オペラと記録/未来論風味(コメント)

オペラと記録/未来論風味で引用させてもらったmadokakipさんのところのコメントで興味深い話題が出たので、こちらに転載します。元記事と合わせてお読みください。


転載元 http://blog.goo.ne.jp/madokakip/e/1dbcce1c9fe34d6c10d569d556fa7fde

blogで言及しました (starboard)   2009-12-11 05:04:40


この記事について言及させてもらいましたのでお知らせします。
http://d.hatena.ne.jp/starboard/20091210

ご連絡ありがとうございます (Madokakip)   2009-12-12 17:47:12


 starboardさん、

ご連絡ありがとうございます。
面白い記事ですね。
多分、それぞれの方で色んな意見があるんですよね。
HDによって始まってしまった、舞台で観たときに優れた演技とHD写りの良い演技の逆転現象、
これは私も最近痛烈に感じています。


私はこれはとても極端な考えだと自認しつつ、
やっぱりオペラは何よりも劇場で、生が良くないと駄目だ、という考えの持ち主です。
(想像がおつきになっているでしょうが、、笑)
つまりHD向けと舞台向けの演技があるとしたら、
断然舞台向けをとります。
最近の記事でラセットの歌の音源を紹介したのも、
ある意味彼女の表現がすごく舞台向きで、
多分録音で聴くとちょっと場違いな感じがする、
でもそれだからこそ紹介したい!というのがありました。


音源に関しては劇場で音を聴いた上で、
参考にするのは貴重な資料ですし、
舞台の予習用には欠かせないものでもあるし、
また、今のようなYou Tubeのようなツールが発展している現代では、
録音したものがますますシェアされ交換されることはあっても、
なくなったり減っていくことはないとは思います。
それでも、私にとっては録音したものは単に録音したものでしかなく、
オペラの舞台を実際に鑑賞するのとは全く異質な経験だという風に個人的には思っています。


オペラの舞台というのは単純な音の集まりではなくて、
その場にいる客やキャストが作る空気とかエネルギー、
劇場や舞台の大きさから肌が受ける感じ、など、
味覚意外の感覚を全部使うものだと思うんですが、
そういうものの中には録音や映像にはおさまりきらない要素が多くて、
それが映画、DVD、CDの類では今ひとつ食い足りなく感じる理由です。


でも、これは鑑賞のバリエーションのたった一つでしかなく、
すごく聴覚に特化した鑑賞の仕方とか、
逆に視覚に特化した鑑賞の仕方があるのも当然で、
あくまで私の場合の話、です。


で、この論点でいうと、メトのオープニング・ナイトの『トスカ』は、
私に言わせれば、スクリーンで見ないとわからないような芝居をしていても駄目だ、ってなことになるわけです(笑)

ライブ道と録音道 (starboard)   2009-12-14 05:01:00


いやー。Madokakipさん、すごく羨ましいですその返答は。

返答を読みながら自覚したんですけど、私は自分のライフスタイルの中では録音中心に考えざるを得ないから、録音を気持ちよく聴けるような環境整備を望むし、ライブはたまのお祭りでもあり、最終的には日常録音を聴くときにより深く味わうのに役立つ経験であることを望んでいます。主食が録音なんです。こういう層は、現代の音楽鑑賞者の大多数じゃないかと思います。

もっとも、Madokakipさんがこれを言うためにどれだけ行動したのか想像がつきますので、能天気に羨ましいとだけ言ってちゃあかんなーとも思います。とりあえず、当面は、私は私の出来るところで録音道を邁進します。

道 (Madokakip)   2009-12-14 12:39:12


 starboardさん、

実はstarboardさんのコメントとブログの記事のおかげで、
私も色々と自分を振り返ることが出来まして、
感謝しております。


おっしゃるライブ道と録音道のコンセプトなんですが、
そう言われて思い出したことがあるんですよ。
私、オペラに入る前はいわゆるロック(洋楽)が好きだったんですが、
何をがっかりしたかって、ライブに行っても、
CD以上にはおろか、CDと同じ程度に上手く演奏できるバンドが非常に少ないという点で、
ましてやCDの演奏と同じテクスチャーでライブ演奏できるバンドなんてどこにもいませんよね。
それで、CDだけで聴いているころは夢中だったのに、
ライブに行くようになって、段々嫌になって興味を失っていったんですよね。


