新国ジークフリート(2)

(1) (2) (3)の続きものです。

Act2

この幕では、アルベリヒ、ヴォータンの掛け合いの時点で引き込まれました。1幕での音の印象と比較したので特別よく感じたのかもしれませんが、普通なら単調に聴こえるヴォータンの旋律が単調にならずに聴けたことに驚きました。

そして続くジークフリートとミーメの登場、今度は声が作るキャラクターが全然違うのです。変わったのはフランツ・ジークフリートで、さっきまであんなにがちゃがちゃしていた声が、今度は綺麗に聴こえます。高音の伸びをふわっとさせるところなど、なかなか綺麗に決まっています。そしてジークフリートが一人夢想するシーン、ヘルデンテノールに少年性を求めるという根本的に間違った価値観を持ったstarboard最大の注目ポイント、ここがリリカルでちゃんと考えられていて素晴らしい。この間の聴き比べ音源全部と比較しても一番アナセン路線に近い。細かいことを言えばもっと技術を磨いて欲しいと思うポイントが無いでは無いものの*1、ここの歌唱を聴けたのは収穫でした。私の中でフランツ株が急上昇しました。

この声の変化は一体なんでしょう。この時点では座席移動のせいかと思いつつ、オケに埋もれるとがちゃがちゃして聴こえる?そんな馬鹿な?とも思いつつ、種明かしはAct3にて。

Act2の演出について

この幕の森のシーンは舞台が綺麗でした。緑と薄緑と紫色が迷彩的に組み合わさった絨毯が一面に敷き詰められていて、例のごとく照明が蛍光がかっていて、木漏れ日の下にいるようでもあり、SF的でもあり。ただしジークフリートの独り言の場面で動物達の着ぐるみ*2を登場させたのは頂けません。このシーンは孤独であって欲しいのです。どうしても登場させたいなら、舞台の端と端でジークフリートの孤独感を保ったまま演出して欲しいものです。

小鳥も着ぐるみシリーズで、歌うときは頭の部分を脱いで歌います。葦笛の代わりに玩具の笛を4種類くらい取り出して次々と吹いたり、続くファーフナーのシーンでは木にぶら下がった死体8-10体くらいがボトボトと落ちてきてゾンビ化してジークフリートとチャンバラして*3、いよいよ木を割ると喪黒福三モドキが出てきてそれがファーフナーの正体だったり、ここの演出のアイディアはとっても面白いです。

ミーメの殺害シーンでは、ミーメが普通に喋るところは普通にその場にいて歌い、血を舐めたことで分かるミーメの本心の部分はミーメは別室に移動してTVモニター越しにジークフリートがそれを聴くという仕掛けなのですが、これがいかにも慌しい。せめて部屋移動はせずに背中を向けて歌うくらいにして頂きたい。最後にはついにジークフリートの前で本音の部分を歌ってしまってノートゥングを突き刺されるという仕掛けです。うーん。アイディアはよかったけど、実際にやってみたらそれほど効果的でもなかった典型例という気がします。

あとこのミーメのシーンで、小鳥が宙吊りにされたり逆さまにされるのですが、歌うシーンと組み合わさっているのでスタントではないと思うのですが、これは歌手の負担が大きくないですか。逆さまはミーメが喋っていることが普通のしゃべりではない、血のせいで分かる状態であることを表しているのだと思います。


しかしこの後はなかなかよくて、ジークフリートが一人ぼっちだと言い出して、小鳥も膝を折ってその場に座るところは「ぼっち」感が出ていて詩的でよいと思いました。リブレットとは異なりますが、普通の演出よりも小鳥の存在が強くて人間に近くて効果的です。

歌唱も含めて小鳥は大満足です。この役は日本人であることがよい方向に作用していた気がします。これでドイツ語のディクションが良かったら理想の小鳥なのですが*4

そして最後に小鳥が何故か後ろを向いて、片肌を脱ぎます。もうこの時点で非常になまめかしい。なんだなんだ、小鳥のストリップか?*5と思って見ていたら本当にその通りでした。後ろ姿だけ完全にスッポンポンの状態になって、銀色の服*6に袖を通しながら舞台から去ります。その後をジャケットを羽織ってちょっとだけ大人になったジークフリートが続きます。

これには私は度肝を抜かれました。何故なら鑑賞の前の日に丁度こんな会話をしていたからです。

  • 背景説明:最近オペラファンとして育成中の20代の女の子と(←強調!)ひとつソファに座って仲良く膝を並べて(←強調!)コペハンリング鑑賞をしているのである。いーだろー♪
  • 女の子「なんで小鳥は忘れ薬のときは教えてくれなかったんでしょうねー」
  • starboard「さあ?」
  • 女の子「あんなに助けてくれたのに。やっぱりおそれを知ったからですかあ?」
  • starboard「それは、やっぱりアレじゃね?女を知ったからじゃね?」
  • 女の子「・・・・(この人に聞いたのが間違いだった)」

いい感じにオチがついたところで*7、Act3はこちら

*1:それは比べる相手が悪い。

*2:ジークフリートの台詞に登場する父母やその他の登場人物を表しているらしいです。

*3:まともに立ち回りをする演出は意外とレアだと思いました。

*4:でも録音も含めて小鳥のディクションが理想の域に達しているのは触れたことがないので。まあそういう贅沢を言い出したくなるくらい良かったということで。

*5:全く発想がオヤジなんだから。

*6:Act3で分かるが消防服である。

*7:小鳥は元々ボーイソプラノとかそういうことを言い出しちゃ駄目。