トゥーランドット@河内長野

オペラ観たぞーって満足感のある公演でした。しかも随所が市民オペラらしく、市民オペラのまま充実していて、そうそうこういうのが観たいのよねー。

幕が開くと、なんと、コンサートモードでお馴染みの、反響板が設置されたそのままの舞台!舞台はミニマムなようで、ある種発想の転換というか、そういう面白い演出でした。

まずこの反射板を降ろした状態というのが音響的に効いていて、舞台からの音が客席に来る来る。コーラスはすごい迫力になっていました。本日のコーラスは市民コーラスのマイタウンオペラ合唱団。プロの専属コーラスのような種類の安定感はございませんが、何時でも何処でも同じようなものが良いわけじゃない。ここでは、これが良いのです。

また人数がすごく多くて、舞台狭しと黒山の人だかりが。合唱は基本直立したままなのですが、普段だったらこれは不満の元になるところですが、黒尽くめの格好で直立して、向きを変えるだけのミニマムな動きがこの何もない舞台の唯一の舞台装置として機能していて、匿名の民衆の「らしさ」を連想させて、このオペラの世界観の一旦を担っていました。一本とられました、こりゃ。

普通に考えたらあの面積の舞台にあれだけ人がいたら収拾がつかなくなるところです。舞台に適当な人数を選抜して残りは影歌となるところでしょう。でも本日の主役は、河内長野の市民のみなさん。コーラスをやっている市民のみなさん、児童合唱の子供達、バンダで出演の地元高校のブラバン部隊、地元のバレエスクールのみなさん、友人の晴れ姿を見に来た市民のみなさん、こちらが主役です。全員上ってもらわなくてはなりません。そういう普通のオペラにはない制約を、どう物語に活かしたかという、その観点から1本とられました。

みみっちいことを言うと、お金もかかってないと思うんです。主役級の衣装だけ。コーラスは全員私服。コーラスが載ってる台は、コンサートに使う雛段。姫や皇帝が乗る台もホールの演説台。反射板で絞り込んだ背面に紗幕が降りたり照明が出るくらい。それでこれだけの物語を見せるのだからいいじゃないですか。ただし、逆に、何もかも揃っていたら、絶対有り得ない舞台だと思います。そういうときにこそ成立するものを見せてくれたから面白い。


演奏の方は、牧村さん&大阪交響楽団、良かったですね。緊張感と弛緩と色彩感のある演奏。トゥーランドットの音楽は私は大好きで、酒でも飲んだみたいに、気分的なものでなく生理的なものが先行するかのような酔い方で酔ってしまうんですが、本日はこれにどっぷり浸れました。今日は音響的にも条件が良かったのかもしれませんが、牧村さんの指揮は数え切れないくらい聴いてますが、私は本日が一番好きです。

ソリストはタイトルロールを歌った平野さんがすごかったです。ぶん回すわぶん回すわ、姫の謎々のところなんか超弩級の迫力でした。本日の分厚すぎる合唱を超えて高音が突き抜けるところなど、観客が超興奮してました。次は三河市民オペラでトゥーランドットを歌うそうなのでお聴き逃しなく。

次にリューの森川さん。お顔立ちも立ち居振る舞いも歌唱もこの健気なキャラそのもので、これは逆に大陸の女性では出せない領域でして、私はリューは日本人女性が実に映えるなあ、と思って聴いていました。

ちっと弱いのがカラフですかね。声質は好きなタイプなのですがレンジが狭くてパッションを表すのが厳しいのと、音程が。特にレガートで上がるときが。

ティムールは直前の代役で、若い人なので、登場時の声が若々し過ぎて違和感とか思ってしまいましたが(これは低声歌手の若いときの共通の課題ですかね)、リューの死を嘆くところなどは良かったです。

アルトゥームが、どうもはっきりしない口ごもったようなところが、私のトゥーランドットの世界観にぴったりでした。この世界観の話は明日書きましょうか。読みたい人いますかね?

ピンポンパンは豚・河童・猿の孫悟空3点セットになってます。馴染みの音源が、あまりに演劇的な、この3人が実によく動いて、しかも演技に腰が入ってるタイプの、音だけ聴いててもそういうことが伝わってくるタイプなものですから、どうしても物足りなく思ってしまうんですが、しかし、まさにその点が、3人が故郷に帰りたいと言い出すところでは、すごく情けなくてしっくり来て、名人芸になると表現出来ないものがあると思ったりしました。

いやあ、でも実に見応えのある公演でした。河内長野ラブリーホールの開館20周年記念行事で、シリーズのVol.1とありますから今後も期待したいと思います。

ラブリーホール開館20周年事業
河内長野マイタウンオペラコンチェルタンテVol.1
プッチーニトゥーランドット」(原語上演・字幕付)
2012年7月1日(日) 

音楽監督・指揮】牧村邦彦【音楽監督補佐・合唱指揮】井村誠貴【演出】籔川直子
【コーア・マイスター】田中希美
【振付】片岡恒子
【児童合唱指導】東野亜弥子
管弦楽大阪交響楽団
【出演】
トゥーランドット/平野雅世、アルトゥーム/田代恭也、ティムール/伊藤貴之、カラフ/根木 滋、リュー/森川華世、ピン/中野嘉章、パン/島袋羊太、ポン/竹内直紀、役人/松澤政也
合唱パートリーダー
ソプラノ/塩出律、メゾソプラノ/林まどか、テノール/相原敏明、バス/鈴木健司
【合唱】マイタウンオペラ合唱団
【児童合唱】ラブリーホール・ミュージカルスクール
【バレエ】創美バレエスクール
【バンダ】長野高校&OBOG吹奏楽
【主催】(公財)河内長野市文化振興財団<ラブリーホール