シラー『ドン・カルロス』抜粋

本当にただのメモです。シラー『ドン・カルロス』から気に入った箇所の抜粋です。

3幕10場。「それは墓場の平和です」の後。王の返答によってロドリーゴの言葉の意味が分かる仕掛けになってます。

(大いなる間を置いて。)御身の申す事を残らず聴いた。――御身の頭に描かれておる世界は、外の者どもの頭の中の世界とは大分の隔りがあるな。――己も彼等を律する基準を以て御身を律することをするまい。御身の懐抱を披瀝して見せてもらうたのは、己が初めてじゃ。それはそうと知って疑わぬ。そのような熱を籠めたそのような意見を、ようこそ今日まで包んでおった。その遠慮に免じて、――また、へりくだった聡明な心に免じて、よいか若者、己がそれを知ったことも、それを知るに至った経緯も、悉く忘れて取らせるぞよ。立て。血気に逸る若者の詞には、王者としてではない、頭に霜を頂く老人として、服するわけにはゆかぬのじゃ。己の意志じゃから服さぬ。――毒薬のようなものでも、よう生まれついた者の心にはいれば、少しは気高うもなるものじゃということを、これで知った。――それにしても、宗教裁判の眼を逃れるように致せ。己に本意ない思をさせるではないぞよ。――

4幕7場。よくある浮気疑惑も親子間ではややこしくなるというお話。

 
王の書斎。王、安楽椅子に座す。その傍に王女クラーラ・オイヘーニア。
(深き沈黙の後)いやいや、これはどうでも己の子じゃ。――このような歴然とした事実を、自然が偽るはずがない。この青い眼は己の眼じゃ。この顔立ちは隅々まで己の生き写しじゃ。おお、そちは己の愛が生んだ子に相違ない。さあ己の胸に抱かれてみい。――うむ、そちは己の血じゃ。
 
(愕然として口を噤む。)己の血。怖ろしいのはここじゃ。己の顔立は、そのままあれの顔立ではないか。
 
(メダルを手に取り、その中の肖像と向かい合いたる鏡の中とを見比ぶ。――さてメダルを床上に投げ、席を蹴って立ち上り、王女を突き飛ばす。)行け、行け。この奈落に落ち込んだが、己の身の破滅じゃ。

これは辛いなあ。エリザベッタを突き飛ばすより、この子供を突き飛ばすシーンのが辛いよ。

4幕12場。ロドリーゴの機転大活躍のシーン。

ポーサ候
もし殿下とお妃様との間に秘かなご了解があったと致しましても、彼等が申し立てて非難いたす事とは、遥かに――遥かに違った内容のものでございまする。殿下がフランデルン行きをご希望遊ばれたのも、賽はお妃様のお胸に湧いたお考じゃという事を、確かな筋から聞き及んでおりまする。
 
お妃様には名誉欲がおありなさりまする。――すこし詞が過ぎるようではございまするが――全然国政の埒外に置かれて、御自身のお志を賽致される望みのないことを、賽は腹立たしう思し召しておられまする。そこへ、血気に逸るお若い殿下が、お妃様の遠大のお志を果す丁度よい道具となられました。――そのお妃様に――色恋沙汰はちと見当違いでございましょう。

4幕17場。カルロが拘束された後のロドリーゴの台詞。

ポーサ候
殿下はきっとお救い申すぞ。王の復讐の雷を、己の身一つに引き寄せるのじゃ。王の頭を混乱させて、この己を罪人と思わせ、殿下に脱走の暇をお与え申そう。そうするには、はて、どうすればよいか。なんの。専制君主の猜疑心を挑発するのは、別に手間暇の要らぬことじゃ。善が王座の前に辿りつくには、いこう骨が折れるが、悪は千の道路をうろついていても、ことごとく専制君主の開かれた耳に通じていく。錠前も閂も、かれら専制君主の闖入を防ぐことはできぬ。かれらは、神聖な書信の封を開くことすらも憚らぬ。かれらの技術と策略とが、神聖を畏れず、鎖されたものを物ともせぬのは、有りがたいことじゃ。かれらの手から友を救い出すため、あべこべに、向うの道具を借りるとしよう。

その他

それにしても、この話で解せないのは、王と王子が最初から不仲なんですよ。いやカルロは一回打ち解けにアタックするんだけど王が全然動かないの。全体に、こっちの王は妙に冷酷なんだけどね。
オペラだと、王とエリザベッタの結婚によってカルロが離れるようになっててこの不可解さは無くなってるけど。あと史実の方はもうひとつ不可解です。こんな感じね。

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