パルジファル@DKT2012

遠征レポその2です。旅先で書いた文章そのままですが、今読み返したら、結構キツいこと書いてました。今はこういう気分でもないですが、手を入れようとするといつまでも公開出来なくなるので、これも素直な感想ということで、そのまま貼っちゃいます。

*

これが今回の旅行のお目当てでしたが、全く予想通りでした。もうちょっと(よい意味で)裏切って欲しかったんだけどなあ。

まず総括は、KWがこの劇場のチーフ降りてくれて本当に良かった。この劇場でこの演出は勿体無さ過ぎるわ(歌手のスキルが)。一言で言って、ドイツかイギリスの舞台みたい。これだったら、ここがDKTである必要無いし、この劇場の良さが全く活きない演出だった。ホルテンや他のドメスなプロダクション並にかゆいところに手が届くオーダーメイドな感じはまあ無理として、もうちょっと「らしさ」が出るかと思ったのだけど。悪い意味でグローバルスタンダードな演出だった。


ヘルムート・ヘンヒェンの指揮にも似たようなことが言えて、ある種の輝かしさはあるけどマイペースで、この劇場らしさが希薄だった。ま、これも 発表見たときから予想の範囲内だったので仕方無い。この演目、大幅予算削減後の今シーズンとしては一番力の入った演目で、国際知名度のある指揮者・演出家を招聘して、ちょい役のソリストまで他の演目の主役級を配した目玉演目の位置付けだったんだけど、蓋を開けてみたら、グローバルスタンダードが悪い方向に作用した例って出来になってしまった。


そう言って散々書いてるDKTらしさって何よ、ということですが、まず音楽面では、歌手とオケの間に寄り添うような親密さがあって、二匹の蝶々が戯れるような、付かず離れずしながら遊ぶようなニュアンスがあること。それに「抜き」の絶妙さ。心地よく「外される」こと。ただま、こうやって書きながら自分でも思うのですが、こういう方向性って好き嫌いが分かれるというか、ノれるとすごくハマるのですが、ノれないと奇妙なだけで何やってるのか分からないというか「もっと普通に演奏して欲しい」みたいな感想になっちゃうのかなあと。一般受けは難しいのかもですね。

演技面では、ソリストはもちろん、コーラスも一人残らず自律的に動けて、群衆シーンなんて棒立ちは一人もいないし、それらが一斉にダイナミックに、しかしリアルに細かい演技をしながら動いて作る舞台は、現実に目の前で起きているそういうワンシーンを見てるみたいで、ちょっとないくらいリアル。目立つところにスマートな北欧美人を配して作る舞台は、リアルなのにありえないくらい綺麗で映画的でもある。

そして前提となる人間観がシニカルじゃなくてすごくポジティブで、しかも可愛いらしい。目が合えば必ずにっこりしてくる人懐こいデン人が中に入ってる感じがする。

ただ、これも私はすごく好きですが、日本人のDKTの舞台の感想なんか聞く機会があると(DVDが出ているので機会は割とある)、情報量が多過ぎるというか「細か過ぎて伝わらない物真似」みたいな印象になるのかなあと、最近は思ってます。もっと集約して極端にして記号化したくらいが丁度よく伝わるみたい。それだと私にとっては間延びして見えちゃうのですが。あと日本人はシニカル好き過ぎ。読まなくてもいいところにシニカルな意図を読み過ぎ。この国ではシニカルであることが知的であるみたいなことになってるからなあ。私はそんなのは知性とは関係なくて、ただ意地が悪いだけだと思ってるわけですが。

*

話は元に戻って、一応演出の説明をすると、まずブロックで作った楕円の望遠鏡みたいなステージいっぱいの巨大なセットがある。DKTのOperaen(新劇場)はステージは大きく客席エリアは小さく迫っているので*1、ステージめいっぱいのセットは、それだけでちょっとした見もの。これが回転してあっち向いたりこっち向いたりして、全幕通して使われる。舞台機構も目一杯使ってる感じ。この楕円の望遠鏡は、目の錯覚を利用しているのか、ちょっと空間が狂って見えて、ぽっかり口を開けているときには、そんな筈はあるわけがないのだけど無限の奥行きを感じられて、出口のない迷路のよう。演出上の一番優れた点はこのセットでしょう。

一幕では最初はセットはあっち向いて閉じていて、狭い方の口だけ見えて、残りのスペースでグルネマンツが語ったり、クンドリがバルサム持って駆け込んできたり、アンフォルタスが担がれてきたりします。舞台手前中央のプロンプターボックスの上には後に聖杯が入っていると判明する木箱も置かれています。ちなみに病院設定で、グルネマンツはドクターらしく背広を着込んだうえに白衣で薬草を手に持って因縁を語り、小姓やら騎士やらはスタッフ風白衣です。小姓と騎士の演出上の区別はないっぽかった。第一の騎士のモルファイさん(コペハン・ミーメ)が似合っている。ステファン・ミリンのグルネマンツは表情といい、声の立派さといい、さすがでしたね。正直今回の舞台、いつものDKT舞台みたいに演出や演奏で生き生きとぐいぐい引っ張るというわけにはいなかったので、ずっと出ずっぱりのグルネマンツがミリンだったから救われたようなものです。

