トリイゾは、建前で読み解け!

お次は、パフォーマンス中に考えたストーリーのことなど。まず昼と夜ですが、これは日本人風に言うと、建前と本音ですね。いや、建前の方はかなり言い当ててるけど、本音ってのはちと違うな。want to be な自分と should be な自分と言うべきかな。んで、この話は一環してトリスタンが中心なんですね。彼の want to be な側面と should be な側面があって、それに感応して want to be な側面を引き出すイゾルデの存在があって、二人には分かるんだけど周囲には何言ってんのか分かんないという、そういうお話。でも最後は、幸せそうだからいいか、と近くにいるクルナヴェール辺りは思ったりする。そういう伝わり方もありかもね。

そんで、マルケ王はトリスタントリスタンばっか言ってて、「もうマルケたんたらトリスタン萌えなんだからー」とか茶化してみたくなるけど、この人の存在は何なんだって言うと、建前の世界からの見え方を体現する人。トリスタンはずっと建前で生きてきたから、それを見てきた人は当然それがトリスタンだと思ってる。彼の中では葛藤があって、(イゾルデに出会って)解放があって、すっかり納得してもうこれでいいやと思ってるけど、それは自己完結してて(いや二者完結か)、周囲の者にしたらさっぱり分からない。それを表現するのがこの人の役目です。

でもさ、マルケの台詞って聞いてたら、これじゃ若い嫁さん愛想つかして逃げちゃうのも当然でしょ、と思うくらいトリスタンしか見てない。まあ彼本人にしてみれば、ずっと知ってるトリスタンと昨日今日会ったばかりの女なんてそんなもんかもしれない。結構リアルかもしれない*1

というわけで、あんな媚薬なんてはじまり方をしておきながら*2トリスタンとイゾルデは現代的なお話だなあと思ったのでした。


最後にちと個人的な話。want to be な自分と should be な自分といえば、私にとっては古くからのトニオ・クレーゲル問題です。なんとなくそんな気がしてたんですが、たしかに私にとってはトリスタンに同化して感情移入しても可笑しくない要素がいっぱいありますね。これって、元々非常に激しいというか、生の自分を出したらドロドロになりそうで日常がままならなくなりそうで抑えて生きざるを得なかった種類の人間にとっては、非常にくる話でしょうね。今のところそこまでハマってなくて冷静なのは、トリスタン歌手でピッタリ来る人を聴いてないからでしょうか。

*1:でもやっぱ言うべきじゃないよな、大人なんだからさ。あ、浮気がバレた後だからそれでいいのか。

*2:でも実際聴いてみたら、媚薬も想像してたような荒唐無稽なものではなかったりした。