トリスタンとイゾルデ@DKT/詳細版(3)

さてDKTトリイゾレポの続きです。(1)(2)はこちら。

一幕の続きは何から書こうか。やっぱトリスタンが出てきて以降はトリスタン一色になって、指揮に微違和感とかイゾルデが単調とか、んなことは全てどーでも良くなってしまいました*1

先に録音を聴いていて、一幕のトリスタンはいつもの彼よりも声の重心がさらに低く、イゾルデとの問答なんて、まるで別人のように聴こえる箇所があることを知っていたので、思いっきり期待度マックス状態です。この別人に聴こえるってのは、最初聴いたときは本当に吃驚して、急に不調になって声出なくてカバーが声を出したのかと思って肝をつぶしたくらいです。しかも私は「何故カバーがバリトンなんだ?」と思ってしまった!おかしいでしょう。幸い録音なので聴き直して安心出来たのですが。

さて、それだけ期待が上がっているとよくあることですが、ファーストインプレッションで不意打ちで強くなにかを感じて、ところがそれを期待して待ち構えていると感じられなくて焦るということはよくあるかと思うんですが、それもちょっとは覚悟してました。しかし、またもや外されてしまいました。今回は、声がどうのこうのなんて意識出来ないくらい、なにか、トリスタンの感情がダイレクトに飛び込んで来て、胸が締め付けられるのです。

一幕のトリスタンは、字面を見る限り分かりやすい人間ではないと思います。私のトリスタン理解は以前書いた通りですが、さすがに発見時の感情のままに書いてて読みにくいし表現が恥ずいので改めて書き出しておきます。

右舷日記的トリスタン・その1*2
彼は周囲の期待を読んで自分の行動を決めるタイプの人間で、そのため上からも下からも信頼されているが、彼自身が思うように行動することはない。それは彼が自分を抑えてそうしているのではなく、そもそもそうしてよいものだという発想がない。それは彼の生い立ちに由来している。つまり幼少時に愛や信頼に満たされた経験がなく、自分を出すことを知らないのである。しかし物語が進むと明らかになるが、彼は深く愛されており、彼が好かれる理由である「信頼」を(本人には責のない理由ではあるが)破ってもなお愛されていた*3。それでもすれ違ってしまうところにこの物語の悲劇がある。

私はこれをアナセンが歌うのを聴いて逆読みしてイメージしたんですよ。つまり、こういう人間はどう振舞うのかということを彼が歌に反映して、私がそれを聴いて、こう振舞う人間の内面はこうであると逆読みしてトリスタン像を作ってるんです。だからこれ、この物語に普遍的なものであるのか分かんないです。結構自分が投影されてる気もします。

潜在的にはイゾルデが好きなんだけど、だからどうしようという発想がないトリスタンが、一心にイゾルデを見つめ、イゾルデからの要求をはぐらかして、とうとう直接対決が避けられなくなって、それでもはぐらかそうとして、「花嫁からは離れているものだ」と言ってみたり、モロルトの名を出されてついカッとしたり、とうとう死の酒を飲むことになって半ば強制的に(自発的にではなく、そうした状況に追い込まれて初めて)感情を放出して・・・・という一連がダイレクトに伝わって来るんです。何故そんなことが起きるのかは私には分かりません。私は人の表情を読んでこういうことを感じる力は昔から強い方だと思うけど*4、声から感じるというのは意識したことはありません。

だから今回はトリスタンが宣言をするまでが胸にギュっと来て、媚薬を飲むまでがクライマックスでした。マンの言う通りです。その後はよく覚えていないのですが、例の音楽の箇所は照明が変わるくらいで、その後も2人の接触としては控え目だったと思います。いやもしかしたら標準と比べると控え目じゃなかったかもしれないけど、なんせDNOの映像が強烈だったので。あのときみたいな満面の笑みで抱きついて離れないみたいなことはしてなかった*5

あとは、イゾルデが杯を奪って口を付けるシーンではブランゲーネがマンガのように張り付いてギョッてしてました。合唱は、Operaenは客席の一番上にさらに1階分スペースがあるのですが、ここから歌われました。これは2階で聴くと方向がよく分かりましたが、1階で聴いていると「え?なになに?どこから音してるの?」という感覚でした。

では本日はここまで。

追記/続きはこちら → トリスタンとイゾルデ@DKT/詳細版 (4)

*1:あ、フェアじゃないので書いておきますが、私が不満を長々と書くときは5段階評価の4みたいなときで、もっと不満だと一言で斬って捨てるかスルーになりますから、不満に度々触れてるのは、必ずしも悪いことを意味しませんので、念のため。「重要だが惜しい」くらいのときに一番長く言及します。

*2:ということは「その2」があるってことです。

*3:この関係は「条件付きの愛」ではじまった関係が時間を共有することによって「無条件の愛」に到達する示唆になってて、結構お気に入りです。

*4:知りたくないのに読んでしまって後悔するので、あまり嬉しくない能力です。

*5:ということで、アレ演出家の指定やったんかー!てっきりアナセンが勝手にやってるのかと思ってたー!という発見もございました。だってあんなのアナセン以外の誰がやるってシーンじゃないですか。マペット人形のようなデカ口がパカッと割れて満面の笑み。どうでもいいが50代の頃の映像はやっぱ変だな。体型も超絶バランス悪いし。今回の記憶の方がずっとマシなような?脳内美化フィルター?本当にマシになってる?