ファルスタッフ@ROH

なんて亀の歩みの鑑賞記なんでしょう!だってー。これ、あんま面白くなかったんだもの。そういうときは筆が鈍りますよね。すごいダメじゃないんだけど、何か物足りない。そういう鈍い不満というか。

なりよりも楽しみだったのがガッティの指揮だったんだけど、別に悪くは無いけど、ちゃんとストーリーを支えてるかもしれないけど、ガッティに期待してるのはこういうことじゃなーい!"サウンドの魔術師!これがあの同じ楽器なの?"という感覚。これですよ、これ。これまで2回ライブで聴いて、録音でも色々触れていますが、サウンドの魔術師を裏切ったことはないばかりか、昨年のチューリヒパルジファルなど、もはや二次創作と言ってもいい領域に突入していました(だから好き嫌いが別れるのだが、そもそも私は好き嫌いが別れるような存在が好きなので仕方無い)。あれを体験したいんですよ。なのに、普通だ。折角ガッティなのにー。

歌手も、あんま印象に残ってないんですよね。音響的に遠かったのもあるので歌手自身のせいじゃないかもしれないけど。タイトルロールのマエストリは、声質自体は、ちょっとソフトさが入るところが、気持ちいい成分を含む声だなあと思って聴いていました。が、この人、細部の変化はやるじゃんと思わせておいて、主役級に求めたい「幕全体に渡るような大きな変化」が出ないタイプなんですよー。あとナンネッタが結構良かった気がする。このオペラはフォード婦人が好きなのだが、なんだか思い出せないなあ。ちょっとドスが入ってたかも。過去に聞いたことあるのはイェニスくらいだけど、なんか印象がない。他の歌手は、本当に印象に残ってない。悪い意味での印象も残っていないので、手堅く務めていたんだと思います。私は悪いと絶対忘れないタイプなんで*1。そういう意味では目立った凸凹はなく粒揃いではあったのではなかろうかと。

ところであのふわふわのお腹は本当にすごいね。質感は、まるで羽ぶとんの続きみたい。つなぎのパジャマとか着て出てくるのでたっぷり堪能出来ました(?)。舞台のすぐ上のサイドにいたので結構近くてよく見えたし。


それで演出ですが、20世紀の前半くらいの、ちょっと古くてちょっと新しい時代に置き換えて、視覚的には見れるように作ってある。でも、ううーむ、やっぱ何か足りない。全編を貫くコメディらしさってもんが足りないし、一部キッチンの中身をぶちまけ過ぎてゴッタゴタになるところとか、ファルスタッフがずぶぬれになって馬小屋で管を巻いてるところとか、馬がトボケてるとかで笑いをとっていたけど、なんか点と点て感じで、全編に流れるコメディ味にならない。馬は最後の森のシーンでも登場するのだが、マエストリは舞台で馬を下りられないらしく一旦下がる展開になっていたので、おかげでこのシーンがぎこちなくなっていた。そこまでして馬を使わんでも。

最後にみんな赤を基調とした豪勢な衣装に着替えて出てきて、ファルスタッフまで着替えて出てきたところでは(ストーリー的にはこれはないだろう)、去年のサンドリオンのフィナーレを思い出して、ROHでは登場人物勢揃いで豪華なフィナーレってパターンが好まれるのかなあと思ったりした。


この公演に関してはこんなところで、今回の予習のために録音も聴いてるのでそっちにも共通の話になるんですが、私、ファルスタッフは録音も含めて納得出来ない!もっと、音楽的にも演劇的にもメリハリがあって、コメディになるところでガラッと崩れる(実は崩れるのではなく、ガラッというテンポを作曲家が作っている)ように、そこは大袈裟に変えるべきだと思うんです!その変化の波がテンポを作るような、視覚面でも音楽面でも、そうであるべきだと思うんですよ。そこを平坦にやるなら間延びしちゃう。つーか本当は可笑しいんだけど、それが通じないシーンに結果的になっちゃってる。でも、今回の公演だけじゃなくて過去の録音も含めてそうだったから、こういうもんってことになってるのかもしれないけど。

というわけで、ワグナーだけじゃなくヴェルディにも無いもの強請りが出てきた鑑賞体験になってしまいました。

Falstaff
Wednesday, May 30 7:30 PM
Director: Robert Carsen
Set design: Paul Steinberg
Costume design: Brigitte Reiffenstuel
Lighting design: Robert Carsen, Peter van Praet
Conductor: Daniele Gatti


Sir John Falstaff: Ambrogio Maestri
Alice Ford: Ana Maria Martinez
Ford: Dalibor Jenis
Meg Page: Kai Ruutel
Mistress Quickly: Marie-Nicole Lemieux
Nannetta: Amanda Forsythe
Fenton: Joel Prieto
Dr Caius: Carlo Bosi
Bardolfo: Alasdair Elliott
Pistola: Lukas Jakobski
Chorus: Royal Opera Chorus
Orchestra: Orchestra of the Royal Opera House

*1:これ、本人からしたら、忘れられないから苦しいんですよー。笑い事じゃなく。