ランゴー:アンチキリスト

GW中に1本くらいは積聴DVDを消費したいということで、これを選びました。こんな日本中で何人持ってる奴がいるんだってものをレビューしてどうすんだって感じですが。

Rued Langgaard: Antikrist [DVD]
Thomas Dausgaard
Danish National Radio Symphony Orchestra
Camilla Nylund, Susanne Resmark, Helen Gjerris, Poul Elming, Sten Byriel
Staffan Valdemar Holm

実はこの作品、DVDとCDが両方リリースされてます。Dacapo*1張り切り過ぎです。でも気持ちは分かります。とにかく演奏が素晴らしい。一年前に買って積んでおいたので、なんで買ったのかも忘れてて予備知識無しで見始めたのですが、そしたら冒頭になんか見覚えのある顔が出てきたわーと。しかも妙に若い?ダウスゴーではあーりませんか。それで思い出したけどダウスゴーって見た目若くないですか。いやいくつなのか知らんけど。仕方無い、調べてみよう。1963年生まれ。2002年には40前だからそりゃ若い筈だ。まあ冒頭の一瞬しか出てこないけどね。でもサウンドは本気でいい。なんて素晴らしい音が出るんだ。ダウスゴー&DR放送響偉い。

これは私の知ってる中では一番古いDKTのオペラDVD作品ですが、どういう経緯でこれがDVD化されたのか分かりません。2002年の舞台ですからもっと古い映像作品があってもいいような気がするんですけど*2、情報が残ってないだけなのか国内盤しかないから追跡出来てないのか。DKTの売店で国内盤が買えるんじゃないかと期待してたんですが、あそこ超新しいのしか無かったんですよね。というわけで、いまのところ旧劇場でのオペラ舞台が映像で楽しめる唯一の作品となっています。

さて作品の方はというと、これはオペラじゃありません。オペラとして作られた作品でないことはすぐ分かります。形式が、プロローグ+6場+フィナーレで、各シーンにつきソリストが一人(たまに複数)で歌う形式で、それも通したストーリーがあるわけではなくオムニバス形式で計10人のソリストが順番に歌うといったものです。一度登場した人が再度出てくることも原則ありません、最初と最後に言葉を発する神の声を除いて。オラトリオとして、演技を伴わずに演奏することを意図された作品です(作曲は1920年代)。元々そのような作品だったものを舞台化して視覚を付けるという実験的な位置付けになっています。誰も聞いちゃいないと思いますが一応書いておくと、ホルテンがチーフディレクターになって最初かその次のシーズンに企画した作品です。

元々ソリストが次々と入れ替わり歌う形式だったものを、この舞台化ではある教会の中の出来事として全ソリストが通してその場に居合わせるものとして構成しています。アンチキリスト者である大口叩き、絶望、偉大な売春婦、嘘つき、憎悪といったキャラクターが順番に主役を演じ(と言っても宗教的オラトリオなんで台詞は抽象的なわけですが)、他の人物は関与者のような傍観者のような役割を与えられます。聞いてるだけでは分からなくなりがちなこの作品を誰が観ても分かるものにしたという意味ではたいへんよく出来ていると思います*3

この作品、音楽の映像化という意味で非常にぴったりで素晴らしく、ここまで映像が合うのは小気味良くもあります。ライティングもシンプルだけど効果的で、総合的に「音楽の映像化」として成功しています。加えて音楽の特徴として色彩感豊かなロマンティックとでも言える性質があって、宗教的意味とは別に綺麗な音楽としてもいいというか、CDとDVDを両方リリースしたい気持ちも分からんではないです。

ソリストもみんな良くて、特に大口叩きのエルミングと嘘つきのジョニー・ヴァン・ホルは非常にコンディションがいいと思いました。エルミングについては私は最後期しか知らなかったのと、ヴァン・ホルに関してはタンホイザーの予告で一瞬おっと思っただけで後は録音でも実演でもずっと失速しっ放しだったのですが、この公演では声もよく出ていて存在感があっていいと思いました。あと昨年バタフライで素晴らしかったアン・マルガリーテ・ダールはここでも素晴らしかったー。美しい声とニュアンス。この公演のソリストはみなレベル高いです。かなりお薦めです。

それに、なんと言ってもルシファーのビリエルさんが格好いい。何がいいって、顔が。もちろん声もいいけど、声はいつものことだから置いといて*4、ビリエルさんて大体変な格好で出てくるじゃないですか。顔にすごい塗りとかハゲ鬘とかバーコードとかお腹に詰め物とか。まあバスだしバスだしバスだし。今回はそういう役じゃないので、普通に素顔なので(?)格好いい。自前の銀髪カールヘアを伸ばされたのか、長めの前髪が溜まらん。本当は全身バランスで見ると、外人にしては顔がデカいんですけどね。でも顔をアップで見るにはいいのさ。年をとって顔を短めにした*5デビット・ボウイ(変な化粧抜き)みたいで。帽子の跡の付いた髪とか、微妙に不器用そうな動き方もツボである*6。脈絡なくなってきたのでレビューとしてはこの辺にて。

*1:リリース元のレーベル。デンマーク作品のリリースに力を入れている。

*2:TV放映は毎年のようにあったわけだがあのDVDはないのか。ビデオテープでも歓迎。情報求む。

*3:実は別にランゴーの作品があって、そっちもアンチキリストがテーマの声楽曲なのだが、そっちは最後の審判の前に現れる反キリスト者を描いていて、ずっとそのエピソードを描いていると思って観ていて、「いつあの人出てくるんだろう」と思っていたのは内緒である。

*4:本当はこの公演ちと調子悪かったんじゃないかと思う。いつもに比べると、声の艶と深みが足りない。バスなのに艶のある高音が溜まらんのだが。

*5:ところで私がいいと思う顔は、平均よりも顔の縦横比が丸顔よりのポイントにツボがあるようだ。

*6:大体あんたはそういう無自覚そうなタイプが大好きよね。