お薦め公演/アドリアーナ・ルクヴルール@関西二期会

この公演、良かったですよ。明日もあるので、これ読んで地理的に行ける方は足を運んでみてね。当日券あると思うから。ウェブで見るに、3千円のC席から残ってそうなので、オペラ初体験の人もお気軽にどうぞ。

http://kansai-nikikai.com/?p=795
『アドリアーナ・ルクヴルール』 Adriana Lecouvreur
作曲 F.チレア 台本 A.コラウッティ
2012年5月5日(土祝) 吹田メイシアター

指揮:ダニエーレ・アジマン  演出:井原広樹
合唱指揮: 岩城拓也
振付指導:大力小百合(法村友井バレエ団)
舞台美術: アントニオ・マストロマッテイ
衣裳: 松田 優
照明: 原中治美
舞台監督: 青木一雄公演監督: 米田哲二

出演者
アドリアーナ・ルクヴルール   泉 貴子
ブイヨン侯爵 片桐直樹
ブイヨン公爵夫人 福原寿美枝
マウリツィオ 小餅谷哲男
ミショネ 萩原寛
シャズイユ僧院長 越野保宏
キノー 黒田まさき
ポワソン 藤井零治
ジュヴノ嬢 森井美貴
ダンジュヴィル嬢 廣?運人??
合唱 関西二期会合唱団
管弦楽 大阪交響楽団
バレエ 法村友井バレエ団

まず作品が良かった。ちと最後のオチが強引かつ唐突な気もしたけど、ストーリーも音楽も良くて、ぐいぐい引き込まれたよ。この作曲家の作品を、もっと聴いてみたくなりました。また音楽が、今日の演奏も良かったのだろうけど、なんというか、寸止めな感じで、ぐーっと盛り上がって、しかしそこで解放しきらずにさーっと波が引くように引いてしまう。そこが、とっても好ましい。音楽における、寸止めとか焦らしとか、そういった要素を好ましいと思う方は、是非聴きに行くことをお薦めします。この状態は結構快挙だと思う。

というわけで今日は、演奏がとても良かったなあ。大阪交響楽団は2回目ですが、前も思ったけど、ここって、鋭かったり輝かしかったりはしないのね。でも、その、ある種の鈍さが、角がない感じが、とっても好ましい。そう思える演奏でありました。それにしても、あの寸止め感は、指揮者の個性も強いのだろうか。それを確かめたくて、この作品の録音を探してしまうことでありましょう。

今日は会場も良くてねえ。吹田メイシアターは立地も良くて阪急の駅からすぐだし、敷地内は緑がしっかり根付いていて、大ホールのホワイエからはどの角度からもこの緑がいっぱい見えて、とてもいい感じ。北摂の風景の伸びやかな感じが、そのままホールになってる印象。開館27年目だそうで決して新しくはないけど、バブル以後に作られた公共建築ってコストダウンの影響だと思われるスーパーみたいな印象がどうしてもしちゃうんだけど*1、それ以前の建築だから余裕を感じさせるし、敷地計画もゆったりしてる。豪華さとか派手な話題作りとかには無縁そうな建築物ですが、中にいると心地良い。

しかも1400席弱というコンパクトなホールの大きさゆえか、とても音響が良い。ほどよく良い。一番遠いエリアで聴いても、それなりに舞台と親密な印象がある。そこに加えて主張しない演奏がとても良い。正直、これまでアルカイックで聴いたときは、あそこの生々しい音響と突き刺さるような演奏に、正直オペラのオケとしてはどうなんだろうと思っていたのですが、やっぱりこうあるべきですよ。まあオケも違うし、そういうところばっかりの回を聴いてたってのもあるでしょうが。

また客席の構造が、私好みなんですよ。こういうサイド席の作り方は理想ですねえ。何がいいって、そこそこ高さがあって*2、しかも舞台に近くて視界が極端にサイド寄りでない席がそれなりの数存在するのが理想です。この点アルカイック型配置(またはバスティーユ・コピー達)は2階にすると一律舞台から遠いのが不満ポイントです。それでもよくある奥行きが長い配置よりは近いのでしょうが。


今日はソリストのみなさんは、みんなそれなりにいい。でも突出した「これは!」って人は私的には出なかったかな。でも全体のレベルとしてはとても良かったと思う。公演全体としては凸凹状態よりよほどいいと思う。主役級だけちっとメモっておくと、タイトルロールの泉さんは、気合が入ったシーンではなかなかすごいものを聴かせてくれる、声もセンスもいいけど、その他のシーンが流れがち(逆にそこも押えたらものすごくなる)。公爵夫妻とミショネは、まあ堅いかな。マウリツィオはかなり頑張ってたけど、よくあるプリモテノール風に収まってたのが私的には物足らず(注文が贅沢過ぎ)*3。でも、みなさん良かったと思います。

あとセットが良かったなあ。半分ミラーになってて半分透けて見える板がうまく使ってあって、舞台シーンなどではこの透けて見える向こうに舞台上の人物を立たせて、手前の客席を向いて歌ってる歌手と、そのミラーに移った後姿が同時に見えてて、その後ろ姿が舞台に向かって語りかけているように見せるのね。面白かったです。あとミラーに指揮者がずっと写ってて、それも舞台上の舞台の一部みたいな感じで効果的だった。正直セットはチープだったろうし、舞台機構もその半ミラーの板が水平移動するくらいですが、カラーセンスも良かったし、終始暗めの舞台の質感が、密度の薄さを全然感じさせなかった。

この公演、お薦めです。明日もありますので間に合う時間に読んだ方は是非観に行ってください。

*1:特にうちの地元の最近の建築はひどい。

*2:私は舞台は見上げるよりも若干角度を付けて見下ろす構図が好きです。

*3:追記。2日目を聴いてこの評価は大いに改めました。「こういう種類の不満」しか出ないということは、大変素晴らしい出来だったと思います。