トリスタンとイゾルデ@びわ湖ホール

今週は、新国のフィガロ、アラベッラ、びわ湖ホールのトリイゾとオペラ三昧の日々でした。合間に仕事もして移動もしたのでblogを更新してる間がありません。

びわ湖ホールの大ホールは初体験でした。ちゃんと時刻表を確認しないでこのくらい前に行けばいいだろうと家を出たら乗り合わせが悪くて開演直後に到着するパターンになり、本来の席は3階席の舞台寄りだったのですが、一幕は前奏曲はロビーにて、その後にスタッフの案内で3階最後列の空席にて鑑賞し、二幕はさる方の志による1階後方列、三幕がやっと本来の座席の3階舞台寄りという、3幕バラバラのそれはそれで希少な鑑賞体験と相成りました。以下しばらくホールレポとなります。

3階最後列に収まって思ったのは、舞台が近くて前の席との段差が充分で見易いなあということ。舞台の使われ方が比較的こじんまりとしていて、手前の観にくい領域に全然入って来ないのでストレスが無いです。それに、歌手の立ち位置に関係なく音がクリアでムラがなくて、そして歌手の声が上から降ってくる感じでオケと被らないので、とても聴き易い。ふと見ると舞台上部には大きな反射板が吊られていまして、これはミラーになっていて二幕の逢瀬のシーンではイゾルデの真っ赤なドレスが映り込んだりして舞台装置の一部としても機能するんですが、そんな感じで、視覚・聴覚面合わせて、なかなか配慮が行き届いているなあという印象を受けました。このプロダクション、舞台装置なんかは予算が無いのか平面的ではっきり言ってチャチいんですけど、衣装なども含めて美術的なセンスという意味でもちょっとモサかったりするんですけど、鑑賞上のストレスによく配慮してあるという意味で、全体的にはかなり好印象のホール&プロダクションでした。ハイセンスとはほど遠いけど、分かりやすくて親切、目にも耳にも頭にも親切ですね。立地ともよく合ってて、よろしいんじゃないでしょうか。


以下さらっと演出概要。一幕はなにやら窓のある室内。と思ったらこれが船内のイゾルデとブランゲーネの居室と外の境界を表す壁の模様。この壁を越えた向こうがトリスタンとクルナヴェールのいる甲板。この壁が平面的なのはご愛嬌。これが回転舞台の中央に載っていて、ブランゲーネがトリスタンのところにお遣いに行くときだけ回転して向こう側を見せてくれる。たぶん古典的。でも違和感なく分かりやすい。後は特記することもなく、媚薬を飲むシーンで派手なことをしたりも無い。地味にライティングが動くくらいか。最後に合唱が雪崩れ込んで来るシーンは、数人ポロポロっと出てくるだけ*1。でもマルケ王は出てくる。イゾルデは青の光沢のある素材のドレス。赤い縁取りがアクセント。ブランゲーネはもっと地味な深い青系統のドレス。男性陣の服装は、普通に時代っぽいコートだったり。トリスタンが緑系で、クルヴェナールがグレー系で、マルケ王が茶系。

二幕は、一幕と使いまわしの壁が、今度はイゾルデのいる建物と外の境界を表し、松明が壁の外に掲げてある。逢瀬の場面になると一転して壁が取り払われ、ヴィーラント・ヴァーグナー張りの曲線が登場する。トリスタンとイゾルデが激しく抱き合ったりはなく、なんとなくつかず離れずのまま手を繋いだりしてるが、背景に黒い真丸なものが登場して、その周囲がまっ赤っ赤になるので、あーそういうことねーと思ったりする。メロートやらマルケ王やらが踏み込んでくる場面になるとその背景が破り去られて、黒い稲妻っぽい背景に変わる。やはり古典的だが不満は無い。衣装は、イゾルデのドレスが光沢のある赤になり*2、トリスタンがコートを脱いでるくらいの変化か。

三幕は、二階建ての上が牧童のいる外で、下がトリスタンの寝てる部屋。壁一面が本棚で手前にはベッドとピアノとソファ*3。壁に沿ってはしごがあり、登場人物はこれを使って移動する。船が近づいたときの陽気な音楽*4が終わってクルナヴェールがイゾルデを迎えに行ってしまうと、とち狂ったトリスタンがはしごを登って外に出てきて、このタイミングで舞台装置が下がって、以後は外(元牧童のいたエリア)が舞台になる。トリスタンが死ぬところは、二人がお互いに手を差し伸べ、いまひとつのところで触れ合えずにガクッ*5。イゾルデは座ったまま呆けてて、最後に歌い出すところまで大きな動きはない。愛の死は舞台中央で正面向いての王道スタイル。トリスタンは白の寝巻きに怪我をカバーする腹巻状のなんか。イゾルデも合わせて白いドレス。


