神々の黄昏@ROH 歌と演出編

この日の続きです。

歌手はねえ。ジークフリートブリュンヒルデは、相変わらずでした。まだ最上階で聴いた分、詳細が分かって良かったくらい*1。一昨日のジークフリートでは実は絶不調で、黄昏で回復するというのが少しくらいあってもよいのではないかと思ったのですが、無かったと思う。

ノルンはみな良かったと思うよ。2人目(だったかな?)がわりかし良かった気もした。


グンターがいきなり音程が怪しく発声もイマイチで、ずっこけた。グートルーネはOK。トムリンソンのハーゲンが出てくると、やっぱり他キャストとは歴然の差。発声も全然違うし。そこは間違いない。ただ、ゼンパーのピーメンで聴いたときのような圧倒的な衝撃さ加減というのは彼も無くなったと思う。いや、今でもゼンパーで聴けばああいう歌唱をしてて、箱のせいなのかな?響きに関してはROHで聴いて他の経験とは比べられないと思う。

ところでこういう話はトムリンソンがある程度以上のレベルだったから言い出すんだけど、リングってフンディングとハーゲンを同じ歌手が歌うことが多いと思うんだけど、私の感覚では、フンディングが良くてもハーゲンをそのレベルで歌える歌手ってなかなかいないと思うのね。表現の問題として。トムリンソンのフンディング今回聴いてないから録音でしか知らないけど、表現てある程度それで分かる面もあって、今回のハーゲンもそのパターンかなあ、と思うところがあった。ハーゲンに説得力を持たせるって難しい。今でも私が一番説得力があると思うのはオーフス・リングのハグランド(Aage Haugland)です*2。話を戻してトムリンソンのハーゲンは、立派で綺麗過ぎる気がする。もちろんダメってことじゃなくて、今回私がここまで言いたくなったのは彼だけだから、むしろその逆なんですけどね。


続いて楽しみにしていた藤村さんのワルトラウテ。録音ではそんな印象は一ミリも持ったことが無かったのに、ちょっとソプラノっぽい成分が入って耳を引くと思った。上手い。安定してる。安心して聴ける。ただ・・・この「ただ」を言い出すところが私の私たる所以だが、グレの歌の山鳩なんかを聴いて持ってた「壮絶すごい」印象からすると、普通かなーと。ああいう、ちょっと人間離れした役で聴いてみたいなー。あれが出来る人にワルトラウテは勿体ない気がする。藤村さんのロールって、あとフリッカとブランゲーネか*3。どっちも勿体無い気がする。たとえ他の人よりそれが上手く出来るとしても。・・・なんてことを考えてしまった。舞台姿はとても綺麗ですね。肩のラインが綺麗。遠目には欧米人の間に立ってて違和感がないので肩幅とか広いのかな。

と書き始めて気になったので、レパートリーをチェックしてみる。こんなかで面白そうなのは、アズチューナ@イル・トロヴァトーレですね。ワーグナーならクンドリー@パルジファルかなあ。リングならエルダですね*4。番外編でオクタヴィアン聴いてみたい(笑)。宝塚っぽい気もするし。普通の(西欧の)女の人にはちょっとない個性で、嵌るとすごいと思うのだけど。グレの歌の山鳩はすごい嵌り役だと思ったけど、ああいう役って意外とオペラにはないことが分かりました。

で、歌唱的には、後半がイマイチ盛り上がり切らずに終わってしまった。ハーゲンとワルトラウテが良くても、それで黄昏は乗り切れないかと。アルベリヒはこの日はコッホが復帰して歌ってたけど、まだ本調子じゃなかったかもしれない。ラインで感じたような表情はこの日は感じなかった。


お次は視覚面。Amphitheaterのサイドって、意外と舞台見えますよ。ROHのサイトでオンライン購入のときに見える写真は背もたれを付けて座った状態の視覚ですが、ここでそうしている人はいません。乗り出したときに見える視覚はこんな感じ

というわけで、演出の話。やった!とうとうKWは黄昏でストーリーに介入するのを止めました。

あんま書く気もないけど、一通り。デタラメ数式が描かれた*5カーテンが降りた手前で、体中に赤い魚網みたいなんを巻きつけたノルンのシーンから、ジークフリートの続きの色彩感のない壁のシーンになって(ライン紀行は壁にビデオだったと思うけどあんま記憶に残ってない)、ちなみにグラーネは馬の頭の骨である*6。そっから隠れ兜と共通のルービック・キューブ・モチーフ(呪いを表すガラス割れ付)の窓を模した背景に、えらい長いロングポッキーみたいな引き伸ばし感のあるレザー調ソファが出てきてギービッヒ家のシーン。赤いベルベットのスーツ着たグンターとか白いロングドレスのグートルーネとか。ハーゲンはディレクタースーツにオールバックで後ろに長い髪を束ねたヘアスタイル。中の人がそうだから仕方ないが、白髪頭でアルベリヒの父親のようなハーゲンである。ちなみにフンディングは白髪のおかっぱでえらく知的なフンディングだったらしい。というわけでトムリンソンの地頭のままだったり地頭を後ろで結わえたりというバリエーションである。

