ワルキューレ/コペンハーゲン・リング

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コペハンリングレポの続きです。時間がちょっと開いてしまったので、全体の振り返りをしつつ、ワルキューレについて書いてみます。このリングシリーズの中で派手に演出が入っているのはラインの黄金と神々の黄昏で、ワルキューレジークフリートは極々オーソドックスな作りになっています。いやそうでもないのかな。なにしろ最初と最後の演出の押し出しが強いので、比較で間の2作が大人しく見えてしまうという代物です。この2作については少し詳しく書いても大丈夫でしょう。

Act1

本日も一昔前のテレビドラマです。照明が黄味がかっているのも一昔前のテレビ画面のように見える理由でしょう。日が斜めに傾き暗くなる寸前を表しているとも言います。

しわくちゃのシャツの上にくたびれたネクタイとツイードのベスト、その上に古びた茶色のコートといういでたちのジークムント。グレーのクラシカルワンピースのジークリンデ。ラインの黄金から30年経ちました。

Act1については前に書きまくったので (1) (2)、それを読んで頂くことにして、ひとつ書いておくと、このワルキューレのときのアナセンの見た目は本当にひどい。このときが一番ひどくて回を重ねる度にまともになりますから*1、ここで見限らないで次作も見てやってください。starboardに「ちっとは痩せた方がいい」なんて言われたのはアナセンだけだよ。ボータはもちろん、ニールですら言われなかったのに*2。なんでこんなすごいことになってるんだろう。やっぱトレードマークの明るいチェストナッツカラーのあの髪が無いとこうなるのかな。

またこのワルキューレはカメラがおかしいんだな。コペハンリングシリーズは、いつも前半のカメラが変で、後半のカメラが比較的まともです。どのみちアップし過ぎる癖は共通だけど。寄りっ放しと変なアングル狙い過ぎと酔いそうなほどカメラを切り替えるのは止めようよ>前半の人。

でもこのAct1、人物の感情の動きがものすごいダイレクトに、テレパシーかなんかで心の中に直接流れ込んで来るように伝わってきます。あまりにダイレクト過ぎて、観た後ぐったりしちゃう。

あと特筆しておくべきは、Nortungをトネリコの木から抜くシーンですかね。さすがフェミニズム・リング、ジークムントがジークリンデにNortungにチャレンジするように促して、自分は触らずにNortung! Nortung!と気合を送って、ジークリンデの手によって抜ける・・・・剣を勝ち取ったのは剣の守り手だったという展開なんですよ。タイトル画像はこのシーンからです。

そもそもジークリンデってのは守られる女じゃなくて男を鼓舞する女だと思うんですよ。何の動機って言うんですかね、いつもそういうシーンに流れる太いテーマがあるじゃないですか。太いって表現変かな。ヒロインに付けるには太いテーマだなあと思うんですよ毎度。

Act2

ストライプの3ツ揃いに金時計をポケットに忍ばせた小金持ちおやじヴォータン。射撃場にいるんですかね、それともSPに身辺警備をさせてるんでしょうか?ラインの黄金以来の工事現場のようにも見えます。なにはともあれ、数十年前は現場でキャンプしてたヴォータン商会が繁盛して立派になったのは喜ばしいことです。福々しかったヴォータンにも白髪が混じりはじめ、時間が経ったことを感じさせます。フリッカもいかにも小金持ちの奥様らしき風で、ヴォータンに小言を言う姿はリアリティたっぷりです。

てなことをわざわざ書いたのには理由がありまして、このコペハンリングは「ある家族の物語」なのです*3。まあどうしようもない親父のために娘が苦労する話ですな。完全に人間なわけでもなく、娘の背中に羽根が生えてたりして適当に混じってます。

今回もヴォータンは乱暴者で、ブリュンヒルデを階段の上から突き飛ばしたりしてました。その後で辛そうな顔をして見せても駄目なんだぜ。とはいえ、意に反して我が子に厳しくする父親に感情移入する親父達@観客席が続出しそうなシーンであることよ。

逃避行の途中で現われたワルキューレを言い負かして、無駄に嬉しそうに刀をぶん回しながら戦いに出かけるジークムント。あんたはそういう奴だよ。ウィンターストームでこぶしを回していたときからそういう奴だと思ってたよ。

ジークムントがフンディングにやられる場面。何度見てもここは無いと思う。と最初は思ったんですが、これ神々の黄昏でジークフリートが刺されるシーンを先取りして見せてたんですな。ジークムントの死体の上で金をやりとりするフンディングと手下達。フンディングがジークムントの死体を足で蹴ってごろりんとすると、あらー。仰向けになってもあんだけぽこりんなお腹はきっとすごいと思うわ。