んで、歌唱ですが、悪くはなかったです。ただ私的ヒットも無かった。イゾルデの小山さんがメゾなこともあって、私の苦手なソプラノっぽさが無くずっと心地よく聴けるのは良かった*6。トリスタンが、これまた苦手な バークなバイロイト風の 「うおおおぉぉ〜」って感じのテノールじゃないのは良かった。声自体は軽めで綺麗じゃないですかね*7。ただあんまはっきりしてない。何言ってるか分かんない部分も。主要ロールではこの人が一番声量が控え目だったんじゃないかと思うんですが*8、ただ3箇所で聴いた私として言っとかなきゃならないことがあって、一幕@3階後方ではよく聴こえてて、二幕@1階席ではなんだかはっきり聴こえなくて「弱い?さっきは出番が少ないから集中出来たのかしらん?」と思って、三幕@3階舞台寄りに行ったら一幕と同じ調子で聴こえてきてて、こんなことあるんだなーと思ったことを報告しときます。声質なんですかね。もしかしたら、1階席で聴こえる状態が普通のホールの状態で、3階がびわ湖ホールならではの工夫の範疇なのかもしれません。この公演NHKの収録が入ってたんですが、録音ではたぶんよい状態で入るのではないでしょうか。あとはみんな立派に役を務めてたと思います、ホント。そつが無くて書くことがないよ。

指揮とオケがわたし的にはいまだにどうかなーと思ってるところで、最後まで破綻無く立派に終えたということでは評価すべきなのでしょうが、ただ、全然後に残らなかったんだよなー。トリイゾって録音で聴いてもしばらく後を引くのが常なんで、あれれれっ?と思った。官能的と思った瞬間はなかった気がする。あの楽譜でそれってまた逆の意味ですごい気がする。個々の音的にも、私の好きな音をくれるタイプのオケでは無いようだ。

カーテンコールでは小山さん人気がすごいと思ったなー。ブラーヴァの雄たけびが飛んでた。トリスタンと並んで一緒に出てるのにブラーヴァかよとちょっと思った。大人げない*9

とりあえず見に行けなかった方は、NHKの収録が放出されるのを楽しみに待ちましょう。会場にいっぱい収録してますって紙が貼りまくられてアピってあったよ。

2010年10月16日(土) 開演:14:00 びわ湖ホール大ホール
沼尻竜典オペラセレクション
R.ワーグナー作曲 《トリスタンとイゾルデ》(全3幕)
指揮:沼尻竜典
演出:ミヒャエル・ハイニケ(ケムニッツ歌劇場オペラ監督)
出演:
小山由美(イゾルデ)
ジョン・チャールズ・ピアース(トリスタン)
松位 浩(マルケ王)
石野繁生(クルヴェナール)         
加納悦子(ブランゲーネ)    
迎 肇聡*(メロート)
清水徹太郎*(牧童)
松森 治*(舵手)
二塚直紀*(若い水夫の声)
         *印はびわ湖ホール声楽アンサンブル
合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル ほか
管弦楽大阪センチュリー交響楽団
舞台装置/衣裳/小道具:ケムニッツ歌劇場(ドイツ・ケムニッツ市)

*1:だからコストカットのため合唱の殆どを省略したのかと思ってたら、最後カーテンコールではいっぱい出てきてた。

*2:さきほどのドレスの縁取りの色でもあり、その下に履いてたアンダースカートの色でもあり。

*3:このピアノは一幕にもあった。ソファもかも。やはりコストかけてない印象だが、それでいいと思う。

*4:ここ大好きなんです。

*5:コペハンリングっぽい。ところでリングに何故そんなシーンがあるかは観てのお楽しみ。

*6:誉めてるのか分からん。←誉めてます。

*7:これまたヘルデンテナーにそれって誉めてるのか分からん表現ですが、誉めてます。

*8:他はオール日本人キャストでした。よくやった!!!と言うべきか?

*9:いや、ここはいい年こいたおっさんがお気に入りの女声歌手に歓喜してる様を思い浮かべつつ可愛いと思ってあげるべきなのだろうか。