そうだ、この演出はラインからずっと赤い何かで人を縛るのがお約束になってて、媚薬でジークフリートを捕らえればよいと言うところでハーゲンがグートルーネの首を赤いネクタイで締めたりする。そこにオタクのアーミールックみたいな小汚い格好のジークフリートが登場する(ジークフリートと同じ格好だが、背景が真っ白にミラーピカピカなので、小汚さが際立つ)。今日はちょっと賢くなった設定なのか、先日のような「体は大きくなったが頭はついて来ない」頓馬感が控えめになったので、私も安心して見ていられる。ワルキューレ・ロックは例の壁に戻って殺風景な感じ。そうそう、全体に殺風景トーンなんだよね、この演出って。比較的動きがあるのが序夜のラインで、(舞台写真から判断するにワルキューレも含めて)本編はみな殺風景トーン。見張りの歌からずっとハーゲンが椅子に座ってて手前にいて、その椅子にジークフリートを座らせて、その体勢でジークフリートが歌ってグンターが動く。グンターは口を動かさないので、見た目にはめちゃ違和感があるが、そもそもそういうシーンなので合っている。

小舟に乗って降りてくるアルベリヒ。歌詞に合わせて赤いネクタイを巻いたり巻かれたり。ギービッヒ家の合唱になると、ミラーの背景に金ピカの神々の像が出てきて、このシーンはこのリングを通して一番視覚的密度の濃いシーン。後方からグンター、ジークフリートブリュンヒルデを載せた例の巨大壁が出てくる。巨大壁の4つの頂点に置かれた椅子を椅子取りゲームばりにぐるぐるしながら陰謀を廻らす3人組。

小船に乗ったジークフリートに絡むラインの3人娘。そのまま狩の一行がやってきて(ここは歌唱的には黄昏ジークフリート最大の見せ場だと思うのだが、つまんないったらない!)、葬行のシーンは全然覚えてなくて(またビデオだったのかな)、ギービッヒ家に戻ってきて、演出的には割と動きがない中でブリュンヒルデが歌ってて、ラインの3人娘が最初のすっ裸で出てきて、現代の人間達がワラワラ出てきて、上から丸いシルバーの輪っかに載って白っぽい格好した「なんとなく近未来風」の人間が出てきて終わり。最後に「白っぽい近未来風」が出てくるのは、この間のパルジファルでも見たゾと言いたくなる。でもいつもの思わせぶり(だけど実は分かってないだろ)は最後の最後しかやらなかったので、まあヨシとしよう。

この辺で舞台写真が見れます。
http://www.flickr.com/photos/royaloperahouse/8046665932/in/photostream/

Götterdämmerung, Royal Opera House, London
Monday 1 October 2012, 4.00pm


Conductor Antonio Pappano
First Norn Maria Radner
Second Norn Karen Cargill
Third Norn Elisabeth Meister
Brünnhilde Susan Bullock
Siegfried Stefan Vinke
Gunther Peter Coleman-Wright
Gutrune Rachel Willis-Sørensen
Hagen John Tomlinson
Waltraute Mihoko Fujimura
Alberich Wolfgang Koch
Wellgunde Kai Rüütel
Woglinde Nadine Livingston
Flosshilde Harriet Williams


Director Keith Warner
Set designs Stefanos Lazaridis
Costume designs Marie-Jeanne Lecca
Lighting design Wolfgang Göbbel
Original Movement Director Claire Glaskin
Video Mic Pool
Video Dick Straker
Associate Set Designer Matthew Deely

追記

KWとホルテンの対話形式で行うこの演出の解説映像を見つけました。が、実は東京リングの解説映像じゃないのってくらい話題に何度も出てきます。日本のファンにとっては興味深いものだと思うので紹介しときます。
http://www.the-wagnerian.com/2012/10/video-keith-warner-in-conversation-with.html

*1:どんだけオーケストラ10列目ダメやねん、という。

*2:ハグランドはハーゲンの録音がイマイチないのね。古くて売ってないだけかもしんないけど、勿体無い。唯一今でも流通してるのはENOの英語歌唱のやつだけ。

*3:録音が出てる役。

*4:今やってる役に比べて小役かもしれないけど、素質が映える役として。

*5:ただ移項しただけの式が並んでて、理系的にはうーむ・・・と思ってしまう。

*6:休息中のグラーネ達→http://www.jca.apc.org/~czy00347/starboard/pics/2012London_Autumn/p/pages/DSC07096.htm