京都会館、文化遺産のレッドデータリストに載る

ユネスコの諮問機関であり、世界遺産の登録審査やモニタリングをしている国際組織 ICOMOS(国際記念物遺跡会議、イコモス)の20世紀遺産に関する国際学術委員会(ISC20C)によって、京都会館が遺されるべき重要な文化遺産であり、この建築物に対して現在計画されている改変は、この建物の有する調和と美を破壊し、文化遺産としての価値に対し、後戻りの出来ない害を及ぼすものであり、現在京都会館が置かれている状況が、文化遺産に対する重大な脅威であるとして、ICOMOS ISC20Cによる遺産危機警告(Heritage Alert)の発令を前提とした意見書が京都市長宛に送付されました。

ICOMOSの公表しているデータによると、この警告が発令されている例は、現在、世界中でたった2件で、京都会館が3件めとなる模様です。http://icomos-isc20c.org/id3.html


以下に、ICOMOS ISC20Cの委員長であるシェリダン・バーク氏から京都市長宛に発信されたメッセージの翻訳文を貼り付けます。原文を参照したい方は、PDFファイルを参照してください。

京都市長 門川大作

謹啓
前川國男が設計した京都会館に対して予定されている改修に関する、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)の20世紀遺産に関する国際学術委員会(ISC20C)の懸念をお伝えしたく、これを書いています。1960年に京都の岡崎公園内に多目的の文化施設として建設された京都会館は、日本の近代建築の最も重要な作品のひとつと認識されています。前川は1928〜1930年のパリで国際的に名高いル・コルビジエの下で働き、日本に戻って近代建築に卓越した新しい思想をもたらし、50年間実践し続けました。

前川は20世紀の最も重要な日本人建築家のひとりとして知られており、京都会館は彼の最も重要な作品です。このプロジェクトで彼は、近代建築運動の思想が具現化された新しい文化施設を、京都という町が今も昔もそうであるように、伝統的な歴史上のコンテキストに適合させながら作ることに成功しました。素晴らしい建築作品であり、敬意を払われ、遺されるべき文化遺産です。

ICOMOS ISC20Cは、京都会館に対する今回の改修計画を精査し、次のように懸念しています。この計画は、この非常に重要な遺産に対し、後戻り出来ない害を及ぼします。提案されている新しい舞台のサイズとデザインは、前川の設計思想と細部によって形成されている美と調和を破壊します。

(我々ICOMOS ISC20Cの)国際活動の要請により、私は今年2月に個人的に京都会館の視察を行い、その後、ICOMOS ISC20Cの国際的な専門的・公的ネットワークを使って、再開発計画とそれによって起こりえる文化遺産へのインパクトを精査しました。この状況に対し、現地調査と相対的な遺産価値の評価において外部専門家を起用することによって、厳格で独立した評価を行いました。我々の懸念は承認され、ICOMOS ISC20Cによって発令される遺産危機警告(Heritage Alert)を作成することになりました。

この遺産危機警告は、京都会館保全の脅威に関する国際的な注意を喚起し、望ましい保全方法のさらなる検討を促します。遺産危機警告はISC20Cのウェブサイトに登録され、ICOMOSのネットワークを通じて配布されます。さらなる情報が提出されたときは更新されます。

我々は最大級の敬意を持って、京都市に、現存する京都会館を変える現在の計画を再考し、劇場のプログラム的なニーズを満たしながらオリジナルの建築物の遺産価値を残せるような、よりよいデザインを見出すべく努力することを要求します。
敬白


シェリダン・バーク ICOMOS ISC20C 委員長
Sheridan Burke
President, ICOMOS International Scientific Committee on Twentieth Century Heritage
http://www.jca.apc.org/jikkuri/docs/120810_FromICOMOS_ISC20C.pdf


また、ICOMOS ISC20Cのメンバー*1のリィッタ・サラステ*2からのメッセージも貼り付けます。こちらは、京都会館の特徴および文化遺産としての価値が、中庭とそれを構成する建物群による内部空間にあり、ファザード部分だけを残しても価値は守れないので、この部分を残して価値を守ったとする今回の計画がどう間違っているかがはっきり分かる内容になっています。

ヘルシンキ, 2012年8月12日

京都市長

京都会館の保存に関して

長年の京都への訪問者として、そして歴史的建造物保存のスペシャリストとして、今回の再開発と敷地内部の建築物を破壊するという京都市の計画への私の強い懸念を表明したいと思います。京都会館は、日本のモダニズム建築の第一人者であり東京文化会館の設計者である前川國男の重要な作品です。

京都の近代遺産における京都会館の重要性は非常に大きなものです。この建築物は、この建物を特徴的な存在にしているその内部空間(訳注:中庭とそれを構成している建築物群を指す)において優れた良い状態を保っています。それゆえに、建築物の外側(訳注:二条通りに面したファザード面を指す)のみを保って内部空間の建物を新しくするという今回の計画は、この建築物の価値に反しており、この建築物の重要性を完全に破壊することになります。京都に残された近代の遺産はそう多くなく、ゆえにこの建築物を守ることは一層重要なことであります。

それゆえ、私は、歴史的都市遺産を守るために多大な努力をしてきたことで知られる京都市の文化的良心に対して、心より訴えます。どうぞ今回の計画をストップして、京都会館を完全な状態で守ってください。


リィッタ・サラステ、建築家(博士)
ヘルシンキ市 都市計画局
ヘルシンキフィンランド
ICOMOS(国際記念物遺跡会議)20世紀遺産に関する国際学術委員会メンバー

Riitta Salastie
Architect, D.Sc.
Helsinki City Planning Department
Kansakoulukatu 3, 00100 Helsinki, FINLAND
Member of ICOMOS International Scientific Committee on 20C Heritage
http://www.jca.apc.org/jikkuri/docs/120812_FromRiittaSalastie.pdf


ICOMOSの説明

http://www.japan-icomos.org/
イコモス(国際記念物遺跡会議、International Council on Monuments and Sites;ICOMOS)は、1964年の記念物と遺産の保存に関する国際憲章(ヴェニス憲章)を受けて1965年に設立された国際的な非政府組織(NGO)で、加盟各国の文化遺産保存分野の第一線の専門家や専門団体によって構成されています。ユネスコをはじめとする国際機関と密接な関係を保ちながら、文化遺産保護・保存の理論、方法論、科学技術の研究・応用、およびユネスコ世界遺産条約に関しては、諮問機関として、登録の審査、モニタリングの活動等を行っています。

2011 年12 月現在、参加国は127 カ国を数え、会員は10000 人以上にのぼり、文化遺産の価値の高揚のための重要な役割を果たしています。(後略)

*1:おそらく今回の審査の担当者グループのリーダーであると思われる。

*2:同じくフィンランドの指揮者のサラステと同じ名前ですね。