こめかみから30センチ/「またやっちまった!」の謎が解けたの巻

「またやっちまった!」とは、録音に慣れ過ぎて、実演に接したときに「なにか足りない」と感じてしまう現象のことです。「はああ〜〜?実演より録音がいい〜?耳が腐ってるんじゃないの?」と言われてしまいそうですが、あるんですよ、これ。ちなみに、この現象がオーディオ趣味者の間では一般的であることを示す証拠として丁度よい記述を見つけたので、記念に引用しておきます。情報源がオーディオ関連じゃないのも、証拠としてよろしいですね。

http://koten.kaiteki-jinsei.jp/081225.html
Vol.95 古典音楽 「オーディオ愛好家 (前編)」
処で、これらの人々に共通な点は、どうやら彼らは実際の音楽会には中々出かけ無いと言う事にありそうです。何故と聞きますと、答えは(表現は区区ですが)「だって家の装置の方が良い音で鳴るから」と言う点でも一致していそうです。ウィーン・フィルでもベルリン・フィルでも何でも実演で聞いてみて、家に居て聞くのと同じ位豊麗で迫力のある音に聞こえた例が無い、聞いてフラストを起こす位ならお金を掛けてなぞ出掛けない、とこう仰るのですね。多分こう言う音楽ファンは世界中に沢山居るのだと思われます。しかし乍ら、実に多くの人がこのような性向を持っているのも、我が国の特徴の一つかも知れません。


さてこの「なにか足りない」の「なにか」が何かということは人によって様々だと思いますが、先日のコンサート体験とそこで購入してきたCDを聴くうちに、starboardにとっての「なにか」とは何かが判明しました。ヒントは3つ。

  • ジャルスキー氏の音源は先日のコンサートに行く前は全然聴き込んでいなかった。BGMとして数回*1再生しただけで、ちゃんとしたシステムにかけることすらしていなかった。聴き込んでいないのに何故「またやっちまった!」と思ったのか?
  • ジャルスキー氏の声は定位が非常にはっきりする。ということをコンサートのレポでも書いたが、これは録音でも顕著で、久々に、自分のシステムでは当たり前過ぎて忘れかけていた定位を強く意識させられた。
  • 「またやっちまった」はボーカルのときだけ発動することに気付いた。

またクラオタのみなさんから笑われそうな話になるわけですが、今の私が自由に聴けるまともなシステムとはカーオーディオでして、しかしカーオーディオと馬鹿にするなかれ。これでも自作オーディオマニアの家に育った人間でして、子供の頃から無駄に贅沢なオーディオに囲まれて育ってきました。音楽を聴く耳はないが音響を聴く耳は全く無いわけではない(・・・と思います←微妙に自信が無い)。

今回、実に久々に、初めてカーオーディオに触れたとき*2のことを思い出したわけですが、カーオーディオはすごい逆転の発想なんですよ。あのパーツを取り外してホームオーディオの代わりに鳴らしたらショボイ。かなりショボイことは自信を持って断言出来ます。単品としてはそんなもんでしょう。しかしコンパクトな鉄の箱の中では話が違う。普通オーディオというのはある程度の広さの場所で考えるものですが、ここが逆転の発想です。カーオーディオは車体込みでオーディオシステムなのです。

で、今聴いてるシステムは、これはstarboardに技術があるわけではなくてビギナーズラックに近い経緯で実現出来た・・・・というか車種の恩恵が大きいのですが、まあ経緯はどうでもいいとして、結果として、非常に定位がはっきりした再生が出来ている。特にボーカルに関しては効果的で、大体運転席に座ったときにバックミラーの手前、こめかみから30センチの位置で歌っているように感じます。大体誰に聴かせても同じことを言いますから、本当なんでしょう。そもそもこの位置に定位が来るというのがカーオーディオならではというか、ホームだったらちょっとあり得ないというかそもそもそんなことやろうと思わないって設定なんですが。これで聴くと、クラシックはまだマシですが、ポピュラー音楽にありがちなささやき系の録音など生々し過ぎてヤバいそうです。いえ、私は慣れてるので平気ですが、初めてこれで聴く人は。

「またやっちまった!」の正体はこれだったんですね。何故ボーカルに不満を持つのか。てっきり音量上げ過ぎに由来する迫力慣れだと思っていたんですが、違ったようです。あの感覚はホールのどこに座ろうが実現出来ませんね。当然です。正体がはっきりしたので、実にすっきりしました。これで次回ライブ鑑賞時にモヤモヤしないで済みそうです。これも先日のコンサートのおかげですね。ジャルスキー氏とgalahadさんに改めてお礼を言わなければ。いやー。めでたい。すっきりした♪

追記/誇張注意

「こめかみから30センチ」は誇張表現でして、実際のところは、ちゃんと意識して聞けばフロントガラスの向こう側くらいです。ただインパクトとしては「こめかみから30センチ」ですし、はじめて聴く人はそう仰いますのでキャッチフレーズとして採用しました。

*1:しかも2回目以降は途中でストップしたというヘタレさ加減。

*2:カーオーディオに凝るという文化に触れたとき、という意味です。