クンドリは、うーん、普通の割とカジュアルな、ちょっとテロっとした綿無地ワンピース(アジアン雑貨屋で売ってそう)に長い黒髪に額の部分が白いという出で立ち。ちょっとこれは、私は頂けませんでしたねー。元々黒髪の日本人にとっては、このヘアは、ちょっと老けた女性以外の何者でもなく、クンドリを歌ったRandi Steneさん(コペハン・ママ)は大変魅力的な素材なのに、こんな扮装では勿体無かった。

物語は進行する間に巨大望遠鏡はあっち向いたりこっち向いたり、グルネマンツが過去語りする場面ではスクリーンにそれらしい影絵が投影されたりと、大忙しです。いよいよパルジファルの登場シーンでは、望遠鏡がグルンと回転して中の布がぱーっと取り払われて、実物大より大きめのそこそこリアルな血を流した白鳥が現れるという仕掛け。白鳥の足元が水溜りになって傷ついた姿が映っていたりして、絵的には綺麗なシーンです。ちなみにこの白鳥クンはパンフレットの表紙になったりシンボル的な扱いです。白鳥クンや舞台写真を見たい人はこちら。
http://kglteater.dk/Alle_forestillinger/11_12/Opera/Parsifal.aspx *2


そいでパルジファルあらわる。かっかわゆい。「腹が出た」を通り越してボールに足が生えたような体型の爺ちゃんなのに、なんであんなにボーイッシュな声(と調子)なんだろう。ちなみにどんなときでもあの声というわけではなく、これがワーグナー用の声だったりするのが、なんともまた・・・。この一幕ではパジャマのうえに拘束衣*3を着てて、どう見ても病院の別の科から迷い込んだとしか見えないのですが、結局こやつは何者だったのか幕の最後まで何の説明も伏線もなく、インパクトを狙った絵は連発するがそれだけっていつものKWノリで舞台は続くのでした。そんで都合のよいことに、現れると早速グルネマンツ一味によって拘束衣の袖を縛られて、椅子に拘束されてしまうパルジファル(だから、何故都合よくそんなものを最初から着ているのだと小一時間・・・)。写真はさっきのURLの4段目の右から2列目あたりです。

「お菓子もらえるから、おじちゃんと一緒に来るかね?」「うん」というわけで、聖杯の元に向かうグルネマンツとパルジファル。この舞台転換の場面では望遠鏡がグルグル回って、何故かティトレル王@ビリエルさんのやつれた寝姿も回転寿司のように回ってきて、「ああ、ビリエルさん声出してー!」と思っても、ティトレル王は陰歌でしか歌わないのでした。残念。最初から最後まで陰歌オンリーではなく、姿見れただけでもヨシとするか。

と思ってるうちに望遠鏡が今度は口開けて迫って来て、ずんずん、ずんずん迫って来て、中には頭に包帯、その他にも様々な場所に傷ついた男達が数十人乗っています。ここの、非常に微妙な、傷ついた者達のナイーブさが伝わって来るような微妙なところからはじまって、近付くに伴い迫力を増して行く男声合唱はすごかった。今回の舞台全体で一番出来のよいところを挙げるとしたら、ここじゃないかと思う。

本日はこの辺で。続く。

Wagner: Parsifal
22nd and 26th March 2012, Det Kongelige Teater, Copenhagen
Iscenesættelse: Keith Warner
Scenografi: Es Devlin
Kostumedesign: Jorge Jara
Lysdesigner: Davy Cunningham
Koreografi: Karl Schreiner
Dramaturgi: Barry Millington
Musikalsk ledelse Hartmut Haenchen


Stig Fogh Andersen, Parsifal
Stephen Milling, Gurnemanz
John Lundgren, Amfortas
Randi Stene, Kundry
Harry Peeters, Klingsor
Sten Byriel, Titurel
Bengt-Ola Morgny, 1. gralsridder
Bo Anker Hansen, 2. gralsridder
Sine Bundgaard, 1. væbner/blomsterpige
Silja Schindler, 1. væbner/blomsterpige
Verena Gunz, 2. væbner/blomsterpige
Bo Kristian Jensen, 3. væbner
Gert Henning-Jensen, 4. væbner
Inger Dam-Jensen, blomsterpige
Anne Margrethe Dahl, blomsterpige
Djina Mai-Mai, blomsterpige
Hanne Fischer, blomsterpige/en stemme fra oven
Det Kongelige Operakor
Det Kongelige Kapel

*1:2〜3千席級の劇場のステージに千数百くらいの規模の客席エリアが合体した建物を想像してください。

*2:余談だけど、このページのソリストの写真、何故かアナセン一人だけ変わってる(5月現在)。他の人は全然変わってないのに。何故?そして「一体いつの写真よ?」と言われまくってきた(←しかし彼は未だに何故かああ写るのよ、写真撮ると。べっ別に、大昔の写真を引っ張り出してきたわけじゃないんだからねっ)アナセンもとうとうお爺ちゃんだー。今更だけど。本当に余談でした。

*3:昔の精神病院で着せられるアレ。って映画でしか知らんけど。