それに比べて、オペラの場合は、
特にスタジオ録音の正規盤よりエキサイティングな公演というのは、結構あります。
というか、私の場合、オペラの雷
(『ガラスの仮面』でマヤが、ヘレン・ケラーの芝居を演じている時に、
”水”というコンセプトを理解するのに雷に打たれたような感覚を覚える場面がありますが、
まさにあれです。)に打たれたきっかけとなったCDは、
カラスの『ルチア』のライブ盤(スカラと行ったベルリンでの公演)なんです。
ということは、私は元々ライブ指向が激しい人間なんだと思います。
それは単にライブ演奏を録音したものか、否か、という問題ではなくて、
ライブでの、あの何が起こるかわからない、という感覚、
いい方も悪い方も含め、、、
そしてそれに対するオーディエンスの反応、
それが私がオペラにはまっている一つの要因なんだな、ということに思い至りました。


>これを言うためにどれだけ行動したのか

まだまだ継続中でして、おかげさまで、
家、車、貯金など手元に残る財産は一切なく、
最近では衣服にかけるお金まで切り詰める始末で、
メトで毎日のように出待ちしているメンバーを見ると、
擦り切れた衣服のままで現れるお年寄りがいますが、
数十年後は間違いなくあれが私の姿だと思います(笑)


>主食が録音なんです。こういう層は、現代の音楽鑑賞者の大多数じゃないかと思います

そうですね。
私も東京に住んでいた頃は、新国立劇場が出来た後ですら、

>ライブはたまのお祭りで

やっぱり、家にあるCDを聴くのが中心でした。
ましてや、東京以外の都市に住んでいらっしゃる方(うちの両親なんかもそうですが)は大変です。


多分、私が危惧しているのは以下の点なんですよね。
つまり、昔というのは、まず舞台があって、
そこで成功した人たち(もちろん当時ですら、
優れた歌手なのに契約がないために録音が少ない、という不幸な歌手もいますが。)が
レコーディングに登用されることが多かったですよね。
まず、舞台が先にあったと思います。
丁度オペラの歌手の黄金期にあたっていたという幸運もありますが、
だから、歌唱だけについて言うと、先にレコードだけで聴いていても、
実際を聴いて、なんだよ、これー!というケースは少なく、
むしろ、実際の方がすごい、という例が多かったんではないかと推測します。


けれども、ちょうど舞台向けの演技とHD向けの演技の逆転現象と同様に、
今は先にCDがあるようになって来ている気がするんですよね。
もちろん、舞台できちんと結果と成功を出してレコーディングに進む人もいますが、
傾向として、、。
だから、CDとかDVDで見たり聴いたりしているのと、
実際の公演がギャップがあって、えっ?という人がいます。


また、そこまで行かなくても、CDやDVDなどで聴くと優れた歌や演技なのに、
オペラハウスで実際に見ると、それほどぴんと来ない、という歌手もいます。
例えばゲオルギューなんか、歌は上手い人なんですけど、
彼女の舞台では本当に心から感動させられることって
私の経験から言うと、本当に少ないんですよね。


この舞台→録音という方向が逆になって、
録音→舞台という流れが主流になると、
段々オペラハウスで実際に生で聴ける歌唱の質が変わってくる
(まあ、率直に言って、レベルが下がる、と言ってもよいと思いますが)のではないかな、
また、実際に変わりつつある、という風に感じたりします。


いろいろ考えさせられるトピック、ありがとうございました

自分のところにも転載していいですか。 (starboard)   2009-12-15 03:46:35


またもや興味深い話を有難うございました。ライブ派ってのは実にmadokakipさんらしいですね。私は元々作り込み系の電子音楽が好きだったので、オペラの聴き方にもこの性向を引きずってる気がします。

このコメント欄のやりとりを自分のところにも転載していいですか?この後考えてみたい材料が色々含まれているので。

どうぞどうぞ! (Madokakip)   2009-12-15 16:56:45


 starboardさん、

>このコメント欄のやりとりを自分のところにも転載していいですか

もちろんです!どうぞどうぞ!!
今後も、このブログのどこでも、お好きなところをご自由に!
最近コメントをつけるのが遅くなることがありますので、
私の返事を待たずにどうぞ記事にしてくださいね。
starboardさんの書かれる文章はいつも視点が独特でとても面白いので、
この件もどのように斬られるのか、とっても楽しみです!

長くなったので、この件で考えたことは次の日のエントリにて。