ボリス・ゴドゥノフ考(1)

このシリーズは、本当にオペラ関係ないですから。プーシキンの原作の考察をメインに、たまにオペラのストーリーを引き合いに出してみようかな、というシリーズです。*1

この作品はですねえ、いまだにどうしても分からないところがあるんですよ。周辺の登場人物についてはかなりすっきり納まるんですが、実は、ボリス本人がどうも分からない。腑に落ちる/落ちないのレベルで分からないと言いますか、どうもしっくりしない。この差はですね、例えば、(私は役者じゃありませんが)ボリス・ゴドゥノフの登場人物を演れと言われたら大抵よっしゃやりましょうと言えるけど、ボリス本人だけは躊躇せざるを得ない、そういう理解度です。

そんなん言ったらお前、現代人の分際で古典の登場人物の行動が腑に落ちんのか?初対面の相手に恋するプリンスとプリンセスの気持ちが分かんのか?と、まあ色々突っ込みどころはあるわけですが、直接入り込めなくても、その人物造形に作家が何を込めたのかは分かるわけです。その人物になれなくても、その人物がどう振舞うべきかは分かる。同じ場面に置かれた自分が自発的にそうなるわきゃないけど、その人物だったらどうすべきかなら分かる。

ところがねえ、プーシキンのボリスは駄目なんですよ。最初から分かんないし、今も分からない。オペラの方は分かりやすいけど。

オペラの方でクローズアップされた、良心の呵責に苦しみ自滅する権力者という見方ですね、そういう読み方が出来るのは分かります。ただですね、プーシキンがボリスに与えている台詞が、最後まで、ものっそい冷静で理性的なんですよ。とても悶死なんかしそうにない。だからプーシキンは二枚舌だと直感的に思ってしまったわけです。表層的には皇子殺しの悪人の偽皇帝*2が自滅する勧善懲悪ストーリーを書きながら、裏でベロ出してる作家本人が見えるような気がします。

*1:実は、よっぽどネタ切れのときに使おうと思って、書いて放置してたんですが、意外とネタ切れにならないので、ここらで放出します。

*2:偽なのは本来その地位に就くべきではなかった人物だからです。