Act3

シェンヴァント氏はいつ見ても丸顔+丸頭だなあ。縦横比が。
ワルキューレロックは、これはなんていうんですかね、天文台風というのか、山の屋上の休憩場所兼オブジェとしてこういうのありそう。これが回転して、建物の外と中で起こっていることを都度見せてくれます。

黒いスパッツの上にスリップドレスを重ねたここ数年日本で流行中のファッション(いや違うから)のワルキューレのみなさん。ジークリンデを連れて、ブリュンヒルデ登場。私を放っておいて!死なせて!と投げやりだったジークリンデが子供が出来たと聞かさせれて、守って!子供を守って!と変わる場面ではほろっと来ちゃいましたねー。

またまたヴォータンが横暴です。ヴォータンのフェアウェルは、やっぱちっとガクっと来ちゃうな。ワルキューレで有名どころってあと何だっけ。ウィンターストームはそりゃ満足ですとも。コペハンリングは有名アリアのところでときたまガクッと来る以外は*4、音楽的にはいいと思うんですけどね。さらっとしてますけど、ドラマと音楽が噛み合ってますもん。

このシーンはドラマ進行的には中々見せてくれます。素直になれないヴォータンおやじとか、背中の翼をもぎ取ることで表現される神性剥奪シーンとか*5、その翼の中から何故か白い鳩が出てきて、それを外に放してやるビリュンヒルデとか。この鳩はシリーズ後半で活躍するのですが、見てのお楽しみです。

ラストでワルキューレロックの周囲を火が燃え盛ります。このワルキューレロックは火が映ったときに一番映えるように作られたらしく、なかなか綺麗で見栄えがする終わり方です。

舞台写真はこちらで見れます。http://www.old.kglteater.dk/ringen/uk/om_ringen_valkyrien_fotos.html

Conductor: Michael Schonwandt
Staging: Kasper Bech Holten
Sets and costume designer: Marie i Dali and Steffen Aarfing
Lighting designer: Jesper Kongshaug
Dramaturge: Henrik Engelbrech

Siegmund: Stig Fogh Andersen
Sieglinde: Gitta-Maria Sjoberg
Wotan: James Johnson
Brunhilde: Irene Theorin
Hunding: Stephen Milling
Fricka: Randi Stene
Helmwige: Emma Vetter
Gerhilde: Ylva Kihlberg
Ortlinde: Carolina Sandgren
Waltraute: Hanne Fischer
Siegrune: Anna Rydberg
Rossweisse: Elisabeth Jansson
Grimgerde: Elisabeth Halling
Schwertleite: Ulla Kudsk Jensen
Royal Danish Orchestra
Recording: May 2006

おまけ編

このワルキューレには特典映像が付いてきて、それがデンマーク女王とおんぶホルテンの対談なのですが、女王がこのリングをいたく気に入り、ワルキューレだけで5回観劇されたそうで。本当に気に入ったんですね。ワルキューレの立ち上げ後ジークフリートの準備中に行われた対談らしく、準備中の舞台の話が面白いです。アナセンの話題も出てきて、ああこうやってその気にさせられて演出業とかはじめちゃったのねーと思わせる話の展開が興味深いです。ワルキューレのプレミエは2002/2003シーズンで、アナセンの初演出作品は3年後ですから、本当にそういうタイミングだったのかもしれない。

あとこの中でホルテンが、ラインゴールド、ワルキューレジークフリートの舞台をそれぞれ、20s, 50s, 1968と言ってますね。黄昏が現代の筈だからラインゴールドの字幕の「50年前」というのはジークフリートから50年前と数えるのかな。よく分からないや。後で考えるためメモっとこ。ついでにNortungの設定について語ってるとこを引用しときます。

That's quite radical.

But for Siegmund to say: "You can do it," hence empowering her
instead of saying: "I'll take care of you, sweetie"...

ホルテン談(特典映像の英語字幕より)

*1:注:あくまでアナセン内比。一般基準で比べないように。

*2:全く嬉しくない引き合いの出され方。

*3:物語は、神々の黄昏でジークフリートを失ったブリュンヒルデが実家の書庫にしのびこんで古い記録を読んで全てを理解する、その記録の旅に観客が付き合うという仕掛けです。

*4:特にヴォータンのアリアに関しては、めっちゃ要求水準が高くなってるんだと思う。あの人のせいで。

*5:でもここの音楽のチョイスは物議を醸しそうだと思いました。