ってしまった日があったので、それ以来アナセンは必ず寄ってと言うようになった。きっと誰かに、日本人は誘わないと遠慮して来ないと聞いたのだと思う。

*5:のに未だに書いて送ってなかったりする駄目々々ファンである。今年は超忙しかった。